hellog〜英語史ブログ     ChangeLog 最新     カテゴリ最新     前ページ 1 2 3 4 5 / page 5 (5)

preposition - hellog〜英語史ブログ

最終更新時間: 2024-12-23 11:02

2012-07-20 Fri

#1180. ロマンス系比較級と共起する比較基準の前置詞 to [preposition][comparison][loan_word]

 石崎陽一先生のアーリーバードの収穫の記事で,興味深い問題が取り上げられていた.prefer という動詞には比較の基準を表わす前置詞として than ならぬ to が用いられる.同様に,similar, equal, preferable, superior, inferior, senior, junior, prior, anterior, posterior, interior, exterior, ulterior などのロマンス系の形容詞にも,比較基準の前置詞として to が用いられる.特に -ior をもつ語は意味的にも形態的にも比較級に相当するにもかかわらず,than ではなく to が伴われる.これには何らかの理由があるのか.歴史的に説明されうるのか.
 まず考えられるのは,superior, senior, prior 等のロマンス系の語は,確かに語源的に比較級の接尾辞をもっているとはいえ,共時的にはそのように分析されておらず,あくまで語彙化したものとしてとらえられている.これらの語は,接尾辞 -er の付加や more の前置により生産的に形成される比較級表現とは異なるものとして mental lexicon に格納されているのではないか.than と構造をなすのは後者の比較級表現だけであり,前者とは結びつかない規則が発達してきたということかもしれない.前者は,むしろ前置詞 to の「比例」「対応」「一致」といった用法の延長線上にある「比較」の用法と結びついてきたように思われる(現代英語の A is to B what C is to D, in proportion to, comparable to, according to, equal to などの表現を参照).
 この問題に迫るに当たって,まず OED を調べてみた.to の語義 A. VI. 21b として,廃用ではあるが,比較級とともに用いられる用法があったと記述されている.中世から近代まで,まばらではあるが than の代用としての例が挙がる.
 次に,MEDto (prep.) を調べた.語義23に,比較級において than の代替表現として to が使用されている例が3つほど挙げられている.特に借用語の形容詞・副詞に限定されているわけではなく,than のマイナー・ヴァリアントと考えられる.いずれも後期中英語からの例だ.
 中英語の状況をもう少し詳しく調べようと,Mustanoja (411--12) に当たると,次のようにある.

Closely connected with this use ['in respect to'] is the occurrence of to in the sense 'equal or comparable to:' --- was þere non to his prowesse (KAlis. 6538). This provides a basis for the use of to with the comparative degree, in the sense 'than:' --- nys none of wymman beter ibore To seint Johan þe baptyste (Shoreham i 590); --- another Decius, yonger to hym (MS Harl. 2261, fol. 225). Cf. present-day inferior to, superior to.


 比較級とともに用いられる to についての関連する言及は Mustanoja (284) にもあるが,OED, MED の記述と合わせて,少なくとも中英語以降に関しては,それほど目立った用法ではなかったようだ.歴史的に比較級とともに用いられてきた前置詞(あるいは接続詞)は,原則として,than だったといってよいだろう(than の語源については,[2012-02-29-1]の記事「#1038. thenthan」を参照).現在でも than は,原則として,用法が比較級表現に限定されており,統語構造の構成要素としての役割が大きい.このような職人気質の than にとって,superior, senior, prior は(語源的には同じ「比較級」とはいえ)少々異質なのではないだろうか.もっとも,議論はそれほど単純ではなく,inferiour . . . than などの例は歴史的に確認されるのではあるが(OED "than, conj." の 2.b を参照).
 than の比較以外の用法については,[2011-05-04-1]の記事「#737. 構文の contamination」の (2), (6) も参照.

 ・ Mustanoja, T. F. A Middle English Syntax. Helsinki: Société Néophilologique, 1960.

Referrer (Inside): [2013-12-13-1]

[ 固定リンク | 印刷用ページ ]

2012-07-04 Wed

#1164. as far as in me lies [idiom][preposition][chaucer][impersonal_verb]

 Chaucer の The Canterbury Tales より,The Parson's Tale を読んでいて,次の箇所で立ち止まった(Riverside版より).語り手である教区主任司祭が,呪いの悪徳について説いている箇所である.

And over alle thyng men oghten eschewe to cursen hire children, and yeven to the devel hire engendrure, as ferforth as in hem is. Certes, it is greet peril and greet synne. (l. 621)


 引用の赤で強調した as ferforth as in hem is という副詞節の意味がわからない.参照した翻訳はいずれも「できる限り」と訳出しているが,なぜそのような意味が出るのかが不明だった.そこで,一緒に読んでいた仲間と考えたり調べたりしていたが,一人が,これは現代英語の as far as in me lies なる慣用表現に相当することを突き止めた.これは,"as far as lies in my power" とも言い換えられ,つまるところ "as far as I can", "to the best of my ability" ほどの意味であるということだ.大英和辞典には載っているし,『NEW斎藤和英大辞典』にも「及ぶ限り力を尽そう」に対応する I will do all that in me lies. というような類例が見つかる.ただし,Chaucer の例文に見られるような中英語の構文は,人称主語が立っておらず,非人称構文とみなすべきだろう.
 OED では,lie, v.1 で語義 12c. のもとに次のようにある.初例はc1350.

to lie in (a person): to rest or centre in him; to depend upon him, be in his power (to do). Now chiefly in phr. as far as in (me, etc.) lies. Also, to lie in one's power, to lie in (or †on) one's hands.


 MED では,lien (v. (1)) の語義 11(c) のもとに,"~ in, to be within the bounds of possibility for (sb., his power, his knowledge, etc.);" とある.MED から集めた関連する例文を挙げよう.lie の代わりに be が使われているものも少なくない.

 ・ (1433) RParl. 4.423a: My Lorde of Bedford..be his grete wisdome and manhede..hath nobly doon his devoir to ye kepyng yerof..as ferforth as in hym hath bee.
 ・ (1447) Reg.Spofford in Cant.Yk.S.23 290: Ye shall..trewlie serve all the kynges writtes als ferforth as hit shall be in your konnyng.
 ・ (?a1450) Proc.Privy C. 6.319: Ye shall swere þat, as ferforth as in you shall be, ye aswell in visityng and overseeing as in writing and subscribing of billes, the articles abovesaide and eueriche of þeim that touche ye shall trewely justely and faithfully observe.
 ・ a1450(?c1421) Lydg. ST (Arun 119) 2366: As ferforth as it lith in me, Trusteth right wel 3e shul no faute fynde.
 ・ a1500(a1450) Gener.(2) (Trin-C O.5.2) 3109: It lithe in me The Sowdon to distroye.


 この前置詞 in の用法は内在・性格・素質・資格とでも呼ぶべき用法で,現代英語では次のような例文で確認される.

 ・ in the capacity of interpreter = in my capacity as interpreter (通訳の資格で)
 ・ He had something of the hero in his nature. (彼には多少豪傑肌のところがあった.)
 ・ He doesn't have it in him to cheat. (彼は不正をするような人ではない.)
 ・ I didn't think he had it in him (to succeed). (彼にそんな事ができるとは思わなかった.)
 ・ He has no malice in him. = It is not in him to be malicious. (彼には意地悪なところがない.)
 ・ I have found a friend in him. (私は彼という友を見出した.)
 ・ Our country has lost a great scholar in Dr. Fletcher. (我が国はフレッチャー博士という大学者を失った.)
 ・ I have tried every means in my power. (力に及ぶ限りの手段を尽した.)

[ 固定リンク | 印刷用ページ ]

2012-03-30 Fri

#1068. choose between war or peace [conjunction][corpus][bnc][preposition]

 ある英文を読んでいて,the choice is between rhyme or prose という句に出くわした.between には等位接続詞 and が期待されるところだが,choice の語感に引きずられて or が使用されているものらしい.ジーニアス大辞典では,この用法について以下のように触れられている.

1(3) between 1980 to 1990 や choose between war or peace のように and の代りに to や or を用いるのは((まれ)).to は from A to Bの類推.or はchoose, decide などの動詞と連語するときに多く用いられる.これは choice [decision] A or B の類推と考えられる(→2).

2[区別・選択・分配] …の間に[で];…のどちらかを?choose ? peace and war 平和か戦争かのいずれかを選ぶ《◆and の代りに or を用いることがある; →1 [語法](3)》


 OED では,"between" 18 が区別・選択・分配の用法を説明しているが,or を使用する例文は挙げられていない.同じく,MED では bitwene 7 がこの用法に対応するが,やはり or の例文はない."between A or B" の例がいつ現われたのかという問いに答えるには,より詳しく辞書や歴史コーパスを調べる必要がありそうだ.
 現代英語について,BNCWeb で動詞句 "{choose/V} between_PRP + or_CJC" として検索し,該当する例文を選り分けたところ,ほんの8例ではあるが用例が得られた.いずれも Written books and periodicals からの例である.比較的わかりやすい4例を挙げよう.

 ・ . . . in 1627 Emperor Ferdinand ordered all his Bohemian subjects to choose between Catholicism or exile.
 ・ The main characters are all glorified psychopaths, with little to choose between hero or villain in terms of basic humanity.
 ・ . . . Mapleton, already out of breath, had to choose between talking or using his energy to keep up.
 ・ It is for you to choose between clinical or disciplinary action.


 同様に,名詞句 "{choice/N} between_PRP + or_CJC" の検索結果も参照されたい.
 "between A or B" はあまりに稀な構造だからか,特に規範文法で攻撃されている風でもなさそうだ.先行する語が区別,選択,決定,判定を意味する場合には or の語感は非常によく理解できるし,or の使用によって多義である between の語義が限定されるのだから,このような語法はむしろ推奨されるべきと考える.

Referrer (Inside): [2013-02-15-1]

[ 固定リンク | 印刷用ページ ]

2012-02-29 Wed

#1038. thenthan [etymology][conjunction][preposition][determiner][comparison]

 時の副詞 then と比較の接続詞・前置詞 than が語源的に同一であることは,あまり知られていない.現在のように形態上の区別が明確になったのは,意外と新しく,1700年頃である.
 両語の起源としては,ゲルマン祖語の指示代名詞幹 *þa- の奪格形が想定されている.とすると,thatthe とは同一語の異なる屈折形にすぎないことになる.この奪格形は "from that; after that" ほどを意味し,この指示代名詞的用法が発展して接続詞的用法が生じたと考えられる.つまり,John is more skilful; then (=after that) his brotherJohn is more skilful than his brother. の如くである.比較の接続詞としての用法は,古フリジア語,古サクソン語,古高地ドイツ語でも確認されており,比較的早く西ゲルマン祖語の段階で発達していたようだ.
 しかし,OED によると,別の説もある.古英語の時の接続詞 þonne "when" に由来するという説で,When his brother is skilful, John is more (so). という統語構造が基礎になっているとするものである.ラテン語で then を表わす quam の用法がこの説を支持している.
 現在でも,thenthan は弱い発音では区別がなくなるので,綴字の混同が絶えない (Common Errors in English Usage の HP を参照) .

[ 固定リンク | 印刷用ページ ]

2012-02-28 Tue

#1037. 前置詞 save [preposition][conjunction][french][latin][loan_word][etymology]

 [2011-11-30-1]の記事「#947. 現代英語の前置詞一覧」で,marginal preposition として挙げた現代英語の前置詞の1つに save がある.辞書のレーベルとしては文語あるい古風とされることが多いが,「?を除いて」の意で,文例はいろいろと挙げられる.

 ・ They knew nothing about her save her name.
 ・ Answer the last question save one.
 ・ Every man she had ever loved, save her father, was now dead.
 ・ No one, save perhaps his wife, knows where he is.
 ・ All that remained to England in France, save Calais, was lost.


 この前置詞は,民間語源的に動詞 save と関連づけられることがあるが,実際には古フランス語 sauf, sauve の1300年頃の借用である(もっとも,動詞 save と語源が間接的に関連することは確かである).この古フランス単語は "keeping safe or intact" ほどの意の形容詞で,これ自身はラテン語形容詞 salvus の単数奪格形 salvō あるいは salvā へさかのぼる.salvus は "unharmed, sound; safe, saved" の意であり,例えば salvo iure といえば,"law being unharmed" (法に違反せず)ほどを表わした.いわゆる奪格構文であり,英語でいえば独立分詞構文に相当する.
 前置詞 save はこのような由来であるから,本来,後続する名詞句は形容詞 save と同格である.このことから,その名詞句が対格ではなく主格で現われ得ることも理解できるだろう.細江 (270--71) によれば,Shakespeare あたりまでは主格後続のほうが普通だったようだ (ex. I do entreat you, not a man depart, / Save I alone, till Antony have spoke. (Julius Cæsar, III. ii. 65--66.) .しかし,近代以降は,後ろに目的格を要求する通常の前置詞として意識されるようになり,現在に至っている.
 一方,この save には,借用当初から接続詞としての用法もあり,現在では save that として Little is known about his early life, save that he had a brother. のような例がある.必ずしも that を伴わない古い用法では,直後に後置される人称代名詞が主格か対格によって,接続詞か前置詞かが区別されたわけであり,この点で両品詞を兼任しうる as, but, except, than などと類似する.細江 (271) は「今日でも save はその次に対格を伴わなければならないと断然主張するだけの根拠はない」としている.
 中英語の用例については MED "sauf (prep.)" 及び "sauf (adj.)", 7 を参照.

 ・ 細江 逸記 『英文法汎論』3版 泰文堂,1926年.

Referrer (Inside): [2019-05-08-1]

[ 固定リンク | 印刷用ページ ]

2011-12-22 Thu

#969. Mayster Nichol of Guldeuorde [onomastics][owl_and_nightingale][pchron][preposition]

 [2010-12-08-1]の記事「#590. last name はいつから義務的になったか」で,ノルマン征服以降,イングランドで名前に last name を付す慣習が発達したことを取り上げた.
 last name の典型は,of を伴って出身地などの地名を用いるものであり,その最も有名な初期の例の1つが,The Owl and the Nightingale の l. 191 に現われる(そして作者その人ではないかと疑われる) Mayster Nichol of Guldeuorde である.Atkins 版 (19) では次のような注記がある.

191. Maister Nichole of Guldeforde. The full designation of Nicholas is not without its interest, pointing as it does to certain changes characteristic of the 11th and 12th centuries. Under Norman influence the single personal names of the O.E. period had become supplemented by surnames denoting, amongst other things, place of birth. Thus in the later sections of the A. S. Chron. such names as Rotbert de Bælesne 81104), Willelm of Curboil (1123), Hugo of Mundford (1123) are found.


 固有人名に限るわけではないが,人を表わす名詞と地名とを結びつける of については,OED の "of", prep. 47.a. に説明がある.この of の本来の意味は「?出身の,?から来た」であり,古英語の an monn of ðǣre byriȝÐa men of Lunden byriȝ などに見られるが,11世紀には必ずしも出自を示すわけではなく「?に住む」という所属の意味へと変化していった.
 関連して,[2011-07-19-1]の記事「#813. 英語の人名の歴史」を参照.

 ・ Atkins, J. W. H., ed. The Owl and the Nightingale. New York: Russel & Russel, 1971. 1922.

[ 固定リンク | 印刷用ページ ]

2011-11-30 Wed

#947. 現代英語の前置詞一覧 [preposition][conjunction]

 前置詞,接続詞,助動詞,冠詞,代名詞,関係詞などは機能語 (function word) あるいは文法語 (grammatical word) と呼ばれ,語彙としては閉じた類 (closed class) を形成すると言われる.一方,名詞,動詞,形容詞,副詞は内容語 (content word) と呼ばれ,開いた類 (open class) を形成する.
 理論上,閉じた類とは,そこに含まれる語の数が有限であり,新たな語彙項目が追加されることがなく,したがって網羅的な一覧を作ることができることを含意するが,実際には閉じた類へ新しい語彙項目が追加されるということはある.例えば,前置詞は,閉じた類の1つではあるが,含まれている語の数が比較的多く,なおかつその多くは歴史の過程でリストに加えられてきた語彙項目である.複合や他品詞からの派生により形成された前置詞も少なくない.
 以下は,Quirk et al. (Sections 9.7--9.8, 9.10--9.11) に挙げられている独自の分類による前置詞の一覧を,整理したものである.英語にこれほど前置詞があったのかと驚くばかりだ.

1. Simple prepositions
 (a) Monosyllabic prepositions
  as, at, but, by, down, for, from, in, like, near (to), of, off, on, out, past, per, pro, qua, re, round, sans, since, than, through (thru), till, to, up, via, while, with
 (b) Polysyllabic prepositions
  about, above, across, after, against, agin, along, alongside, amid(st), among(st), anti, around, atop, before, behind, below, beneath, beside, besides, between (tween, twixt), beyond, circa, despite, during, except, inside, into, notwithstanding, onto, opposite, outside, outwith, over, pace, pending, throughout, toward(s), under, underneath, unlike, until, unto, upon, versus (v, vs), vis-à-vis, within, without
2. Marginal prepositions
 bar, barring, excepting, excluding; save
 concerning, considering, regarding, respecting, touching
 failing, wanting
 following, pending
 given, granted, including
 less, minus, plus, times, over
 worth
3. Complex prepositions
 (a) Two-word sequences
  up against, as per
  as for, but for, except for
  apart from, aside from, away from, as from
  ahead of, as of, back of, because of, devoid of, exclusive of, inside of, instead of, irrespective of, off of, out of, outside of, regardless of, upwards of, void of
  according to, as to, close to, contrary to, due to, near(er) (to), next to, on to, owing to, preliminary to, preparatory to, previous to, prior to, pursuant to, subsequent to, thanks to, up to
  along with, together with
  à la, apropos (of)
 (b) Three-word sequences
  in aid of, (in) back of, in behalf of, in cause of, in charge of, in consequence of, in (the) face of, in favour of, in front of, in (the) light of, in lieu of, in need of, in place of, in (the) process of, in quest of, in respect of, in search of, (in) spite of, in view of
  in accordance with, in common with, in comparison with, in compliance with, in conformity with, in contact with, in line with
  by dint of, (by) means of, by virtue of, (by) way of
  on account of, on behalf of, on (the) ground(s) of, on the matter of, (on) pain of, on the part of, on the strength of, on top of
  as far as, at variance with, at the expense of, at the hands of, (for) (the) sake of, for/from want of, in exchange for, in return for, in addition to, in relation to, with/in regard to, with/in reference to, with/in respect to, with the exception of

 この一覧には頻度,用法,使用域などの限られているものも含まれているが,異形を除くと194個の(群)前置詞が挙げられていることになる.閉じた類とはいえ,なかなか豊かな語類だ.

 ・ Quirk, Randolph, Sidney Greenbaum, Geoffrey Leech, and Jan Svartvik. A Comprehensive Grammar of the English Language. London: Longman, 1985.

[ 固定リンク | 印刷用ページ ]

2011-05-10 Tue

#743. for + 形容詞 [preposition][adjective][idiom]

 英語では,前置詞の後には名詞相当語句が来るというのが原則である.しかし,少数の例外があり,歴史的に説明されなければならない.例外の1つが標題の「for + (分詞を含め)形容詞」というつながりである.以下に例を挙げる.

 - She seemed to take it for granted that I would go with her to New York.
 - The soldier was given up for dead.
 - I really want to go and see the film, but I don't think I'd pass for 18.


 これは for の資格・特性の用法と呼べるものだが,機能としては as に近い.as が現在分詞を含め形容詞を目的語としてとる例は珍しくないので,for を理解するのに参考になる.

 - I accepted the report as trustworthy.
 - We regarded the document as belonging to her brother.


 上に挙げた for に後続する形容詞は,[2011-05-07-1]の記事「熟語における形容詞の名詞用法」で触れたような形容詞の名詞用法ではなく,独立した確固たる形容詞と考えるべきであり,区別を要する.
 Mustanoja が "equivalence" (379--80) と呼んだこの for の用法は,中英語にも見られ,現代の for certain, for sure, forsooth, for real などの慣用表現にもつながっている.

 ・ Mustanoja, T. F. A Middle English Syntax. Helsinki: Société Néophilologique, 1960.

[ 固定リンク | 印刷用ページ ]

2009-05-28 Thu

#30. 古英語の前置詞と格 [oe][preposition][case]

 古英語では,前置詞のあとに来る名詞は格変化をする.どの格が来るかは前置詞によって決まっており,与格となることが多いが,中には対格や属格を要求する前置詞もある.現代英語とは異なる意味で使われる前置詞も多いので,要求される格と古英語での意味を以下にまとめる (Mitchell 110) .
 複数の格が示されているものはいずれもあり得るということを示し,かっこが付されているもの頻度が比較的ひくいとことを示す.

PREPOSITIONCASEMEANING
æfterdat. (acc.)after, along, according to
ǣrdat. (acc.)before
ætdat.at, from, by
ætacc.as far as, until
bedat. (acc.)by, along, alongside, about
beforandat. acc.before, in front of
betweoxdat. acc.among, between
binnan* dat./acc.within, into
bufan* dat./acc.above, upon
būtandat. acc.except, outside, without
ēacdat.besides, in addition to
fordat. acc.before (of place), in front of, because of
framdat.from, by (of agent)
ġeondacc. (dat.)throughout
in* dat./acc.in, into
innan* dat./acc. (occasinally gen.)in, within
middat. acc.among, with, by means of
ofdat.from, of
ofer* dat./acc.above, over, on
on* dat./acc.in, into, on
on-ġēandat. acc.agaianst, towards
acc. (dat.)up to, until
gen.at, for, to such an extent, so
dat.towards, to, at, near
acc.towards
tō-ġēanesdat.against, towards
þurhacc. (dat. gen.)through, throughout, by means of
under* dat./acc.under, beneath
wiþacc. gen. dat.towards, opposite, against, along, in exchange for
ymb(e)acc. (dat.)after, about or concerning

 注意を要するのは,格支配が "* dat./acc" となっている7の前置詞である.これらの前置詞の後に来る名詞は,与格と対格のいずれかが来るが,いつもどちらでも可能だというわけではない.どちらを使うかで意味が異なるのである.与格が来る場合は「静的」な意,対格が来る場合は「動的」な意である.具体例を挙げよう.

 (1) dat: hē wæs in þǣm hūse "he was in the house"
 (2) acc: hē ēode in þæt hūs "he went into the house"

 現代英語における "in" と "into" の違いを念頭におくとよい.in の後に与格が来るときは動きのない "in" の意であり,対格が来るときは動きを伴う "into" の意である.現代ドイツ語でも同様の区別があることを付け加えておく.

 ・ Mitchell, Bruce and Fred C. Robinson. A Guide to Old English. 8th ed. Malden, MA: Wiley-Blackwell, 2012.

[ 固定リンク | 印刷用ページ ]

Powered by WinChalow1.0rc4 based on chalow