hellog〜英語史ブログ     ChangeLog 最新     カテゴリ最新     前ページ 1 2 / page 2 (2)

pronoun - hellog〜英語史ブログ

最終更新時間: 2024-12-23 11:02

2019-01-01 Tue

#3536. one, once, none, nothing の第1音節母音の問題 [vowel][phonetic_change][phonetics][indefinite_pronoun][pronoun][personal_pronoun]

 明けましておめでとうございます.このブログも足かけ11年目に突入しました.平成も終わりに近づいていますが,来たるべき時代にかけても,どうぞよろしくお願い申し上げます.
 新年一発目は,ある意味で難しい話題.最近,<o .. e> ≡ /ʌ/ の問題について「#3513. comesome の綴字の問題」 ([2018-12-09-1]) で触れた.その際に,one, none などにも触れたが,それと関連する once とともに,この3語は実に複雑な歴史をもっている.「#86. one の発音」 ([2009-07-22-1]),「#89. one の発音は訛った発音」 ([2009-07-25-1]) でも,現代に至る経緯は簡単に述べたが,詳しく調べると実に複雑な歴史的経緯があるようだ.母音の通時的変化と共時的変異が解きほぐしがたく絡み合って発達してきたようで,単純に説明することはできない.ということで,中尾 (207) の解説に丸投げしてしまいます.

 one/none/once: ModE では [ū?ō?ɔː?ɔ] の交替をしめす.史的発達からいえば PE [oʊ] が期待される.事実 only (<ānlic/alone (<eall ān)/atone にはそれが反映されている.PE の [ʌ] をもつ例えば [wʌn] はすでに16--17世紀にみられるが,これは方言的または卑俗的であり,1700年まで StE には受けられていない.しかしそのころから [oːn] を置換していった.
 上述3語の PE [ʌ] の発達はつぎのようであったと思われる.すなわち,OE ɑːn > ME ɔːn,方言的上げ過程 . . . を受け [oːn] へ上げられた.語頭に渡り音 [w] が挿入され (cf. Hart の wonly) . . . woːn > (GVS) uː > (短化 . . .) ʊ > (非円唇化) ʌ へ到達する . . . .


 この解釈では,語頭への w 挿入により上げを経てきた歴史にさらに上げが上乗せされ,ついに高母音になってしまったというシナリオが想定されている.いずれにせよ,方言発音の影響という共時的な側面も相俟って,単純には説明できない発音の代表格といっていいのかもしれない.
 なお,上では one, none, once の3語のみが注目されていたが,このグループに関連語 nothing (< nā(n) þing) も付け加えておきたい.

 ・ 中尾 俊夫 『音韻史』 英語学大系第11巻,大修館書店,1985年.

Referrer (Inside): [2023-02-25-1] [2019-02-07-1]

[ 固定リンク | 印刷用ページ ]

2015-08-27 Thu

#2313. 不定人称代名詞としての thou [personal_pronoun][pragmatics][indefinite_pronoun][pronoun][generic]

 「#2248. 不定人称代名詞としての you」 ([2015-06-23-1]) で取り上げた話題と関連して,古い2人称代単数代名詞 thou が不定の一般的な人を指示する用法を発達させたのはいつかという問題を取り上げる.先の記事でも触れたように,OED では thou についてそのような語義分類がなされておらず,確かなことは言えないが,MED では様々な例文が列挙されている.最も古い例として挙げられているのは,古英語末期といってもよい次の文である.a1150 (OE) Vsp.D.Hom. (Vsp D.14) 3/18: Þonne þu oðerne mann tæle, þonne geðænc þu þæt nan man nis lehterleas.
 ほぼ同じくらい早い例として,?a1160 Peterb. Chron. (LdMisc 636) an. 1137: Hi..brendon alle the tunes ðæt wel þu myhtes faren all a dæis fare sculdest thu neure finden man in tune sittende ne land tiled. が挙げられているが,この例文ついては,古い論文だが Koziol (173) が言及している.

Die Bedeutung des thou in Sprichwörtern und allgemeinen Regeln kommt einem »man« zumindest sehr nahe; es wendet sich nicht an einen bestimmten Menschen, sondern an jeden. Im Neuenglischen ist ja der entsprechende Gebrauch von you (oder they) sehr häufig. Daß früher thou die gleiche allgemeine Bedeutung haben konnte, geht aus Stellen wie der folgenden aus der Sachsenchronik 1137 hervor: hi . . . brendon alle the tunes, đ wel þu myhtes faren al a dæis fare, sculdest thu neure finden man in tune sittende. N. Bøgholm führt außer diesem noch ein Beispiel aus altenglischer Zeit an. Das OED verzeichnet diesen Gebrauch nicht.


 上の引用によれば,さらに古英語からの例がありそうだということだが,2人称代名詞への不定一般人称への用法上の拡張は語用論的には突飛ではなく,驚くことではないだろう.同じ拡張が歴史時代以前に起こっていたという可能性すらあり得るだろう.ただし,文献学的には,初例がいつどこで文証されたのかということは問題になる.同用法の起源・発達の問題は残るが,現在も普通に用いられる2人称代名詞の不定人称を表わす用法が,遅く見積もったとしても古英語から中英語にかけての時期にすでに確認されたという事実に,歴史の長さと語用論的な普遍性の一端をみることができる.

 ・ H. Koziol, "Die Anredeform bei Chaucer." Englische Studien 75 (1942): 170--74.

Referrer (Inside): [2023-06-24-1]

[ 固定リンク | 印刷用ページ ]

2015-06-23 Tue

#2248. 不定人称代名詞としての you [personal_pronoun][proverb][register][sobokunagimon][indefinite_pronoun][pronoun][generic]

 6月3日付けで寄せられた素朴な疑問.不定人称代名詞として peopleone ほどの一般的な指示対象を表わす you の用法は,歴史的にいつどのように発達したものか,という質問である.現代英語の例文をいくつか挙げよう.

 ・ You learn a language better if you visit the country where it is spoken.
 ・ It's a friendly place---people come up to you in the street and start talking.
 ・ You have to be 21 or over to buy alcohol in Florida.
 ・ On a clear day you can see the mountains from here.
 ・ I don't like body builders who are so overdeveloped you can see the veins in their bulging muscles.


 まずは,OED を見てみよう.you, pron., adj., and n. によれば,you の不定代名詞としての用法は16世紀半ば,初期近代英語に遡る.

8. Used to address any hearer or reader; (hence as an indefinite personal pronoun) any person, one . . . .

   c1555 Manifest Detection Diceplay sig. D.iiiiv, The verser who counterfeatith the gentilman commeth stoutly, and sittes at your elbowe, praing you to call him neare.


 当時はまだ2人称単数代名詞として thou が生き残っていたので,OED の thou, pron. and n.1 も調べてみたが,そちらでは特に不定人称代名詞としての語義は設けられていなかった.
 中英語の状況を当たってみようと Mustanoja を開くと,この件について議論をみつけることができた.Mustanoja (127) は,thou の不定人称的用法が Chaucer にみられることを指摘している.

It has been suggested (H. Koziol, E Studien LXXV, 1942, 170--4) that in a number of cases, especially when he seemingly addresses his reader, Chaucer employs thou for an indefinite person. Thus, for instance, in thou myghtest wene that this Palamon In his fightyng were a wood leon) (CT A Kn. 1655), thou seems to stand rather for an indefinite person and can hardly be interpreted as a real pronoun of address.


 さらに本格的な議論が Mustanoja (224--25) で繰り広げられている.上記のように OED の記述からは,この用法の発達が初期近代英語のものかと疑われるところだが,実際には単数形 thou にも複数形 ye にも,中英語からの例が確かに認められるという.初期中英語からの 単数形 thou の例が3つ引かれているが,当時から不定人称的用法は普通だったという (Mustanoja 224--25) .

 ・ wel þu myhtes faren all a dæis fare, sculdest thu nevre finden man in tune sittende, ne land tiled (OE Chron. an. 1137)
 ・ no mihtest þu finde (Lawman A 31799)
 ・ --- and hwat mihte, wenest tu, was icud ine þeos wordes? (Ancr. 33)


 中英語期には単数形 thou の用例のほうが多く,複数形 ye あるいは you の用例は,これらが単数形 thou を置換しつつあった中英語末期においても,さほど目立ちはしなかったようだ.しかし,複数形 ye の例も,確かに初期中英語から以下のように文証される (Mustanoja 225) .

 ・ --- þenne ȝe mawen schulen and repen þat ho er sowen (Poema Mor. 20)
 ・ --- and how ȝe shal save ȝowself þe Sauter bereth witnesse (PPl. B ii 38)
 ・ --- ȝe may weile se, thouch nane ȝow tell, How hard a thing that threldome is; For men may weile se, that ar wys, That wedding is the hardest band (Barbour i 264)


 なお,MEDthou (pron.) (1g, 2f) でも (1b, 2b) でも,不定人称的用法は初期中英語から豊富に文証される.例文を参照されたい.
 本来聞き手を指示する2人称代名詞が,不定の一般的な人々を指示する用法を発達させることになったことは,それほど突飛ではない.ことわざ,行儀作法,レシピなどを考えてみるとよい.これらのレジスターでは,発信者は,聞き手あるいは読み手を想定して thou なり ye なりを用いるが,そのような聞き手あるいは読み手は実際には不特定多数の人々である.また,これらのレジスターでは,内容の一般性や普遍性こそが身上であり,とりあえず主語などとして立てた thouye が語用論的に指示対象を拡げることは自然の成り行きだろう.例えばこのようなレジスターから出発して,2人称代名詞がより一般的に不定人称的に用いられることになったのではないだろうか.

 ・ Mustanoja, T. F. A Middle English Syntax. Helsinki: Société Néophilologique, 1960.

[ 固定リンク | 印刷用ページ ]

Powered by WinChalow1.0rc4 based on chalow