現代英語の法助動詞は意味も用法もきわめて多岐にわたり,その体系を単純な方法で記述することはできない.法助動詞の歴史をみても,それぞれ実に複雑な経緯をたどっており,一筋縄ではいかない.
Hofmann は現代英語の法助動詞体系について,次のように述べている.
Perhaps the English modal system has become too complex and our speech is leading the way to a new system. If so, you can expect some new periphrastic forms in your lifetime. (113)
Hofmann の念頭にあるのは,法助動詞の代用としての迂言表現が主に口語で広く用いられている事実である.そして,これらの表現に共通しているのは,もともと複数の語からなっているものの,あたかも一語であるかのように発音が縮約されることである.出発点は迂言形だったにもかかわらず,いつの間にか,原形をとどめないほどに変化してきているところがおもしろい.古くから存在する法助動詞の役割を乗っ取らんかという,これら代用表現の勢いが印象的である.
・used to [ju:stə] for would
・have to [hæftə] for must
・have got to [hævgɑtə] for must
・(be) supposed to [spoʊstə] for ought to, should
・(be) going to [gɑnə] for shall, will
今後,特に口語においてこのような法助動詞の代用品が増えていくかもしれない.
・Hofmann,Th. R. Realms of Meaning. Harlow: Longman, 1993.
昨日の記事で,must に過去形が欠けているのは,もともと古英語で過去形だったからだと述べた.また,もともと過去の意味を表したものが徐々に現在の意味を表すようになるというのは,must だけでなく,現代英語の主要な助動詞 could, might, should, would においても,現在まさに起こっていることを示した.どうやら助動詞には,過去→現在という意味変化が起こりやすいようだ.
それがなぜかは措いておくとして,過去→現在の意味変化を示す別の衝撃的な例を挙げてみよう.
これまで現在形という前提で話を進めてきた can, may, shall は,なんとこれ自体が形態的には過去形なのである.つまり,古英語よりもっと古い段階で,過去→現在の意味変化を経ていたのである.古英語では,このような(助)動詞を過去現在動詞 ( preterite-present verb ) と呼んでいる.
そうだとすると,could, might, should という形態は過去形の過去形,いわば二重過去形とでも呼ぶべき形態だということになる.そして,現代英語では,その二重過去形までもが現在を表す意味を獲得しつつある・・・.
過去→現在の意味変化が歴史の中でこれほどまでに繰り返されてきたことを考えると,当然,次のサイクルが予期される.実際に,"I should have studied harder for the exam" や "Don't worry---they could've just forgotten to call" などの「過去形助動詞 + have + 過去分詞」が,いわば三重過去形として新たなサイクルを始めている.
このサイクルは永遠に繰り返されるのだろうか?言語の変化は不思議である.
現代英語の代表的な助動詞には現在形と過去形のペアがある.
現在形 | 過去形 |
---|---|
can | could |
may | might |
shall | should |
will | would |
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