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8月28日,日本経済新聞のウェブメディア「日経BizGate」にて,拙著『英語史で解く 英文法の謎 --- なぜ「3単現の s」をつけるのか』(通称『なぜさんたんげん』)のレビューが公開されました.「「3単現のs」に残るこだわり 英語特有の世界観に触れる --- 『英語史で解く英文法の謎』(堀田隆一 著,NHK出版)」です.ぜひご一読ください.
レビューでは,まず表題にも掲げられている「3単現の s」の話題が取り上げられています.英語という言語が人称・数・時制という3つの区別に強くこだわり続けてきたこと,そしてその「こだわり」の生き残りとして3単現の s が現代にまで受け継がれている,という本書の見立てを,レビュアーの方は的確にすくい上げてくださっています.
この「こだわり」というのは,言語学の用語でいえば「文法カテゴリー」 (grammatical category) と呼ばれるものです.おもしろいのは,どの言語にも何らかの独特な文法カテゴリーがあるという点です.ある言語の母語話者からすると,別の言語がなぜそんな細かい区別にこだわるのか,逆になぜあの重要な区別にはまるでこだわらないのか,不思議に思えてくることがあります.ですが,これはお互い様なのですね.英語話者から見れば,日本語の敬語や助数詞のこだわりが不思議に映るでしょうし,日本語話者から見れば,英語の3単現の s や冠詞のこだわりが不思議に映ります.本書でも論じているとおり,それぞれの言語が,長い歴史のなかでたまたまこだわりを育ててきた対象が異なるというだけのことなのです.
もう1つ,レビューで意外にも多くの紙幅が割かれているのが,現代に増え続ける省略語をめぐる話題です.Goodbye のような古くからの省略語に始まり,laser のようなイニシャル取り,Brexit のような単語の切り貼りに至るまで,省略語の背景には「人類史上で最も忙しい現代人」の姿があるという本書の指摘に対し,レビュアーの方は「わずかな語を切り詰める私たちの余裕のなさを少し寂しくも感じた」と,率直な感想を添えています.
実のところ,本書でも論じたとおり,英語における省略語は,歴史を振り返ってみても20世紀以降に顕著に増えていることが明らかなのです.これほどはっきりとした偏りがあるとなると,その背後には現代に特有の何らかのモチベーションがあると考えざるを得ません.そこから私が導いた暫定的な結論が,まさに現代人の忙しさだったわけですが,こうしてレビュアーの方に指摘していただくと,改めて,確かにこれは少し悲しい結論かもしれないな,とも思います.かくいう私自身も,英語であれ日本語であれ,省略語をまったく使わずに日々のことばを紡ぐことは,もはやできない体になってしまっています.
文法の謎解きである「3単現の s」の話題以上に,この省略語をめぐる節に心を動かされたのだとすれば,それはきっと,ことばを忙しなく削り合う現代という時代の感覚を,レビュアーの方も,そして読者の皆さんも,どこかで共有しているからなのでしょう.そう思うと,他人事とは思えない,しみじみとした共感を覚える次第です.
・ 堀田 隆一 『英語史で解く 英文法の謎 --- なぜ「3単現の s」をつけるのか』 NHK出版〈NHK出版新書〉,2026年.
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最終更新時間: 2026-08-31 00:40
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