昨日,標記の通り井上逸兵先生と共同で YouTube にて「井上逸兵・堀田隆一英語学言語学チャンネル」を開設しました.
初回動画「英語学」ってなに?--むずかしい「英語」を「学」ぶわけではありません!!のなかでも触れていますが「英語学・言語学って何なの?」という辺りから始めて,それぞれの専門分野(井上氏は社会言語学・認知言語学・語用論,堀田は英語史)の観点から,英語や言語一般に関する様々な話題を,定期的にお届けしていきます.初回は自己紹介的な雰囲気ですが,今後はどんどん濃くなっていくと思います.ぜひ視聴してみてください.チャンネル登録もよろしくどうぞ.
共演者である井上逸兵氏を紹介したいと思います.慶應義塾大学文学部英米文学専攻の教授で,社会言語学,認知言語学,語用論などの分野を専門とされています(←同僚としても日々お世話になっています).NPO法人地球ことば村・世界言語博物館の理事長でもあります.2018--19年度には,NHK教育テレビ「おもてなしの基礎英語」の講師を務められました.著書も多数ありますが,とりわけ昨年話題となったのが『英語の思考法 ー 話すための文法・文化レッスン』(筑摩書房〈ちくま新書〉,2021年)です.詳しい業績その他の詳細は,井上逸兵のページをご覧ください.人気の Twitter はこちらです.
井上氏には,すでに私の Voicy の「英語の語源が身につくラジオ」でも,2度ほど対談・出演していただいています.普段の私一人のしゃべりによる放送に比べて,ずっと多く聴かれているようです,さすがですね.
・ 「『英語の思考法』(ちくま新書)の著者,井上逸兵先生との対談」(2021年9月17日放送)
・ 「対談 井上逸兵先生と「英語新書ブーム」を語る」(2021年10月22日放送)
今回開設した YouTube チャンネルの趣旨は,2人の英語学研究者による肩のこらない緩いおしゃべり,といったところです.高校生から大学生にかけての視聴者を念頭に「英語学・言語学って何?」というところから始めますが,広く英語や言語一般に関心のある方々にも視聴してもらえるような内容を織り込んでいきたいと思っています.
同じお題でおしゃべりしても,異なる分野を専門とする2人が話せば,これだけ違う意見が出るのだなというところが見所かと思います.作り手もそれを楽しんでいるところがあります.
今後は本ブログ,Voicy の「英語の語源が身につくラジオ」と合わせて,「井上逸兵・堀田隆一英語学言語学チャンネル」もよろしくお願いいたします.
『三田評論』2022年1月号 (no. 1262) に「時の話題」の企画として「“新書”で英語を学ぶ」 (pp. 36--41) が掲載されています.2020年から2021年にかけて英語新書ブームを巻き起こした3名の著者による3本の記事です(オンライン版ではまだ閲覧できないようです).
・ 北村 一真(杏林大学外国語学部) 「英語の読解で拡がる世界」 (pp. 36--37)
・ 井上 逸兵(慶應義塾大学文学部) 「タテマエから知る英語のわかり方」 (pp. 38--39)
・ 今井 むつみ(慶應義塾大学環境情報学部) 「英語を自由に使うための“スキーマ”の習得」 (pp. 40--41)
ブームとなった新書は各々以下の通りです.
・ 北村 一真 『英語の読み方 ー ニュース,SNS から小説まで』 中央公論新社〈中公新書〉,2021年.
・ 井上 逸兵 『英語の思考法 ー 話すための文法・文化レッスン』 筑摩書房〈ちくま新書〉,2021年.
・ 今井 むつみ 『英語独習法』 岩波書店〈岩波新書〉,2020年.
これまでも日本人の英語学習熱は常に高かったといってよいですが,英語を学ぶための新書ブームがこのタイミングで来たというのはおもしろいことだと思っています.なぜなのでしょうか,たまたまなのでしょうか.この点について私も関心をもち,昨秋,井上先生とおしゃべりしました.Voicy の私のチャンネル「英語の語源が身につくラジオ」にて収録・配信しましたので,関心のある方はぜひどうぞ.
・ 「『英語の思考法』(ちくま新書)の著者,井上逸兵先生との対談」(9月17日放送)
・ 「対談 井上逸兵先生と「英語新書ブーム」を語る」(10月22日放送)
『三田評論』の記事のなかで,井上先生は「コロナで「おうち時間」が増え,コロナ前のインバウンド歓待のムードも遠い昔に思え,「英会話」よりもじっくり腰をすえて本を読むという人が広い世代で増えたのかもしれない」 (p. 38) と述べています.
英語の勉強と合わせて英語史の学習についても,じっくり腰をすえてみてはいかがでしょうか.
(後記 2022/03/03(Thu):上記の『三田評論』の記事がオンラインで自由に閲覧できるようになったようです.こちらからどうぞ.)
去る7月に,ちくま新書より井上逸兵(著)『英語の思考法 ー 話すための文法・文化レッスン』が出版されました.著者は私の慶應義塾大学文学部英米文学専攻の同僚です(井上さん,ご献本いただきましてありがとうございます!).
著者の井上氏には本日,私が6月から放送している「英語の語源が身につくラジオ」(heldio) に特別ゲストとして出演していただいています(←同僚としての役得に甘えました).新書についてのおしゃべりです.10分×2本の収録となっていますので,2本目もお聞き逃しなく! しかも,2本目の最後は5秒ほど時間が足りなくてお尻が切れています(泣).
日本語(文化)には厄介なタテマエとホンネがありハッキリとものを言いにくいのに対して,英語(文化)ではそういうものがないのでハッキリ主張することが好ましい.これは,日本人の英語学習者の多くが感じていることではないでしょうか.しかし,井上氏が本書で軽妙なオヤジギャグと豊富な用例により次々と明らかにしていくのは,そうではないということです.英語(文化)にもタテマエとホンネはちゃんとある.ただし,日本語(文化)のそれとは違った形で存在している,ということです.
では,どう違っているのかといえば,英語(文化)の基盤には「独立」「つながり」「対等」への志向があるということです.「個人として対等な関係を保ちながらつながりを求める」のが英語流ということですね.個性や独立心が比較的弱く,上下関係のつながりを重視する伝統的な日本語(文化)の発想とは,確かに大きく異なります.
私が英語史の観点から抱いた関心は,英語的な「独立」「つながり」「対等」への志向は,いつ生まれたのだろうかということです.中世まではさほど強くなかったように思われるからです.おそらく近代に入ってからではないかと.社会的上下関係を内包する2人称代名詞の you/thou の区別が解消していくのも,近代期(17世紀以降)だった事実が思い出されます.
本書の中心テーマは日英語文化比較やポライトネスといったところだと思いますが,英語学研究者としての著者の真骨頂は,副題の「文法・文化レッスン」に現われているように思われます.文法という言語学的な堅い代物にも,その担い手の社会に特有の文化や思考回路が色濃く反映されているのだという点です.
一方,本書はすぐに使える英語の用例が豊富で,実用書的に読むこともできます.実際,私も英語を話したり書いたりするときに,早速いくつかの語法を活用しています.You lost me. とか Let me share with you . . . . とか.ですが,褒められたときに Can you tell my wife that? と返すのは,私には歯が浮いて言えなさそうです.
笑いながら読める英語本です.ぜひご一読ください.
・ 井上 逸兵 『英語の思考法 ー 話すための文法・文化レッスン』 筑摩書房〈ちくま新書〉,2021年.
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