本ブログの以下の記事で書いてきたが,Shakespeare が most unkindest cut of all (JC III.ii.184) のような,現代の規範文法では破格とされる2重最上級(および2重比較級 (double_comparative))を用いたことはよく知られている.実際には,Shakespeare がこのような表現をとりわけ頻用したわけではないのだが,使っていることは確かである.
・ 「#195. Shakespeare に関する Web resources」 ([2009-11-08-1])
・ 「#3615. 初期近代英語の2重比較級・最上級は大言壮語にすぎない?」 ([2019-03-21-1])
・ 「#3619. Lowth がダメ出しした2重比較級と過剰最上級」 ([2019-03-25-1])
では,Shakespeare は他のどのような2重比較級・最上級を使ったのか.Crystal and Crystal (88) が代表的な例を列挙してくれているので,それを再現したい.
[ Double comparatives ]
・ more better (MND III.i.18)
・ more bigger-looked (TNK I.i.215)
・ more braver (Tem I.ii.440)
・ more corrupter (KL II.ii.100)
・ more fairer (E3 II.i.25)
・ more headier (KL II.iv.105)
・ more hotter (AW IV.v.38)
・ more kinder (Tim IV.i.36)
・ more mightier (MM V.i.235)
・ more nearer (Ham II.i.11)
・ more nimbler (E3 II.ii.178)
・ more proudlier (Cor IV.vii.8)
・ more rawer (Ham V.ii.122)
・ more richer (Ham III.ii.313)
・ more safer (Oth I.iii.223)
・ more softer (TC II.ii.11)
・ more sounder (AY III.ii.58)
・ more wider (Oth I.iii.107)
・ more worse (KL II.ii.146)
・ more worthier (AY III.iii.54)
・ less happier (R2 II.i.49)
[ Double superlatives ]
・ most boldest (JC III.i.121)
・ most bravest (Cym IV.ii.319)
・ most coldest (Cym II.iii.2)
・ most despiteful'st (TC IV.i.33)
・ most heaviest (TG IV.ii.136)
・ most poorest (KL II.iii.7)
・ most stillest (2H4 III.ii.184)
・ most unkindest (JC III.ii.184)
・ most worst (WT III.ii.177)
このなかで more nearer の事例はおもしろい.語源を振り返れば,まさに3重比較級 (triple comparative) である.「#209. near の正体」 ([2009-11-22-1]), および「英語の語源が身につくラジオ (heldio)」より「near はもともと比較級だった!」をどうそ.
・ Crystal, David and Ben Crystal. Shakespeare's Words: A Glossary & Language Companion. London: Penguin, 2002.
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