hellog〜英語史ブログ

#451. shallwill の使い分けに関する The Wallis Rules[prescriptive_grammar][auxiliary_verb][wallis][tense][future]

2010-07-22

 現代英語の助動詞の用法のなかでもとりわけ面倒なのが shallwill である.しかし,文法書ではこれらの助動詞の使い分けは明記されており,規範文法の典型的な項目とも言える.このルールを制定したのは17世紀の規範文法家 John Wallis である.Wallis ( 1616--1703 ) は,1653年に出版したラテン語による英文法書 Grammatica Linguae Anglicanae のなかで,次のような使い分けを定式化した.現代に至るまで影響力を保ち続けているこのルールは The Wallis Rules と呼ばれている ( Brinton and Arnovick, p. 370--71 ) .

to promise:to question determination/obligation:
I will (go)We will (go)Shall I (go)?Shall we (go)?
You shall (go)You shall (go)Will you (go)?Will you (go)?
He/she/it shall (go)They shall (go)Shall he/she/it (go)?Shall they (go)?
to predict:to question prediction:
I shall (go)We shall (go)Will I (go)?Will we (go)?
You will (go)You will (go)Shall you (go)?Shall you (go)?
He/she/it will (go)They will (go)Will he/she/it (go)?Will they (go)?


 shallwill が人称,用法,平叙・疑問に応じてみごとな相補分布 ( complementary distribution ) をなしていることがわかる.一見すると混乱しそうだが,相補分布に整理された体系なので眺めていると理解できる.だが,言語は体系的であるとはいいながらも,ここまで合わせ鏡のようにうまくできているのはいかにも人工的という感じがする.言語体系の合理性 ( reason ) と透明性 ( transparency ) を信じ,それを獲得するために類推 ( analogy ) を適用した Wallis のルールは,17,18世紀の規範文法家の典型的な思考回路を表している.
 The Wallis Rule は現代英語でいまだ影響力があるとはいっても,それは規範文法の話で,実際上は shall の使用は衰退してきている.特にアメリ英語では消えかけているといってよい.shallwill に関連する話題は,[2010-03-21-1], [2010-02-22-1]にもあり.
 ちなみに,Wallis は無限記号∞を考案し,二項定理や微積分の基礎を築いた,Newton 以前の英国最大の数学者である.

 ・ Brinton, Laurel J. and Leslie K. Arnovick. The English Language: A Linguistic History. Oxford: OUP, 2006.

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