語形成の究極的な方法に語根創成 (root creation) がある.Algeo の新語ソースの分類基準によれば「etymon をもたない語形成」と定義づけられる.
典型的な例として挙げられるものに,googol がある.「10を100乗した数;天文学的数字」を表わし,1940年に米国の数学者 Edward Kasner (1878--1955) が9歳の甥に造語してもらったものとされている.OED に造語の経緯を示す例文が掲載されている.
1940 Kasner & Newman Math. & Imagination i. 23 The name 'googol' was invented by a child (Dr. Kasner's nine-year-old nephew) who was asked to think up a name for a very big number, namely, 1 with a hundred zeros after it. . . At the same time that he suggested 'googol' he gave a name for a still larger number: 'Googolplex'. Ibid. 25 A googol is 10100; a googolplex is 10 to the googol power.
別の有名な例は,商標 Kodak だ.Eastman Kodak Co. の創業者 George Eastman (1854--1932) の造語で,Strang (24--25) に詳細が記されている.
語根創成は,数ある新語形成法のなかでは一般的でないどころか,例外といってよい.しかし,とりわけ個性的な名称を必要とする商標には語根創成が見られることは首肯できる.
さて,語根創成は,いわば無からの創造と考えられるが,本当に「無」かどうかは不明である.語根創成は定義上 etymon をもたないが,参照点をまったくもたないということではない.Algeo の分類では,語根創成は音韻的な動機づけの有無により "onomatopoeia" (ex. miaow) と "arbitrary coinage" (ex. googol) に区別されているが,前者では自然界の音という参照点が一応存在する.音による参照ということでいえば phonaesthesia もそれと近い概念であり,"arbitrary coinage" とされている googol も,少年の頭の中では phonaesthetic な表象があった,淡い音韻的動機づけがあったという可能性は否定できないだろう.Kodak も音の印象を考えに考えての造語だったということなので,語根創成がどの程度「無からの創造」であるかは,不鮮明である.また,その不鮮明さは,単に語源的な情報や知識が不足しているがゆえかもしれない.語源学者の知見の及ばないところに,実は etymon があったという可能性は常にある (Algeo 124) .
語根創成は,当然のことながら,言語の起源とも密接に関わる問題だ([2010-07-02-1]の記事「#431. 諸説紛々の言語の起源」を参照).言語が生まれた当初の新語形成は,ある意味ではすべて語根創成だったと言えるかもしれない.人類言語の発展は,新語形成における語根創成の比率が,当初の100%から限りなく0%へと近づいてゆく過程と捉えることができるかもしれない.
・ Strang, Barbara M. H. A History of English. London: Methuen, 1970.
・ Algeo, John. "The Taxonomy of Word Making." Word 29 (1978): 122--31.
同綴りで品詞によって強勢位置の交替する語 (diatone) の典型例である「名前動後」については,[2009-11-01-1], [2009-11-02-1], [2011-07-07-1], [2011-07-08-1], [2011-07-10-1], [2011-07-11-1]の一連の記事で論及してきた.主に名詞と動詞の差異を強調してきたが,形容詞もこの議論に関わってくる([2011-07-07-1]の記事では関連する話題に言及した).強勢位置について,形容詞は原則として名詞と同じ振る舞いを示し,動詞と対置される.いわば「形前動後」である.
形前動後の事実は,まず統計的に支持される.Bolinger (156--57) によれば,3万語の教育用語彙集からのサンプル調査によると,多音節語について,形容詞の91%が non-oxytonic (最終音節以外に強勢がある)だが,動詞の63%が oxytonic (最終音節に強勢がある)であるという.単音節語については,強勢の位置が前か後ろかを論じることはできないしその意味もないが,単純に動詞と形容詞の個数の比率を取ると動詞が60.7%を占める.単音節語の強勢は通常 oxytonic と解釈されるので,この比率は形容詞に比して動詞の oxytonic な傾向を支持する数値といえよう.
形前動後という強勢位置の分布に関連して,Bolinger は両品詞の語形成上の差異に言及している.形容詞は接尾辞によって派生されるものが多いが (ex. -ant, -ent, -ean, -ial, -al, -ate, -ary, -ory, -ous, -ive, -able, -ible, -ic, -ical, -ish, -ful) ,動詞は接頭辞による派生が多い (ex. re-, un-, de-, dis-, mis-, pre-) .例外的にそれ自身に強勢の落ちる -ose のような形容詞接尾辞もあるが,例外的であることによってかえって際立ち,音感覚性 (phonaesthesia) に訴えかける 増大辞 ( augmentative ) としての機能を合わせもつことになっている(増大辞については[2009-08-30-1]の記事「投票と風船」も参照).bellicose, grandiose, jocose, otiose, verbose などの如くである.
当然のことながら,強勢のない接尾辞により派生された多くの形容詞は必ず non-oxytonic となるし,強勢のない接頭辞により派生された多くの動詞は強勢が2音節目以降に置かれることになり oxytonic となる可能性も高い.この議論を発展させるには,各接辞の生産性や派生語の実例数を考慮する必要があるが,接辞による派生パターンの相違が形前動後の出現に貢献したということであれば大いに興味深い.また,名詞の派生も,形容詞の派生と同様に,接頭辞ではなく接尾辞を多用することを考えれば,名前動後の説明にも同じ議論が成り立つのではないだろうか.
・ Bolinger, Dwight L. "Pitch Accent and Sentence Rhythm." Forms of English: Accent, Morpheme, Order. Ed. Isamu Abe and Tetsuya Kanekiyo. Tokyo: Hakuou, 1965. 139--80.
近代英語期に,本来の2人称単数代名詞 thou が対応する複数の you に取って代わられた背景については,これまでにも多くの記事で触れてきた ([2009-10-11-1], [2009-10-29-1], [2010-02-12-1], [2010-03-26-1], [2010-07-11-1], [2010-10-08-1], [2011-03-01-1]) .2人称代名詞系列の整理に関して事情がややこしいのは,それと同時に本来の主格 ye が対格・与格の you に呑み込まれていったという,もう一つの変化が関わってくることである.前者の thou/you 置換については主に語用論的に研究が盛んだが,後者の you/ye 置換についての研究はあまり聞き覚えがない.
[2009-12-25-1]の記事「phonaesthesia と 遠近大小」で掲げた表を眺めていて,ふと気付いたことがある.you/ye 置換には phonaesthesia が関与しているのではないか,ということである.その表によれば,1人称代名詞 は「近い」語として前舌母音を用いる傾向があるのに対して,2人称代名詞は「遠い」語として後舌母音へ偏っているとされる.そこでは me, we, you を例として挙げたが,もう少し範囲を拡大すれば I, my, me, mine もすべてどちらかといえば前舌母音の部類である.大母音推移前の発音を想定すれば,余計に前舌である.一方,you, your, yours はいずれも後舌母音である.ただし,1人称複数代名詞 we の屈折形を考慮に入れると,us, our, ours などの母音はどちらかといえば後舌母音の部類に属し,ここでは phonaesthesia の遠近対立があてはまらない.
このように phonaesthsia はあくまで弱い説明であることを認めつつも,あえてこの視点から you/ye 置換を考えてみれば,you の後舌母音が「遠い」2人称代名詞にはより適切だったということがいえるのではないか.さらに,大母音推移前の発音としてではあるが,thou と you との脚韻の成立も you の主格への昇格を促す要因だったのではないか.(ちなみに,you が大母音推移を経なかったのは /j/ によるブロックとされる.他例に youth があり.[2009-11-12-1]の記事「<U> はなぜ /yu:/ と発音されるか」も参照.)
閉じた語類は内部に体系性や対称性を示す傾向が強い.[2009-12-25-1]の表で phonaesthesia の遠近対立の例として挙げたものも,すべて閉じた語類である代名詞や指示詞である.証明は難しいのかもしれないが,ye に代わる形態として you が選択された経緯には,体系性の指向と phonaesthesia という,言語に内在する微弱ではあるが普遍的な傾向が関与しているのではないか.
昨日の記事[2011-01-17-1]で blending 「混成」,blend 「混成語」,portmanteau word 「かばん語」といった術語を紹介したが,今日は英語における blending の通時的傾向について概説しつつ,blend の例を挙げたい.
中英語期以前には,混成語の明らかな例はほとんどない.Chaucer の nifle ( nihil + trifle ) "trifle" が例として挙げられることがあるが,MED の語源によれば Anglo-French からの借用語だという.近代英語以降は少しずつ混成語が現われ始め,2語の意味を合成するという本来の機能に加えて,滑稽・揶揄・嘲笑などの効果を狙ったものも出てくる.foolosopher ( fool + philosopher ), balloonacy ( balloon + lunacy ) などである.Lewis Carroll (1832--98) は昨日の記事で挙げた slithy, mimsy のほかにも chortle ( chuckle + snort ) や galumph ( gallop + triumphant ) などの例を生み出しており,まさに portmanteau word の生みの親といえる.
しかし,混成語の生産性が真の意味で爆発したのは20世紀に入ってからである.政治・文化・科学など社会のあらゆる側面で情報量が爆発的に増加するに伴って,新しい語彙の需要も増した.少ない音節に多くの情報を詰め込む "densification" の潮流 ( see [2011-01-12-1] ) に合致するスマートな語形成の1つが,混成だったのである.
上記の経緯で,現代英語にはきわめて多数の混成語が存在する.枚挙にいとまがないが,混成語の生産性の高さと活用の広さをつかむために,ランダムに例を挙げてみよう.
blend | 1st element | 2nd element |
---|---|---|
avionics | aviation | electronics |
brunch | breakfast | lunch |
docudrama | documentary | drama |
Ebonics | Ebony | phonics |
edutainment | education | entertainment |
electret | electricity | magnet |
electrocute | electro | execute |
Eurovision | Euro- | television |
flush | flash | blush |
Franglais | Français | Anglais |
infomercial | information | commercial |
liger | lion | tiger |
motel | motor | hotel |
Oxbridge | Oxford | Cambridge |
Paralympics | parallel | Olympics |
podcast | pod | broadcast |
simulcast | simultaneous | broadcast |
Singlish | Singapore | English |
smog | smoke | fog |
telethon | telephone | marathon |
昨日の記事[2010-01-10-1]で確認したように,ある音の連続とある(漠然とした)意味が緩やかに結びついてカプセル化されている例は多数ある.音素 ( phoneme ) より大きく,形態素 ( morpheme ) より小さいこの単位は phonaestheme とでも呼ぶべきものだが,Bloomfield (245) は root-forming morpheme という用語をあてがっている.
Bloomfield の見方では,flicker, glimmer などの -er 語尾は,形態音韻論的に,brother, river などの語根に埋め込まれた -er と区別されるばかりか,rather, reader などの接尾辞とも明確に区別されるという.flicker, glimmer などに見られる phonaestheme と考えられる -er は,直前の形態素が /r/ を含む場合には現れ得ないという.逆に,brother, river, rather, reader などに見られる phonaestheme ではない -er は,直前の形態素が /r/ を含んでいてもかまわない.
同じことが,phonaestheme としての -le 語尾についてもいえる.直前の形態素が /l/ を含んでいる場合に,-le 語尾が現れることはないという.Bloomfield (245) が挙げている例によれば,brabble 「口論する」や blabber 「口の軽い人」は英語として許容される phonestheme の分布であり,実際に正規の語として存在するが,一見するとあってもおかしくない *brabber や *blabble は存在しない.
ここで思い出すのは,[2009-07-26-1], [2009-07-09-1]で話題にした dissimilation 「異化(作用)」である./r/ と /l/ は音声学的にはともに流音 ( liquid ) であり,日本語母語話者の耳ならずとも,似ている音である.全く同じ音が短い間隔で連続すると,発音上ろれつが回らないという結果になるので,あえて少しだけ音を替えるということが生じる.例えば,同一語内に /r/ が二回現れる場合には,二つ目の /r/ を /l/ に替える,などといったことが起こりうる.brabble や blabber はこの dissimilation でみごとに説明される.
一般に,dissimilation は単発的な例を説明する後付けの原理であり,言語変化論でも陰のうすい話題である.実際,brother, river など多くの語では働いていないわけであり,一般性の薄さは明らかである.だが,phonaestheme としての -er や -le には分布上のルールがあり,「構造」をもつ独立した単位として他の -er や -le と区別すべきだという Bloomfield の立場は,日陰の存在たる dissimilation にとっては朗報である.「phonaestheme が含まれる語においては dissimilation が特に生じやすい」などという形で,形態音韻論規則(というほど強力なものではないかもしれないが)に取り込まれ,立場が明確になるからである.「単発じゃない,ランダムじゃない,地味だけどオレはいつもここにいるよ」的な叫びが聞こえてきそうである.
ライバルの assimilation 「同化(作用)」が比較的日の当たる存在であるだけに,dissimilation を救ってあげようという趣旨での記事でした.
・Bloomfield, Leonard. Language. Rev. ed. London: George Allen & Unwin, 1935.
[2009-12-26-1], [2009-12-25-1]で phonaesthesia と考えられる例をいくつか紹介したが,他にも該当するとおぼしき例は,身近なところに多数ある.特に語頭や語末に現れる特定の音の連続が,特定の connotation と結びついていると考えられる例である.以下は,Bloomfield (245) より抜き出したものである.
root-forming morphemes | signification | word examples |
---|---|---|
[fl-] | "moving light" | flash, flare, flame, flick-er, flimm-er |
[fl-] | "movement in air" | fly, flap, flit (flutt-er) |
[gl-] | "unmoving light" | glow, glare, gloat, gloom (gleam, loam-ing, glimm-er), glint |
[sl-] | "smoothly wet" | slime, slush, slop, slobb-er, slip, slide |
[kr-] | "noisy impact" | crash, crack (creak), crunch |
[skr-] | "grating impact or sound" | scratch, scrape, scream |
[sn-] | "breath-noise" | sniff (snuff), snore, snort, snot |
[sn-] | "quick separation or movement" | snap (snip), snatch (snitch) |
[sn-] | "creep" | snake, snail, sneak, snoop |
[dʒ] | "up-and-down movement" | jump, jounce, jig (jog, jugg-le), jangle (jingle) |
[b-] | "dull impact" | bang, bash, bounce, biff, bump, bat |
[-æʃ] | "violent movement" | bash, clash, crash, dash, flash, gash, mash, gnash, slash, splash |
[-ɛə] | "big light or noise" | blare, flare, glare, stare |
[-aʊns] | "quick movement" | bounce, jounce, pounce, trounce |
[-im] mostly with determinative [-ə] | "small light or noise" | dim, flimmer, glimmer, simmer, shimmer |
[-ʌmp] | "clumsy" | bump, clump, chump, dump, frump, hump, lump, rump, stump, slump, thump |
[-æt] with determinative [-ə] | "particled movement" | batter, clatter, chatter, spatter, shatter, scatter, rattle, prattle |
. . . in these [English symbolic words] we can distinguish, with varying degrees of clearness, and with doubtful cases on the border-line, a system of initial and final root-forming morphemes, of vague signification.
Bloomfield のような構造主義言語学者にとって,形態素を音素へ分解しようとする過程に現れる phonaesthesia は,形態素とも音素ともつかない中途半端な存在に映ったかもしれない.だが,主に「語頭」や「語末」に起こるという語の内部における分布を指摘し,歴とした構造 ( system ) なのだと力強く説いているあたり,実に構造主義言語学らしい論じ方だと感心する.
・Bloomfield, Leonard. Language. Rev. ed. London: George Allen & Unwin, 1935. 245.
昨日の記事[2009-12-25-1]で,前舌・高母音が「近い,小さい」を,後舌・低母音が「遠い,大きい」を示唆するという英語の phonaesthesia を話題にした.
認知科学では,空間的な「遠近」と時間的な「遠近」が関係していることは広く認められている.前舌・高母音は "here-me-now" を,後舌・低母音は "there-you-then" を象徴するという.時間の遠近の phonaesthesia についても,Smith 先生のお気に入りの例があるので紹介したい.
その例というのは Prokosch からの引用にもとづいたものであり,以下は孫引きとなるが,Smith 先生の論文より再掲する.
American nursery talk offers an amusing illustration. A little steam train tries to climb a hill and says cheerfully, 'I think I can, I think I can.' But the hill is too steep, the poor little engine slides back and says sadly, 'I thought I could, I thought I could.' The front vowels [ɪ æ] aptly characterize the active interest in the successful performance, the back vowels [ɔ ʊ] the melancholy retrospect to what might have been. (Prokosch 122 qtd in Smith 13)
不規則変化動詞の母音交替 ( Ablaut or gradation ) を観察してみると,現在形と過去形に現れる母音が前舌母音と後舌母音の対応を示している例が少なからずある ( Smith 14 ).特に,大母音推移以前の発音を想定すると,この傾向がよりよくわかるだろう.
現在形 | 過去形 |
---|---|
write | wrote |
bind | bound |
bear | bore |
tread | trod |
shake | shook |
Glasgow 大学の恩師 Jeremy J. Smith 先生のお気に入りの話題の一つに sound symbolism がある.sound symbolism には onomatopoeia と phonaesthesia があり,後者については[2009-11-20-1]で触れた.
本来,音それ自身は意味をもたないが,ある音や音の連鎖が特定の概念,あるいはより抽象度の高い印象,と結びつくことがある.この結びつきのことを phonaesthesia と呼ぶ.これは言語ごとに異なるが,言語間で共通することも多い.英語では,前舌母音や高母音は「近い,小さい」印象を,後舌母音や低い母音は「遠い,大きい」印象と結びつくことが多い.例えば,遠近の対立は以下のペアにみられる.
近い | 遠い |
---|---|
me | you (sg.) |
we | you (pl.) |
here | there |
this | that |
these | those |
When the tongue is high and at the front of the mouth, it makes a small resonant cavity there that amplifies some higher frequencies, and the resulting vowels like ee and i (as in bit) remind people of little things. When the tongue is low and to the back, it makes a large resonant cavity that amplifies some lower frequencies, and the resulting vowels like a in father and o in core and in cot remind people of large things. Thus mice are teeny and squeak, but elephants are humongous and roar. Audio speakers have small tweeters for the high sounds and large woofers for the low ones.
・Pinker Steven. The Language Instinct. New York: HarperCollins, 1994. Harper Perennial Modern Classics. 2007.
昨日の記事[2009-11-19-1]の続編.great や steak がGVS で一段しか上昇しなかったのはなぜか.決定的なことはよく分からないが,気になる説が一つある.
Samuels (152) によれば,/ɛ:/ から二段上昇した /i:/ は "smallness, daitiness, politeness, dexterity" を示唆するのに対し,一段しか上昇しなかった /e:/ は "size, expanse, tangibility, grossness" を示唆するという.この場合の「示唆」とは,音から連想されるイメージのことを指し,専門的には phonaesthesia と呼ばれる.この連想は人類普遍的なものというよりは,特定の言語における慣習的なものととらえるべきだろう.phonaesthesia は次のように定義される.
a phenomenon whereby the presence of a particular phonological component seems to correspond regularly --- though not consistently --- to one particular semantic component (Smith 9)
Samuels が /i:/ の音と "smallness, daitiness, politeness, dexterity" のイメージを phonaesthesia として重ね合わせているのは,例えば次のような語群に支えられるがゆえである.
cleat, feat, fleet "nimble", greet, meet "fitting", neat, pleat, sweet, teat, treat
同様に,/e:/ (後の /eɪ/ )の音と "size, expanse, tangibility, grossness" のイメージを phonaesthesia として重ね合わせているのは,例えば次のような語群に支えられるがゆえである.
bait, bate "strife", crate, eight, fate, freight, gate, grate, hate, pate, plate, prate, rate, sate, skate, slate, state, straight, weight
もちろん,上記の対になった二種類の phonaesthesia に例外の少なくないことは Samuels も認めている.しかし,後者の phonaesthesia により great の発音に一つの説明が与えられることは魅力的である./i:/ の「小さくて繊細な」イメージに対して /e:/ の「大きくて粗野な」イメージは,great のみならず break や steak をも説明しうるのではないか.
Samuels の説は確かに珍説かもしれないが,そのお弟子さんである Smith (12) は熱烈に支持している.そして,その Smith 先生に教えを受けた筆者も・・・やはり支持したい.
・Samuels, M. L. Linguistic Evolution with Special Reference to English. London: CUP, 1972.
・Smith, Jeremy J. "Phonaesthesia, Ablaut and the History of the English Demonstratives." Medieval English and its Heritage. Ed. Nikolaus Ritt, Herbert Schendl, Christiane Dalton-Puffer, and Dieter Kastovsky. Frankfurt am Main: Peter Lang, 2006. 1--17.
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