現代英語で 5W1H といえば代表的な疑問詞の通称として知られている.who, what, why, when, where, how の六つを指すが,疑問詞としては他にも whose, whom, which, whence,whither があるし,古くは whether も疑問詞だった.
wh- が「疑問」を表す形態素であることはわかるが,その後に続く部分はそれぞれ何を意味するのだろうか.また,how だけが h- で始まっているのはどういうわけだろうか.
まず最初の問題.疑問詞のうち what, whose, whom, why に関しては,実は who の屈折形にすぎない.古英語 hwā の屈折表を参照.
| 男・女性 | 中性 |
主格 | hwā | hwæt |
対格 | hwone | hwæt |
属格 | hwæs | hwæs |
与格 | hwǣm | hwǣm |
具格 | --- | hwȳ |
現代にまで生き残っていないのは,男・女性対格の
hwone だけである.
その他の疑問詞についても,
wh- に後続する部分は特定の意味をもつ.
which は 「who + like ("body")」の縮まった形態,
when は「?のとき」(cf.
then ),
where は「?の場所で」(cf.
there,
here ),
whence は「?の場所から」(cf.
thence,
hence,
once ),
whither は「?の場所へ」(cf.
thither,
hither ),
whether は「二つのいずれか」(cf.
either ) である.
次に
how だけが
h- で始まるという問題について考えよう.古英語の屈折表を見てわかるとおり,古英語では疑問詞は
wh- ではなく
hw- で始まった.しかし,中英語期になって,<wh> というフランス語の綴り字習慣が英語にも取り入れられ,古英語に由来する <hw> は軒並み <wh> とひっくり返して綴られるようになった.
一方,
how は本来
hwū という形態だったが,古英語ではすでに /w/ が失われつつあり,
hū となっていた.ここではひっくり返されるべき <hw> の綴りがそもそも存在しなかったわけであり,中英語期のフランス語の影響によって *
whow などととなることはなかったのである.
以上からわかるとおり,本来,疑問詞はすべて
h(w)- で始まっていたのであるから,「5W1H」ではなく「6H」と呼ぶべきかもしれない.あるいは,
how のほうがある意味で由緒正しい綴り字を保っているということで敬意を表して(?),「1H5W」としてあげるのも一案かもしれない.
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