現代英語の代表的な助動詞には現在形と過去形のペアがある.
現在形 | 過去形 |
can | could |
may | might |
shall | should |
will | would |
注意したいのは,「過去形」とは形態が過去形だということであり,意味・用法としてはむしろ現在のことを表すほうが普通である.以下の用例では,過去の意味は認められない.
・I could do it now, if you like.
・Might I use your phone?
・You should stop worrying about it.
・Would you mind leaving us alone for a few minutes?
確かに
could の「過去の可能性」,
would の「過去の習慣」など,過去用法も存在するのだが,いずれも周辺的な用法にすぎない.
過去形のもう一つの重要な用法は,間接話法における時制の一致である.
・The teacher said to her, "You
can answer the question."
・The teacher told her that she
could answer the question.
直接話法の
may,
shall,
will も過去の文脈での間接話法ではそれぞれ
might,
should,
would となる.
だが,ここに問題ありの助動詞がある.
must である.この
must には過去形が欠けている.したがって,過去の文脈での間接話法に言い換えるとき,
must をそのまま残すか,
must =
have to という関係から
had to を代用するかということになる.
・Father said to me, "You
must work hard."
・Father told me that I
must [had to] work hard.
なぜ
must は過去形を欠いているのだろうか.答えは古英語にある.実は古英語の対応する形態
mōste はすでにこれ自体が過去形なのである.その現在形は
mōtan といったが,これは中英語期辺りに廃れた.
could や
would などの過去形が,用法としては現在を表すことが多いように,本来は過去形である
mōste も現在を表す用法を歴史的に発達させてきた.後に
mōtan が廃れるに及び,
must が現在のことを表す現在形として解釈され,現代に至っているが,形態的にはもともと過去形であるだけにそこからさらに過去形が作られるということは起こらなかった.
must が過去形を欠いているのには,このような深い歴史があったのである.
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