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言語接触 (contact) の概説書を書いている Winford は,文法項目の借用可能性を否定はしていないものの,従来指摘されてきた文法借用の事例の多くは,通常の語彙借用をベースとしたものであり,その発展版という程度のものではないかという考え方を示している.
例えば,一般に中英語期にはフランス語から多くの派生接辞が借用されたといわれる.接尾辞 (suffix) に限っても -acioun, -age, -aunce, -erie, -ment, -ite; -ant, -ard, -esse, -our; -able, -al, -iv, -ous, -ate, -ify, -ize などが挙げられる (Winford 57) .しかし,英語話者は,これらの接尾辞をフランス語語彙からピンポイントで切り取って受容したわけではない.あくまでこれらの接尾辞をもつ単語を大量に受容し,その後に接尾辞を切り出して,英語内部の語形成に適用したのだろう.結果的にフランス語から派生接辞を借用したかのように見えるが,実際のプロセスは,語彙借用の後に接辞を切り出し適用したということなのだろう.
同様に,一見すると統語的な借用に見える事例も,問題の統語構造を構成する語彙項目の借用がまず生じ,それと連動する形で結果的に統語構造そのものもコピーされた結果とみなすことができるかもしれない.
例えば,Winford (66) は Silva-Corvalán の1994年の研究を参照して,標準スペイン語と,英語と濃厚接触しているロサンゼルス・スペイン語の構文を比較している.英語でいえば they broke my jaw に相当する統語構造が,前者では与格 me を伴う y me quebraron la mandibula となるものの,後者では英語風に属格 mi を伴う y quebraron mi, mi jaw となるという.ロサンゼルス・スペイン語の構文において英語からの統語借用が生じているようにみえるが,厳密にいえば「借用」というよりは,英語の統語構造を参照した上でのロサンゼルス・スペイン語としての統語用法の拡張というべきかもしれない.というのは,標準スペイン語でも,後者の構造は不自然ではあるが,影響を受ける対象が「あご」のような身体の部位ではなく,身体から切り離せる一般の所有物の場合には,普通に用いられるからだ.つまり,もともとのスペイン語にあった語用・統語的な制限が,対応する英語構造に触発されて,緩まっただけのように思われる.これを「借用」と呼ぶことができるのか,と.この問題に対する Winford の結論を引こう (68) .
Silva-Corvalán (1998) discusses several other examples like these, and argues that the changes involved are not the outcome of direct borrowing of a syntactic structures or rules from one language into another (1998: 225). Rather, what is involved is a kind of "lexico-syntactic calquing" (ibid.) triggered by partial congruence between Spanish and English words. This results in Spanish words assuming the semantic and/or subcategorization properties of the apparent English equivalents (faux amis). Her findings lead her to the conclusion that "what is borrowed across languages is not syntax, but lexicon and pragmatics" (1998: 226) This claim certainly seems to hold for cases of language maintenance with bilingualism such as that in LA.
「統語借用」を "lexico-syntactic calquing" (cf. loan_translation) として,あるいは統語的 "faux amis" (cf. false_friend) としてとらえる視点はこれまでになかった.目が開かれた.
・ Winford, Donald. An Introduction to Contact Linguistics. Malden, MA: Blackwell, 2003.
・ Silva-Corvalán, Carmen. Language Contact and Change: Spanish in Los Angeles. Oxford: Clarendon, 1994.
・ Silva-Corvalán, Carmen. "On Borrowing as a Mechanism of Syntactic Change." Romance Linguistics: Theoretical Perspectives. Ed. Shwegler, Armin, Bernard Tranel, and Myriam Uribe-Etxebarria. Amsterdam: Benjamins, 1998. 225--46.
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最終更新時間: 2024-12-16 08:44
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