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日本は2020年開催の東京五輪・パラリンピックに向け,図記号「ピクトグラム」 (pictogram) を全国的に統一するとともに,ISO (国際標準化機構)への登録を目指す作業を進めている.
ピクトグラムは主に災害時の避難場所を示したり,公共機関の所在を表わすなど公的な性格が強く,言語を選ばないという特徴により,1964年の東京五輪の際に活用され,世界に広く知られることとなった.豊かな文字の歴史と文化をもつ日本の生み出した,グローバル・コミュニケーションへの大きな貢献である.日本語を国際語,世界語へ仕立て上げようという試みは,日本にある程度の支持者はいるにせよ,現実的にはほとんどなされていない.しかし,視覚言語という別の側面において,日本は普遍的な記号の創出に積極的に関わっているということは,国内外にもっと宣伝されてよい.この点で2020年に向けてのピクトグラム策定への挑戦も,おおいに支持したい.国土地理院の外国人にわかりやすい地図表現検討会 の HP では,去る6月4日に報告された外国人にわかりやすい地図表現 (PDF)と題する資料が得られる. *
政府は,緊急時に頼れる場所(病院や交番),便利な場所(観光案内所,コンビニ),外国人がよく訪れる場所(ホテル,トイレ,寺院,博物館)などを中心に実用的なピクトグラムを念頭において策定しているようだが,ピクトグラムの言語を越えた可能性はそれだけにとどまらない.より一般的な意味体系に匹敵するピクトグラム体系というものは可能だろう.人類の生み出した原初の文字がピクトグラムであり,その後,音声言語との結びつきを強めながら表語文字や表音文字が発展してきた文字の歴史を思い返すとき,現在,国際コミュニケーションに供するためにピクトグラムが再評価されてきているという事実は興味深い.ピクトグラムは原始的であるがゆえに,単純で本質的で普遍的である.
ただし,ピクトグラム体系なるものが考えられるとはいっても,それのみで音声言語のもつ複雑さを再現することは難しい.文字史においても,原初の絵(文字)は,言語上の二重分節 (double_articulation) のいずれかの単位,すなわち形態素あるいは音素と結びつけられることにより,飛躍的に発展し,音声言語に匹敵する複雑な表現が可能となってきたのである.ピクトグラム体系が,絵文字や表意文字の集合という枠からはみだし,表語文字へと飛躍するとき,それはすでに個別言語の語彙体系に強く依存し始めているのであり,ピクトグラムが本来もつユニバーサルな性質が失われ始めているのだ.換言すれば,そのときピクトグラム体系は,媒介言語から群生言語へと舵を切っているのである (cf. 「#1521. 媒介言語と群生言語」 ([2013-06-26-1])) .
向こう数年のピクトグラム開発国としての日本の役割を,人類の文字の歴史という広い観点から眺めるのもおもしろい.文字の歴史については,「#422. 文字の種類」 ([2010-06-23-1]) 及び「#1834. 文字史年表」 ([2014-05-05-1]) と,後者に張ったリンク先の記事を参照.
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最終更新時間: 2024-11-26 08:10
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