[2011-11-30-1]の記事「#947. 現代英語の前置詞一覧」で挙げたように,英語には数多くの前置詞が存在する.他の品詞から転用されたもの,語を組み合わせた複合的なもの,借用されたものなど,語源の種類はまちまちだが,周辺的なものや頻度の低いものを合わせると,ざっと200個ほどを数える.
では,これらの前置詞が古くからあったかというと,そうではない.古英語では,[2009-05-28-1]の記事「#30. 古英語の前置詞と格」で紹介した30個ほどが認められるにすぎない.すると,その他の多くの前置詞は中英語以後に発生したことになる.より具体的には,いつだったのだろうか.
MED Spelling Search より,"\(prep\.|prep\.\)" と検索してみると,254種類の前置詞を取り出すことができた.それならば中英語期に前置詞が爆発したかというと,話しはそう単純ではない.リストを眺めると,本来語要素を組み合わせた複合的な前置詞やその異形が多く,現代標準英語に伝わっていないものも多い.現代用いられている多種の前置詞は,近代英語以降に現われたと考えられる.
個々の前置詞の初出年を OED などで丹念に調べてゆけばよいのだろうが,そこまでは行なっていない.代わりに,この問題に触れている Schmitt and Marsden (66) の記述を引用しよう.
In Early Modern English, many prepositions still had a far wider range of meanings than they do today. Now they are quite restricted in use, with consequent difficulties for learners. One reason for the changes is that many new prepositions and sprecialized prepositional phrases came into use in later Middle English and Early Modern English, meaning that the scope for each word became smaller. For example. several earlier functions of by were taken over by near, in accordance with, about, concerning, by reason of, and owing to; for came to be replaced often by because of or as regards; and prepositional but became almost wholly replaced by unless, except, or bar (though it survives in the phrase all but you).
この記述によると,爆発期は後期中英語から初期近代英語にかけてであり,既存の前置詞の意味の狭めを伴っていたということになる.残念ながらこの言及を支持する典拠が Schmitt and Marsden には挙げられていなかった.他の文献でも簡単に調べてみたが,関連しそうな言及にはたどりつかなかった.Gelderen (176) に,ラテン語に由来する前置詞 per, plus, via が近代英語期に現われたことが触れられていたくらいである(それぞれ1528年, 1668年, 1779年).現時点ではこれ以上詳しいことはわかっていない.
・ Schmitt, Norbert, and Richard Marsden. Why Is English Like That? Ann Arbor, Mich.: U of Michigan P, 2006.
・ Gelderen, Elly van. A History of the English Language. Amsterdam, John Benjamins, 2006.
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