hellog ラジオ版の第8回目として,英語(史)の専門家にも意外と知られていない事実を紹介します.前回の第7回 ([2020-07-15-1]) でも実は少し触れたのですが,今回は詳しく取り上げます.
現在,世界の約20億人によって話されるともいわれる lingua franca たる英語.現代における威信が注目されるあまり,その最古の姿がいかなるものだったかについては関心をもたれません.しかし,調べてみるとメチャクチャおもしろいのです.英語の現存する最古の証拠の1つに "Undley bracteate" があります.これは1982年に Suffolk の Undley で発見された直径2.3cmの金のメダルに付けられた名前で,年代は紀元450--80年のものとされます.メダルの円周に沿って,ルーン文字で反時計回りに,つまり「右から左に」書かれています.まさにロマンを掻きたてるメダルです.
実におもしろいでしょう."gægogæ mægæ medu" とは何なのか? 呪文? 祈祷? 無味乾燥な散文? 今を時めく英語という言語が,いわば少数民族の言語だった最初期の時代の証拠です.
関連する記事を挙げておきましょう.ぜひ##572,1435,1453の記事セットをじっくりご覧ください.
hellog ラジオ版の第7弾.当たり前すぎて,むしろほとんど誰も問わないのではないかという素朴な疑問ですが,よく考えると眠れなくなるほど不思議です.
日本語は伝統的に縦書きなので,私たちは,まずもってなぜ英語は横書きなのかという疑問を抱いてしかるべきです.百歩譲って横書きを容認するにせよ,次になぜ右から左ではなく左から右なのかという疑問が浮かんできます.というのは,過去にも現在にも,右から左に書く習慣をもつ書記体系がいくらでも存在するからです.
上記は取りとめもない疑問のように思いますが,これが実に奥深いのです.ということで,手軽な音声コンテンツを心がけると宣言しながら,10分を超える録音になってしまいました.ですが,ぜひ聴いてください.なんと最古の英文は右から左に書かれていたという,驚くべき事実があるのですから!
いかがでしたか.縦書きか横書きか,横書きだとしたら右から左なのか,左から右なのか.これは相当におもしろい問題です.
音声の後半で触れましたが,日本語にも戦前から戦中にかけて右から左への書字方向があり得ました.ここには興味深い社会言語学的な背景があったのですね.
種々の論点を含めて,関連する記事を挙げておきましょう.関心のある方は##572,2448,2449,2482,2483,2688の記事セットをご一読ください.英語史や言語学では,当たり前のことを掘り下げていくのが最もおもしろい,ということが分かったかと思います.
hellog ラジオ版の第6弾.非常によく尋ねられる素朴な疑問です.確かに go と went では重なるところがまったくないわけで,頭の上にハテナが飛ぶのは無理もないところです.まずは,こちらを聴いてください.
音声でも触れているように,go のような「超」のつく高頻度語には,補充法 (suppletion) をはじめ,とかく不規則なことが起こってしまうものです.これは古今東西の言語で普遍的にみられる現象といえます.
ということは,残念ながらどんな語学も学び始めの時期がとりわけキツいということになります.初級段階でこそ,go -- went のような理不尽な暗記項目がやたらと出てくることになるからです.
では,このようなことがどの言語にも普遍的にみられるというのは,なぜなのでしょうか.その議論も含め関連する記事を集めてみました.関心のる方は##43,1482,764,67,2600,2090,765,3254,694の記事セットをご覧ください.深い(社会)言語学的な背景があることがわかるかと思います.
hellog ラジオ版の第5弾.不規則動詞に関する素朴な疑問は多く寄せられますが,そのなかでも標題の put のような無変化の動詞は,とりわけ異端な雰囲気を放っています.英語には過去形や過去分詞形などいろいろとうるさい変化があって,そのポイントは,原形(現在形)と異なっている点にあったはず.それなのに,なぜ変化しないのか,と二重の憤りをもって突っ込みたくなる気持ちはわかります.
みなさんも put をはじめ,このような異端な動詞をいくつか暗記してきたはずです.put, cut, hit, hurt, let, set, shut, etc. しかし,これらの共通点について考えた人は少ないのではないでしょうか.わりと日常的な動詞が多いという点には気づくと思いますが,音韻形態的な共通点についてどうでしょうか.何となく分かってきましたか? では,音声をどうぞ.
じっくり文章で読んで理解を深めたい方は,ぜひ##1854,1858,3777,3339の記事セットをご覧ください.
日曜日なので気軽に英語史ネタを.ということでhellog ラジオ版の第4弾です.今回は学校文法でも必ず習う,現在完了形と yesterday のような時の副詞との相性の悪さについて,なぜなのかを考えてみました.
英語の(現在)完了というのは,イマイチ理解しにくい文法事項の代表格ですね.現在完了は「?した」とか「?してしまった」と訳すことが多いので,過去と区別がつきにくいのですが,両者は時制・相としてまったく異なるのだと説諭されるわけです.だから,過去の世界に属する yesterday のような時の副詞は,現在完了と同居してはいけないのだと説明を受けるわけですが,やはりよく理解できません.
この問題は,理論的にも厄介で "Present Perfect Puzzle" とも呼ばれています.私たちがピンと来ないのも無理はないといえます.今回の音声でも,スッキリと解決ということにはなりませんので,あしからず.その上で,以下の音声をどうぞ.
今回の内容を含め,そもそも完了形とは何かという問題について詳しく知りたいという方は,ぜひ##2633,2492,2749,534,2750,2763,2747,2490,2634,2635の記事セットをご覧ください.
hellog ラジオ版の第3弾.英語を学んでいる多くの大学生からも質問自体がなるほどと思った,というコメントが寄せられた興味深い素朴な疑問です.私たちは <qu> のスペリングには読むときにも書くときにも頻繁に触れているわけですが,あまりに慣れすぎているために,<q> の後にはほぼ必ず <u> が続くというこの事実に,意識的に気づいたことがあまりなかったのだろうと思います.
6分間の音声にまとめました.以下からどうぞ.
今回は /kw/ という子音連鎖を表わすのにどのようなスペリングをもってするかという話題でしたが,/k/ という1つの子音を表わすにも,英語には <q(u)> だけでなく <c> もあれば <k> もあり,意外とややこしいことになっています.この発展的な問題も含め,今回の内容を文章でじっくり読みたいという方は,ぜひ##3649,1599,2249,2367,1824の記事セットをご覧ください.
今回の疑問のように,当たり前すぎて見過ごしてきた事実は意外に多いものです.このような疑問を発掘するのも,楽しい知的作業です.
「手軽に英語史を」というコンセプトで,オンライン授業期の副産物に頼りつつ,戯れに始めている hellog ラジオ版の第2弾です.
今回は「疑問詞は『5W1H』といいますが,なぜ how だけ h で始まるのでしょうか?」という疑問に迫ります.短く収めようと思いつつ話し始めたら止まらなくなって7分17秒に・・・.お手軽感が減じてしまったので,少々ご注意ください.
文章でじっくりと復習および深掘りしたいという方は,ぜひ 関連する##51,3945,184の記事セットをご覧ください.
今回の回答で披露したような「非常識」な視点,つまり現代的な観点からは少数派の 1H が変なのではなく,むしろ 5H こそが変なのだという逆転の発想こそが,英語史のの学びの醍醐味です.今日の常識は昨日の非常識,今日の非常識は昨日の常識.英語史を学んでいると,次々と目から鱗が落ちてきます.
先日披露した hellog ラジオ版の第1弾は「#4075. なぜ大文字と小文字があるのですか? --- hellog ラジオ版」 ([2020-06-23-1]) でした.ぜひそちらもお聴きください.
昨日の記事「#4074. 「素朴な疑問」にひたすら音声で答える英語史の講義を行ないました」 ([2020-06-22-1]) で予告したように,恥を晒して「hellog ラジオ版」をオープンします.
初回となる今回は「なぜ大文字と小文字があるのですか?」という疑問に答えます.2分20秒ほどの音声 (mp3) によるお手軽な話題です.以下よりどうぞ.
皿洗いをしながらでも気軽に聴けるようなコンテンツかと思います.とはいっても,完全な聞き流しをするには濃密なコンテンツかもしれません.深く知りたいと思ったら,やはり文字情報がベストです.じっくりと文章で読みたい方は,hellog より##1309,3668の記事セットをご覧ください.
今後たまに発信していく予定の「hellog ラジオ版」では,新しい話題を提示するというよりも,すでに hellog 本体で扱ってきた話題へと誘う「入り口」を提供することを意識していきます.各メディアの特性を活かして,皆さんの英語史への好奇心を掻き立てることができればと思います.
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