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adjective - hellog〜英語史ブログ

最終更新時間: 2025-02-22 08:49

2010-09-11 Sat

#502. テレビ広告の英語に見られる肯定的形容詞 [variety][adjective]

 Crystal (98) に,Geoffrey Leech のテレビ広告で最も頻繁に用いられる形容詞に関する研究が言及されている.それによると,上位20形容詞は以下の通りである(頻度順に).

new, good/better/best, free, fresh, delicious, full, sure, clean, wonderful, special, crisp, fine, big, great, real, easy, bright, extra, safe, rich


 広告の言語であるから肯定的な語が多いのは自然といえる.また,広告では印象的で感情に訴えかける語で,なおかつ短い語を用いる傾向があると予想されるため,語源的には英語本来語が多いのではないかと推測できる.だが,上の20語を調べてみると,確実に本来語と言えるのは意外にも半分の10語にすぎなかった ( new, good/better/best, free, fresh, full, clean, wonderful, great, bright, rich ).それ以外は,ロマンス語由来のものが多い.一方で語の短さでみると,音節数の平均値は 1.35 である.多音節語は wonderful, delicious, special, extra の4語にすぎない.ロマンス語由来でも短い語が多いということは,それらが庶民化あるいは本来語化した形容詞だということになり,広告の言語の要求する条件と一致するように思われる.1世代前のテレビ広告と比べて頻出形容詞の質や量に違いがあるのかどうかなど,通時的な研究もおもしろそうである.
 ところで,肯定的な形容詞がこれほどまでに頻度の上位を占める言語変種は,広告をおいて他にありえないのではないか.Leech の研究はコーパスに基づいた研究に違いないが,このような調査はマーケティング,営業,自分の売り込みなどに活用できるかもしれない.では逆に否定的な形容詞が頻出する言語変種とは何だろうか.考えてみたら次のような言語変種やジャンルが思い浮かんだ.

 ・ 悪口の会話,愚痴の会話
 ・ 皮肉な評論,酷評文
 ・ 風刺文学
 ・ 呪いの発話・文章

 今のところこのようなネガティブな(ブラックな?)言語変種に着目したコーパスというのは出ていないように思えるが,ポジティブな結果が出る研究よりきっとおもしろいのではないだろうか.

 ・ Crystal, David. The English Language. 2nd ed. London: Penguin, 2002.

Referrer (Inside): [2011-03-25-1] [2011-03-11-1]

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2010-07-27 Tue

#456. 比較の -er, -est は屈折か否か [adjective][adverb][comparison][inflection]

 現代英語で形容詞や副詞の比較級,最上級を作るのに,(1) -er, -est を接尾辞として付加する方法と,(2) more, most という語を前置する方法の,大きく分けて二通りがありうる.
 一般に (1) を屈折 ( inflection ),(2) を迂言 ( periphrasis ) と呼ぶが,Kytö は (1) は実際には屈折は関わっていないという (123).そこでは議論は省略されているが,-er, -est を屈折でないとする根拠は,おそらく (a) すべての形容詞・副詞が比較を作るわけではなく,(b) ある種の形容詞・副詞は迂言的にしか比較級,最上級を作れず,(c) さらにある種の形容詞・副詞は迂言でも接尾辞付加でも作れる,などと分布がばらけているので,-er, -est の付加を,「文法的に必須である」ことを要諦とする「屈折」とみなすのはふさわしくないということなのではないか.
 一方で,Carstairs-McCarthy によると -er, -est は屈折と呼ぶべきだという.

The justification for saying that comparative and superlative forms of adjectives belong to inflectional rather than to derivational morphology is that there are some grammatical contexts in which comparative or superlative adjectives are unavoidable, anything else (even if semantically appropriate) being ill-formed: (41)


 問題は,屈折と呼び得るためには,すべての関連する語において文法的に必須でなければいけないのか,あるいはその部分集合において文法的に必須であればよいのかという点である.例えば,次の文で pretty を用いようとするならば文法的に prettier にしなければならない.

This girl is prettier/*pretty than that girl.


 この文脈では,-er は文法的に必須であるから屈折と呼んで差し支えないように思われる.しかし,beautiful を用いるのであれば,more による迂言法でなければならない.

This girl is more beautiful/*beautifuler/*beautiful than that girl.


 ここでは -er は文法的に必須でないどころか文法的に容認されないわけで,このように pretty か beautiful かなど語を選ぶようでは屈折といえないのではないかというのが Kytö の理屈だろう.
 ある語が -er をとるのか more をとるのかの区別が明確につけられるのであれば,その限りにおいて,ある語群においては -er 付加が文法的に必須ということになり,屈折と呼びうることになるのかもしれない.しかし,明確な区別がないのは[2010-06-04-1]でも述べたとおりである.屈折と呼べるかどうかは,理論的に難しい問題のようだ.

 ・ Kytö, Merja. " 'The best and most excellentest way': The Rivalling Forms of Adjective Comparison in Late Middle and Early Modern English." Words: Proceedings of an International Symposium, Lund, 25--26 August 1995, Organized under the Auspices of the Royal Academy of Letters, History and Antiquities and Sponsored by the Foundation Natur och Kultur, Publishers. Ed. Jan Svartvik. Stockholm: Kungl. Vitterhets Historie och Antikvitets Akademien, 1996. 123--44.
 ・ Carstairs-McCarthy, Andrew. An Introduction to English Morphology. Edinburgh: Edinburgh UP, 2002. 134.

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2010-04-18 Sun

#356. 動物を表すラテン語形容詞 [adjective][suffix][latin][loan_word][etymology]

 [2010-03-24-1], [2010-03-25-1]の記事で,動物とその肉を表す名詞の語種について話題にした.今回はそれと多少なりとも関連した,動物名詞とその形容詞の語種について取りあげる.
 動物名詞からその派生形容詞を作るには,いくつかの方法がある.最も生産的なのは -like を接尾辞としてつける方法で,事実上,どの動物名詞にも適用できる ( ex. doglike, squirrel-like ).また,生産性の点では -like には及ばないが,接尾辞 -ish や -y を付加する例も比較的よく見られる ( ex. apish, sheepish; lousy, snaky ).しかし,今回取り上げたいのは -ine という接尾辞を含むラテン語に由来する動物形容詞である.動物名詞の多くは英語本来語であり,ラテン語由来の -ine 形容詞とのペアをみると,互いに形態的に関連づけることは当然ながら難しい.いくつか例を挙げる.

NOUNADJECTIVE
bearursine
bulltaurine
catfeline
cowbovine
crowcorvine
deercervine
dogcanine
foxvulpine
horseequine
pigporcine
waspvespine
wolflupine


 一見すると見当がつきにくいが,英語もラテン語も広い意味では印欧語族の仲間であるから,cow / bovinecrow / corvine, wasp / vespine などは究極的には同根である.
 一方,動物名詞が英語本来語でない場合には,その -ine 形容詞との形態的な差はないか,あるいはあったとしても僅少である.以下の例では,eagle / aquiline 辺りが注意を要するくらいか.

NOUNADJECTIVE
assasinine
eagleaquiline
elephantelephantine
falconfalconine
giraffegiraffine
gorillagorilline
hy(a)enahy(a)enine
lionleonine
pantherpantherine
serpentserpentine
viperviperine
vulturevulturine
zebrazebrine


 -ine 形容詞は学術的な響きを有するため,普段お目にかかる機会は少ない.しかし,このような限られた分野では,よく見られる接尾辞である.

 ・ Malkiel, Yakov. "Why Ap-ish but Worm-y?" Studies in Descriptive and Historical Linguistics: Festschrift for Winfred P. Lehmann. Ed. Paul J. Hopper. Amsterdam: Benjamins, 1977. 341--64. esp. Page 342.

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2009-06-07 Sun

#40. 接尾辞 -ly は副詞語尾か? [suffix][adverb][adjective][old_norse][-ly]

 現代英語では, -ly が形容詞から副詞を作る典型的な接尾辞であることはよく知られている.nice - nicelyquick - quicklyterrible - terribly の類である.非常に生産的であり,原則としてどの形容詞にも付きうる.
 ところが,-ly は実際には名詞から形容詞を作る接尾辞として機能することもある.例えば,beastlycowardlyfatherlyfriendlyknightlyrascallyscholarlywomanly など.時間を表す,dailyhourlyweeklyyearly も同様である.副詞接辞にも形容詞接辞にもなりうるこの -ly とはいったい何なのだろうか.語源を探ってみよう.
 古英語の対応する接尾辞は -līċ である.līċ は単体としては「形,体」を意味する名詞である.これは現代英語の like 「?のような,?に似た」の語源でもある.-līċ が接尾辞として他の名詞に付くと,「(名詞)の形態をした,(名詞)のような」という形容詞的意味が生じた.現代英語では,-like の付く形容詞も存在するが,成り立ちとしては -ly とまったく同じだということがわかるだろう(例:businesslikechildlikelifelike).実際,形容詞語尾としての -like は -ly 以上に生産的であり,事実上どんな名詞にも付き得て,形容詞を作ることができる(例:doglikejerry-likesphinxlike).
 以上で,-ly ( < OE -līċ ) がまず最初に形容詞語尾であることが分かっただろう.それでは,副詞語尾としての -ly はどこから来たのか.古英語では,形容詞は与格に屈折させると副詞機能を果たすことができた(see [2009-06-06-1]).-līċ の付く形容詞の与格形は,語尾に <e> を付加するだけの -līċe であった.ところが,中英語期にかけて起こった語尾音の消失により,与格語尾の <e> が落ち,結果的に形容詞語尾の -līċ と同形になってしまった.さらに,恐らく古ノルド語の対応する形態 -lig- の影響により,中英語後期までに -līċ の最後の子音が弱化・消失し,現在のような -ly の形に落ち着いた.
 以上みてきたように,現代英語の -ly という接尾辞は,語源的には古英語の形容詞接辞 -līċ と副詞接辞 -līċe の両方に対応する形態である.中英語期にこの形態が確立してからは,形容詞接辞としてよりも副詞接辞としての役割のほうが大きくなり,大量の -ly 副詞が生まれた.そのような事情で 現代英語の -ly は典型的な副詞語尾とみなされることが多いわけだが,順序としては,まず形容詞語尾としての役割が先にあったことを押さえておく必要があるだろう.

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