「#2290. 形容詞屈折と長母音の短化」 ([2015-08-04-1]) で,<oo>, <ea> で表わされた長母音が初期近代英語で短化した音韻過程を取り上げた.とりわけ <oo> の問題については「#547. <oo> の綴字に対応する3種類の発音」 ([2010-10-26-1]),「#1353. 後舌高母音の長短」 ([2013-01-09-1]),「#1297. does, done の母音」 ([2012-11-14-1]),「#1866. put と but の母音」 ([2014-06-06-1]) で扱ってきた.
<oo> で表わされた [uː] の [ʊ] への短化は,関係するすべての語で生じたわけではない.Phillips (233) の参照した Mieko Ogura (Historical English Phonology: A Lexical Perspective. Tokyo: Kenkyusha, 1987.) によれば,初期近代英語,とりわけ16--17世紀から得られた証拠に基づくと,短化は最初に [d] の前位置で,次いで [v], [t, θ, k] の前位置で生じたという.とりわけ子音+ [l] の後位置では生じやすかったとされる.つまり,語彙拡散の要領で,音環境に従って,変化が徐々に進行していったという.
この順序に関して,Ogura は音環境,頻度の高さ,音節の isochrony という観点から説明しようとしたが,Phillips は調音音声学的な根拠を提案している.そもそも Phillips は,当該の音変化は,「短化」という量的な変化とみるべきではなく,「弛緩化」という質的な変化とみるべきだと主張する.というのは,もし純粋な音変化としての短化であれば,無声音 [t] の前位置のほうが有声音 [d] の前位置よりも母音は本来的に短く,先に短化すると想定されるが,実際には逆の順序だからだ.質的な弛緩化ととらえれば,それがなぜ [d] の前位置で早く生じたのか,調音音声学的に説明できるという.
調音音声学によれば,[l] と [d] に挟まれた環境では [u(ː)] は [ʊ] へと弛緩しやすいという.また,歯音の調音に際しては,他の子音の場合と比べて舌の後部が低くなることが多く,やはり弛緩化を引き起こしやすいともされる (Phillips 237) .最後に,[d], [t] という順序に関しては,前者が後者よりもより弛緩的 (lax) であるという根拠もある.全体として,Phillips は,調音音声学的なパラメータを導入することで,この語彙拡散と変化のスケジュールを無理なく説明できると主張している.
必ずしも精緻な議論とはなっていないようにも思われるが,1つの見方ではあろう.一方,[2015-08-04-1]の記事でみたように,形態的な視点を部分的に含めた Görlach の見解にも注意を払う必要がある.
・ Phillips, Betty S. "Lexical Diffusion and Competing Analyses of Sound Change." Studies in the History of the English Language: A Millennial Perspective. Ed. Donka Minkova and Robert Stockwell. Berlin: Mouton de Gruyter, 2002. 231--43.
<look>, <blood>, <dead>, <heaven>, などの母音部分は,2つの母音字で綴られるが,発音としてはそれぞれ短母音である.これは,近代英語以前には予想される通り2拍だったものが,その後,短化して1拍となったからである.<oo> の綴字と発音の関係,およびその背景については,「#547. <oo> の綴字に対応する3種類の発音」 ([2010-10-26-1]),「#1353. 後舌高母音の長短」 ([2013-01-09-1]),「#1297. does, done の母音」 ([2012-11-14-1]),「#1866. put と but の母音」 ([2014-06-06-1]) で触れた.<ea> については,「#1345. read -- read -- read の活用」 ([2013-01-01-1]) で簡単に触れたにすぎないので,今回の話題として取り上げたい.
上述の通り,<ea> は本来長い母音を表わした.しかし,すでに中英語にかけての時期に3子音前位置で短化が起こっており,dream / dreamt, leap / leapt, read / read, speed / sped のような母音量の対立が生じた (cf. 「#1854. 無変化活用の動詞 set -- set -- set, etc.」 ([2014-05-25-1])) .また,単子音前位置においても,初期近代英語までにいくつかの単語において短化が生じていた (ex. breath, dead, dread, heaven, blood, good, cloth) .これらの異なる時代に生じた短化の過程については「#2052. 英語史における母音の主要な質的・量的変化」 ([2014-12-09-1]) や「#2063. 長母音に対する制限強化の歴史」 ([2014-12-20-1]) で見たとおりであり,純粋に音韻史的な観点から論じることもできるかもしれないが,特に初期近代英語における短化は一部の語彙に限られていたという事情があり,問題を含んでいる.
Görlach (71) は,この議論に,間接的ではあるが(統語)形態的な観点を持ち込んでいる.
Such short vowels reflecting ME long vowel quantities are most frequent where ME has /ɛː, oː/ before /d, t, θ, v, f/ in monosyllabic words, but even here they occur only in a minority of possible words. It is likely that the short vowel was introduced on the pattern of words in which the occurrence of a short or a long vowel was determined by the type of syllable the vowel appeared in (glad vs. glade). When these words became monosyllabic in all their forms, the conditioning factor was lost and the apparently free variation of short/long spread to cases like (dead). That such processes must have continued for some time is shown by words ending in -ood: early shortened forms (flood) are found side by side with later short forms (good) and those with the long vowel preserved (mood).
子音で終わる単音節語幹の形容詞は,後期中英語まで,統語形態的な条件に応じて,かろうじて屈折語尾 e を保つことがあった (cf. 「#532. Chaucer の形容詞の屈折」 ([2010-10-11-1])) .屈折語尾 e の有無は音節構造を変化させ,語幹母音の長短を決定した.1つの形容詞におけるこの長短の変異がモデルとなって,音節構造の類似したその他の環境においても長短の変異(そして後の短音形の定着)が見られるようになったのではないかという.ここで Görlach が glad vs. glade の例を挙げながら述べているのは,本来は(統語)形態的な機能を有していた屈折語尾の -e が,音韻的に消失していく過程で,その機能を失い,語幹母音の長短の違いにその痕跡を残すのみとなっていったという経緯である (cf. 「#295. black と Blake」 ([2010-02-16-1])) .関連して,「#977. 形容詞の屈折語尾の衰退と syntagma marking」 ([2011-12-30-1]) で触れたアフリカーンス語における形容詞屈折語尾の「非文法化」の事例が思い出される.
・ Görlach, Manfred. Introduction to Early Modern English. Cambridge: CUP, 1991.
eye について,その複数形の歴史的多様性を「#219. eyes を表す172通りの綴字」 ([2009-12-02-1]) で示した.この語は,発音に関しても歴史的に複雑な過程を経てきている.今回は,eye の音変化の歴史を略述しよう.
古英語の後期ウェストサクソン方言では,この語は <eage> と綴られた.発音としては,[æːɑɣe] のように,長2重母音に [g] の摩擦音化した音が続き,語尾に短母音が続く音形だった.まず,古英語期中に語頭の2重母音が滑化して [æːɣe] となった.さらにこの母音は上げの過程を経て,中英語期にかけて [eːɣe] という音形へと発達した.
一方,有声軟口蓋摩擦音は前に寄り,摩擦も弱まり,さらに語尾母音は曖昧化して /eːjə/ が出力された.語中の子音は半母音化し,最終的には高母音 [ɪ] となった.次いで,先行する母音 [e] はこの [ɪ] と融合して,さらなる上げを経て,[iː] となるに至る.語末の曖昧母音も消失し,結果として後期中英語には語全体として [iː] として発音されるようになった.
ここからは,後期中英語の I [iː] などの語とともに残りの歴史を歩む.高い長母音 [iː] は,大母音推移 (gvs) を経て2重母音化し,まず [əɪ] へ,次いで [aɪ] へと発達した.標準変種以外では,途中段階で発達が止まったり,異なった発達を遂げたものもあるだろうが,標準変種では以上の長い過程を経てきた.以下に発達の歴史をまとめて示そう.
/æːɑɣe/ |
↓ |
/æːɣe/ |
↓ |
/eːɣe/ |
↓ |
/eːjə/ |
↓ |
/eɪə/ |
↓ |
/iːə/ |
↓ |
/iː/ |
↓ |
/əɪ/ |
↓ |
/aɪ/ |
強勢音節における <ear> の綴字で表わされる発音には,3種類がある.hear や beard のような /ɪər/,learn や dearth のような /ər/,heart や hearth のような /ɑr/ である.とりわけ子音が後続する場合には,2つめの learn のように /ər/ の発音となるのが普通で,beard や heart のタイプは珍しい.ここでは特に heart や hearth の不規則性について考えたい.
この問題を考察するにあたっては,中英語期の音変化について知る必要がある.中英語の /er/ に対応する綴字には,典型的なものとして <er> と <ear> があった.後者の母音は2文字で綴られることからわかるとおり元来は二重母音あるいは長母音を表わしたが,後ろに子音が続く環境では往々にして短化したために,<er> と等価になった.14世紀末,おそらく Chaucer の時代あたりに,非常に多くの単語において,この <er> あるいは <ear> で表わされた /er/ の母音が下げの過程を経て,/ar/ へと変化した.この音変化に伴って,綴字も <ar> と書き換えられる例が多かった.例えば,dark (< derk), darling (< derling), far (< fer), star (< ster), starve (< sterve), yard (< yerde) である.しかし,変化前後の両音がしばらく揺れを示していたことを反映し,綴字でも <ar> へ変更されず,<er> や <ear> を保ったものもあった.17世紀頃には発音は /ar/ が普通となっていたが,18世紀には綴字発音の影響で /er/ に戻ったものもあり,関与する単語群において,この発音と綴字の関係は安定感を欠くことになった.結果として,発音は /ar/ へ変化したものが標準化したけれど,綴字は <er> や <ear> で据え置かれるという例が生じてしまった.
<er> の例には,sergeant やイギリス発音としての clerk, Derby などがある(cf. 「#211. spelling pronunciation」 ([2009-11-24-1]), 「#1343. 英語の英米差を整理(主として発音と語彙)」 ([2012-12-30-1])) .また,<ear> の例としては heart, hearth のほか,hearken (おそらく hear の綴字に影響を受けたもの.<harken> の綴字もあり)や固有名詞 Liskeard などがある.Kearney などでは,発音としては /ər/ と /ɑr/ の両方の可能性がある(以上,Carney (311),Jespersen (197--99), 中尾 (207--08), Scragg (49) などを参照した).
beard の示す不規則性については,現在同じ母音をもつ fierce, Pierce にもかつて /ər/ という変異発音が存在したことを述べておこう.逆に,現在は /ər/ をもつ vers に /ɪər/ の変異発音が聞かれたこともあった (Jespersen 365) .
・ Carney, Edward. A Survey of English Spelling. Abingdon: Routledge, 1994.
・ 中尾 俊夫 『音韻史』 英語学大系第11巻,大修館書店,1985年.
・ Jespersen, Otto. A Modern English Grammar on Historical Principles. Part 1. Sounds and Spellings. 1954. London: Routledge, 2007.
・ Scragg, D. G. A History of English Spelling. Manchester: Manchester UP, 1974.
昨日の記事「#2241. Dictionary of Canadianisms on Historical Principles」 ([2015-06-16-1]) に引き続き,UBC での SHEL-9/DSNA-20 Conference 参加の余勢を駆って,カナダ英語の話題.
カナダ英語は,「#313. Canadian English の二峰性」 ([2010-03-06-1]) でも指摘したように,歴史的に American English と British English の双方に規範を仰いできたが,近年は AmE への志向が強いようだ.いずれの磁石に引っ張られるかは,発音,文法,語彙,語法などの部門によっても異なるが,発音については,カナダ英語はアメリカ英語と区別するのが難しいほどに類似していると言われる.そのなかで,Brinton and Fee (426--30) は標準カナダ英語 (Standard Canadian English; 以下 SCE と表記) の音韻論的特徴として以下の8点に言及している.
(1) Canadian Raising: 無声子音の前で [aʊ] -> [ʌu], [aɪ] -> [ʌɪ] となる.したがって,out and about は,oat and a boat に近くなる.有声子音の前では上げは生じないため,次の各ペアでは異なる2重母音が聞かれる.lout/loud, bout/bowed, house/houses, mouth (n.)/mouth (v.), spouse/espouse; bite/bide, fife/five, site/side, tripe/tribe, knife/knives. スコットランド変種,イングランド北部変種,Martha's Vineyard 変種 (cf. [2015-02-22-1]) などにおいても,似たような上げは観察されるが,Canadian Raising はそれらとは関係なく,独立した音韻変化と考えられている.
(2) Merger of [ɑ] and [ɔ]: 85%のカナダ英語話者にみられる現象.19世紀半ばからの変化とされ,General American でも同じ現象が観察される.この音変化により以下のペアはいずれも同音となっている.offal/awful, Don/dawn, hock/hawk, cot/caught, lager/logger, Otto/auto, holly/Hawley, tot/taught. 一方,GA と異なり,[ɹ] の前では [ɔ] を保っているという特徴がある (ex. sorry, tomorrow, orange, porridge, Dorothy) .この融合については,「#484. 最新のアメリカ英語の母音融合を反映した MWALED の発音表記」 ([2010-08-24-1]) を参照.
(3) Voicing of intervocalic [t]: 母音に挟まれた [t] が,有声化し [d] あるいは [ɾ] となる現象.結果として,以下のペアはそれぞれ同音となる.metal/medal, latter/ladder, hearty/hardy, flutter/flooder, bitter/bidder, litre/leader, atom/Adam, waiting/wading. SCE では,この音韻過程が他の環境へも及んでおり,filter, shelter, after, sister, washed out, picture などでも生じることがある.
(4) Yod dropping: SCE では,子音の後のわたり音 [j] の削除 (glide deletion) が,GA と同様に s の後では生じるが,GA と異なり [t, d, n] の後では保持されるということが伝統的に主張されてきた.しかし,実際には,GA の影響下で,後者の環境においても yod-dropping が生じてきているという (cf. 「#841. yod-dropping」 ([2011-08-16-1]),「#1562. 韻律音韻論からみる yod-dropping」 ([2013-08-06-1])) .
(5) Retention of [r]: SCE は一般的に rhotic である.歴史的には New England からの王党派 (Loyalists) によってもたらされた non-rhotic な変種の影響も強かったはずだが,rhotic なイギリス諸方言が移民とともに直接もたらされた経緯もあり,後者が優勢となったものだろう.
(6) Marry/merry/Mary: 標準イギリス英語では3種の母音が区別されるが,カナダ英語とアメリカ英語のいくつかの変種では,Mary と merry が [ɛr] へ融合し,marry が [ær] として区別される2分法である.さらに,カナダ英語では英米諸変種と異なり,Barry, guarantee, caramel などで [æ] がより低く調音される.
(7) Secondary stress: -ory, -ary, -ery で終わる語 (ex. laboratory, secretary, monastery ) で,GA と同様に,第2強勢を保つ.
(8) [hw] versus [w]: GA の傾向と同様に,which/witch, where/wear, whale/wale, whet/wet の語頭子音が声の対立を失い,同音となる.
このように見てくると,SCE 固有の音韻的特徴というよりは,GA と共通するものも多いことがわかる.概ね共通しているという前提で,部分的に振るまいが違う点を取り上げて,カナダ英語の独自性を出そうというところか.Brinton and Fee (526) が Bailey (161)) を引いて言うように,"What is distinctly Canadian about Canadian English is not its unique linguistic features (of which there are a handful) but its combination of tendencies that are uniquely distributed" ということだろう.
アメリカ英語とイギリス英語の差違についても,ある程度これと同じことが言えるだろうと思っている.「#2186. 研究社Webマガジンの記事「コーパスで探る英語の英米差 ―― 基礎編 ――」」 ([2015-04-22-1]) で紹介した,研究社WEBマガジン Lingua リンガへ寄稿した拙論でも述べたように,「歴史的事情により,アメリカ英語とイギリス英語の差異は,単純に特定表現の使用・不使用として見るのではなく,その使用頻度の違いとして見るほうが往々にして妥当」である.使用の有無ではなく分布の違いこそが,ある変種を他の変種から区別する有効な指標なのだろうと思う.本来社会言語学的な概念である「変種」に,言語学的な観点を持ち込もうとするのであれば,このような微妙な差異に注意を払うことが必要だろう.
(後記 2015/06/19(Fri): Bailey (162) は,使用頻度の違いという見方をさらにカナダ英語内部の諸変種間の関係にも適用して,次のように述べている."The most useful perspective, then, is one in which Canadian English is viewed as a cluster of features that combine in varying proportions in differing communitites within Canada." (Bailey, Richard W. "The English Language in Canada." English as a World Language. Ed. Richard W. Bailey and Manfred Görlach. Ann Arbor: U of Michigan P, 1983. 134--76.))
・ Brinton, Laurel J. and Margery Fee. "Canadian English." The Cambridge History of the English Language. Vol. 6. Cambridge: CUP, 2001. 422--40 .
・ Bailey, Richard W. "The English Language in Canada." English as a World Language. Ed. Richard W. Bailey and Manfred Görlach. Ann Arbor: U of Michigan P, 1982. 134--76.
なぜ the apple が普通は [ði ˈæpl] と発音され,[ðə ˈæpl] となりにくいのか.この問題については,「#906. the の異なる発音」 ([2011-10-20-1]),「#907. 母音の前の the の規範的発音」 ([2011-10-21-1]) でいくつかの見解を紹介してきた.ある種の音便 (euphony),[i] 音の調音的・聴覚的な明確さ,規範教育の効果などが関与しているのではないかと述べてきたが,大名 (68--72) は母音の緊張・弛緩という観点から,この問題に迫っている.
英語の母音には,緊張 (tense) と弛緩 (lax) の対立がある.前舌高母音でいえば [i(ː)] が緊張母音,[ɪ] が弛緩母音だ.単語内で各々が生じうる環境は音韻論的におよそ決まっている.例えば無強勢音節の末尾においては happy [ˈhæpi] のように緊張母音が現われるのが普通だが,その後に音節が後続すると happily [ˈhæpɪli] のように弛緩母音が現われることが多い.場合によっては,弛緩母音 [ɪ] はさらに弛緩化し,[ə] に至ることもあれば,当該の母音が消失してしまうことすらある.
しかし,後ろに音節が続く場合でも,その音節が母音で始まる場合には,happier [ˈhæpiə] のように緊張母音が保たれるのが規則である.これは,緊張母音が調音的にも聴覚的にも明確であり,後続する母音と融合し脱落してしまうのを防ぐ働きをしているのだろう.緊張母音は,音節の区別を維持するのに役立つということだ.後続するのが母音か子音かで,緊張母音と弛緩母音が交替する状況は,create [kriˈeɪt] vs cremate [krɪˈmeɪt], react [riˈækt] vs relate [rɪˈleɪt], beatitude [biˈætitjuːd] vs believe [bɪˈliːv] などにも見られるとおりである.
the の緊張母音 [i] と弛緩母音 [ə] (or [ɪ]) の交替も,同じように考えることができる.母音が後続する場合には,the の音節の独立性を保つために緊張母音 [i] が採用され,the apple [ði ˈæpl] のようになる.子音が後続する場合には,the の母音が弛緩したとしても音節の独立性は保たれるため,緊張母音が必須とはならない.本来,定冠詞は無強勢であるから発音が弱まり,弛緩母音を伴って the grape [ðə greɪp] のようになるのは,自然の成り行きである.
・ 大名 力 『英語の文字・綴り・発音のしくみ』 研究社,2014年.
標記の音韻過程について「#1674. 音韻変化と屈折語尾の水平化についての理論的考察」 ([2013-11-26-1]),「#2017. foot の複数はなぜ feet か (2)」 ([2014-11-04-1]),「#2225. hear -- heard -- heard」 ([2015-05-31-1]) で触れてきたが,今回はもう少し詳しく説明したい.この過程は,i-mutation よりも後に,おそらく前古英語 (pre-OE) の後期に生じたとされる音韻変化であり,古英語の音韻形態論に大きな影響を及ぼした.Lass (98) の端的な説明によれば,HVD (High Vowel Deletion) は以下のようにまとめられる.
The fates of short high */i, u/ in weak positions are largely determined by the weight of the preceding strong syllable. In outline, they deleted after a heavy syllable, but remained after a light one, in the case of */i/ usually lowering to /e/ at a later stage.
語幹音節が重い(rhyme が3モーラ以上からなる)場合に,続く弱い音節の高母音 (/i/, /u/) が消失するという過程である.先行する語幹音節が重い場合には,すでに全体として重いのだから,さらに高母音を後続させて余計に重くするわけにはいかない,と解釈してもよい.かくして,語幹音節の軽重により,続く高母音の有無が切り替わるケースが生じることとなった.Lass (99--100) を参考に,古英語からの例を挙げよう.HVD が作用した例は赤で示してある.
Syllable weight | pre-OE | OE |
---|---|---|
heavy | *ðα:ð-i | dǣd 'deed' |
heavy | *wurm-i | wyrm 'worm' |
light | *win-i | win-e 'friend' |
heavy | *flo:ð-u | flōd 'flood' |
heavy | *xαnð-u | hand 'hand' |
light | *sun-u | sun-u 'son' |
heavy | *xæur-i-ðæ | hīer-de 'heard' |
light | *nær-i-ðæ | ner-e-de 'saved' |
(i) a-stem neuter nom/acc sg: light scip-u 'ships' vs. heavy word 'word(s)', bān 'bone(s)'.
(ii) ō-stem feminine nom sg: light gief-u 'gift' vs. heavy lār 'learning'.
(iii) i-stem nom sg: light win-e 'friend' vs. heavy cwēn 'queen'
(iv) u-stem nom sg: light sun-u 'son' vs. heavy hand 'hand'.
(v) Neuter/feminine strong adjective declension: light sum 'a certain', fem nom sg, neut nom/acc sg sum-u vs. heavy gōd 'good', fem nom sg gōd.
(vi) Thematic weak verb preterites . . . .
これらのうち,現代英語にまで HVD の効果が持続・残存している例はごくわずかである.しかし,過去・過去分詞形 heard や複数形 sheep に何らかの不規則性を感じるとき,そこではかつての HVD の影響が間接的にものを言っているのである.
・ Lass, Roger. Old English: A Historical Linguistic Companion. Cambridge: CUP, 1994.
古英語の母音には,短母音 (short vowel),長母音 (long vowel),二重母音 (diphthong) の3種類が区別される.二重母音にも短いものと長いものがある.以下,左図が短・長母音を,右図が短・長の二重母音を表わす.
左図の短・長母音からみていくと,現代英語に比べれば,区別される母音分節音の種類(音素)は少ない (cf. 「#1601. 英語と日本語の母音の位置比較」 ([2013-09-14-1])).長母音は対応する短母音の量をそのまま増やしたものであり,音価の違いはないものと考えられている.前舌高母音には平唇の i(ː) と円唇の y(ː) が区別されるが,円唇 y(ː) は後期ウェストサクソン方言 (Late West-Saxon) では平唇化して i(ː) となった.
次に右図の二重母音をみると,音量を別にすれば,3種類の二重母音があることがわかる.i(ː)e, e(ː)o, æ(ː)a は,いずれも上から下あるいは前から後ろという方向をもっており,第1要素が第2要素よりも強い下降二重母音 (falling diphthong) と考えられる.ただし,i(ː)e については,二重母音ではなく i と e の中間的な母音を表わしていたとする見解もある.Mitchell and Robinson (15) の注によると,
The original pronunciation of ie and īe is not known with any certainty. It is simplest and most convenient for our purposes to assume that they represented diphthongs as explained above. But by King Alfred's time ie was pronounced as a simple vowel (monophthong), probably a vowel somewhere between i and e; ie is often replaced by i or y, and unstressed i is often replaced by ie, as in hiene for hine. Probably īe had a similar sound.
古英語期中の音変化も考慮するといくつかの但し書きは必要となるが,上の図に従えば,(7単音×短・長2系列)+(3二重母音×短・長2系列)ということで計20ほどの母音が区別されていたことになる.「#1021. 英語と日本語の音素の種類と数」 ([2012-02-12-1]) でみたように,現代英語の標準変種でも20の母音音素が区別されているから,数の点からいえば古英語の母音体系もおよそ同規模だったことになる.
・ Mitchell, Bruce and Fred C. Robinson. A Guide to Old English. 8th ed. Malden, MA: Wiley-Blackwell, 2012.
日本語ひらがなの五十音図といえば,言わずと知れた下表を指す. *
わ | ら | や | ま | は | な | た | さ | か | あ |
(ゐ) | り | み | ひ | に | ち | し | き | い | |
る | ゆ | む | ふ | ぬ | つ | す | く | う | |
(ゑ) | れ | め | へ | ね | て | せ | け | え | |
を | ろ | よ | も | ほ | の | と | そ | こ | お |
「#1826. ローマ字は母音の長短を直接示すことができない」 ([2014-04-27-1]) で取り上げた話題をさらに推し進めると,標記のように「アルファベットは母音を直接表わすのが苦手」と言ってしまうこともできるかもしれない.この背景には3千年を超えるアルファベットの歴史がある.
「#423. アルファベットの歴史」 ([2010-06-24-1]) でみたように,古代ギリシア人は子音文字であるフェニキアのアルファベットを素材として今から3千年ほど前に初めて母音字を創案したとされるが,その創案は,ギリシア語の子音表記にとって余剰的なフェニキア文字のいくつかをギリシア語の母音に当ててみようという,どちらかというと消極的な動機づけに基づいていた.つまり,母音を表す母音字を発明しようという積極的な動機があったわけではない.実際,ギリシア語の様々な母音を正確に表わそうとするならば,フェニキア・アルファベットからのいくつかの余剰的な文字だけでは明らかに数が不足していた.だが,だからといって新たな母音字を作り出すというよりは,あくまで伝統的な文字セットを用いて子音と同時にいくつかの母音「も」表わせるように工夫したということだ.フェニキア文字以後のローマン・アルファベットの歴史的発展の記述を Horobin (48--49) より要約すると,次のようになる.
The Origins of the Roman alphabet lie in the script used by Phoenician traders around 1000 BC. This was a system of twenty-two letters which represented the individual consonant sounds, in a similar way to modern consonantal writing systems like Arabic and Hebrew. The Phoenician system was adopted and modified by the Greeks, who referred to them as 'Phoenician letters' and who added further symbols, while also re-purposing existing consonantal symbols not needed in Greek to represent vowel sounds. The result was a revolutionary new system in which both vowels and consonants were represented, although because the letters used to represent the vowel wounds in Greek were limited to the redundant Phoenician consonants, a mismatch between the number of vowels in speech and writing was created which still affects English today.
この消極的な母音字の創案とその伝統は,そのままエトルリア文字,それからローマ字へも伝わり,結果的には現代英語にもつらなっている.もちろん,英語史を含め,その後ローマ字を用いてきた多くの言語変種の歴史的段階において,母音をより正確に表わす方法は編み出されてきた.英語史に限っても,二重字 (digraph) など文字の組み合わせにより,ある母音を表すということはしばしば行われてきたし,magic <e> (cf. 「#1289. magic <e>」 ([2012-11-06-1])) にみられるような発音区別符(号) (diacritical mark; cf. 「#870. diacritical mark」 ([2011-09-14-1])) 的な <e> の使用によって先行母音の音質や音量を表す試みもなされてきた.だが,現代英語においても,これらの方法は間接的な母音表記にとどまり,ずばり1文字で直接ある母音を表記するという作用は限定的である.数千年という長い時間の歴史的視座に立つのであれば,これはアルファベットが子音文字として始まったことの呪縛とも称されるものかもしれない.
・ Horobin, Simon. Does Spelling Matter? Oxford: OUP, 2013.
現代英語で母音字 <a> は様々な母音に対応するが,多くは cat /kæt/ や face /feɪs/ に代表される /æ/ か /eɪ/ かである.特に注意を要するのは,<w> の後に <a> が続くケースである.want, war は通常の綴字と発音の規則に従えばそれぞれ */wænt/, */wɑː/ となりそうだが,実際には /wɒnt/, /wɔː/ である.音声学的にいえば,母音が予想されるよりも後ろ寄りかつ円唇となる.<w> で表される半母音 [w] 自体が著しく後ろ寄りで円唇であるため,その特徴が後続する母音にも影響を与えたという意味で,一種の進行同化を反映しているものととらえられる.swan, wan, what, dwarf などにより,この効果を確認されたい.
ただし,上のような例を説明する小規則にも例外が多いので注意が必要である.具体的には,短音の a に軟口蓋音 [k, g, ŋ] が続く場合には,上記の同化が阻止され,大規則で予想される通りの前舌母音 /æ/ になる (ex. wax; wag, wigwag, swag, swagger; twang, wangle) .
また,活用形においても a は大規則で予想される通りになり,同化の影響は反映されない (ex. swam /swæm/, worn /wɔːn/) .
<w> の影響は,同じ [w] 音を含む <qu> にもおよそ当てはまる.quality は予想される */ˈkwæləti/ ではなく,後ろ寄りで円唇化した母音を示す /ˈkwɒləti/ である.squat も同様であり,r が後続するときには quarry /ˈkwɔːri/, quarter /ˈkwɔːtə/ のようになるのも,<w> の場合と同じだ.<qu> についての例外も <w> の場合とおよそ同じであり,軟口蓋音が続く quack では /kwæk/ となる.ただし,quaff や quagmire など両母音の間で揺れを示すものもあり,個々に考える必要がある.
上では,<wa>- と <qua>- について見てきたが,<wo>- と <quo>- についても少し触れておこう.<o> から予想される短音は /ɒ/ であり,wobble, wok, quod, quondam などに示されるが,<wo>- については won /wʌn/, wolf /wʊlf/ など異なる母音が対応するケースもある.<wor>- については,通常は /wəː/ (ex. word, world, work, worm) だが,/wɔː/ (ex. wore , sworn) となることもある.
<w> で表される /w/ はその調音上の著しい特徴により後続母音が影響を受けやすいが,他の音環境や類推などの作用も働くため,綴字と発音の関係づけについて一般化が難しい現状となっている.詳しくは,大名 (41--43) を参照されたい.
・ 大名 力 『英語の文字・綴り・発音のしくみ』 研究社,2014年.
現代英語の不規則活用を示す動詞,特に語幹の母音交替 ( Ablaut or gradation ) により過去・過去分詞形を作る動詞の多くは,歴史的な強変化動詞に由来する.古英語では現代英語よりも多くの動詞が強変化動詞に属しており,その大半が現代までに弱変化(規則活用)へ移行するか,あるいは廃語となった.動詞のいわゆる強弱移行の歴史については,「#178. 動詞の規則活用化の略歴」 ([2009-10-22-1]) ,「#527. 不規則変化動詞の規則化の速度は頻度指標の2乗に反比例する?」 ([2010-10-06-1]) ,「#528. 次に規則化する動詞は wed !?」 ([2010-10-07-1]),「#764. 現代英語動詞活用の3つの分類法」 ([2011-05-31-1]),「#1287. 動詞の強弱移行と頻度」 ([2012-11-04-1]) などの記事を参照されたい.
さて,現代英語にまで生きながらえた強変化動詞は,活用の仕方によって標記の drink--drank--drunk のようなABC型や win--won--won のようなABB型など,いくつかの種類に区分されるが,これらは近代英語期以後の標準英語において確立したものと考えてよい.「#492. 近代英語期の強変化動詞過去形の揺れ」 ([2010-09-01-1]) でみたように,近代ではまだ過去形や過去分詞形の母音が揺れを示すものが少なくなかったし,現在でも方言を含む非標準変種では異なる母音が用いられたりする.
drink と win の活用タイプの違いや近代英語期に見られる揺れの起源は,古英語の強変化動詞には第1過去(「単数過去」とも)と第2過去(「複数過去」とも)の2種類が区別されていた事実にある.「#42. 古英語には過去形の語幹が二種類あった」 ([2009-06-09-1]) で述べたように,各動詞は主語の数と人称に応じて2つの異なる過去形をもっていた.drink でいえば,不定形 -- 第1過去形 -- 第2過去形 -- 過去分詞形の順に,drincan -- dranc -- druncon -- druncen のように活用し,win については winnan -- wann -- wunnon -- wunnen と活用した(これを活用主要形 (principal parts) と呼ぶ).ところが,中英語以後,屈折体系全体の簡略化の潮流に伴い,これらの動詞の過去形は2種類の形態を区別する機会を減らしていった.かつての第1過去形か第2過去形のうちいずれかが優勢となり徐々に唯一の過去形として機能していくことになったが,この過程は想像される以上に複雑であり,近代英語期までに形態が定着せず,激しい揺れを示したり方言差や個人差の著しい動詞も多かった.drink はたまたま第1過去 dranc に由来する形態が標準英語の過去形として定着することになり,win についてはたまたま第2過去 wunnan の形態(後に won と綴られ /wʌn/ と発音される)に由来する形態が採用されたということである.
第1過去形か第2過去形のいずれが採用されることになるかを決定づける要因は特定できない.drincan と winnan の属する強変化第3類の他の動詞について調べてみると,drinkcan のように後に第1過去形が採用されたものには hringan, scrincan, sincan, singan, springan, swimman があり,winnan のように第2過去形が採られたものには clingan, spinnan, stingan, wringan がある.しかし,非標準変種では過去形に別の母音をもつ形態が用いられるケースも少なくない.例えば,sing の過去形は標準変種では sang だが,非標準変種で sung が用いられることもある.また,spin の過去形も標準変種では spun だが,それ以外の変種では span もありうる,等々(岩崎,p. 76).
なお,bindan, findan, grindan, windan も強変化第3類の動詞で,いずれも後に第2過去形が採用されたタイプである (ex. bound, found, ground, wound) .この母音は,初期中英語で生じた同器性長化 (homorganic_lengthening) により長くなり,さらに後に大母音推移 (gvs) により2重母音化した /aʊ/ をもつに至っている点で,winnan のタイプとは少々異なる音韻的経緯を辿った.
・ 岩崎 春雄 『英語史』第3版,慶應義塾大学通信教育部,2013年.
「#2063. 長母音に対する制限強化の歴史」 ([2014-12-20-1]) と「#2080. /sp/, /st/, /sk/ 子音群の特異性」 ([2015-01-06-1]) で引用・参照した池頭 (Ikegashira) は,"A Dependency Approach to Great Vowel Shift" と題する論文で,依存音韻論 (dependency phonology; DP) の枠組みで大母音推移 (gvs) を分析している.私は依存音韻論については無知に等しいが,その分析によれば大母音推移を含めた英語の主要な音韻変化には一貫した方向性を見いだすことができると議論されており,関心をもったので論文を読んでみた.案の定,理論の素人には難しかったが,要点は呑み込めたと思う.
依存音韻論に立脚した分析によると,大母音推移の音韻変化は,一貫して音節構造を軽くする ("lightening") 方向で作用したという.依存音韻論による「軽さ」の定義は高度に専門的であり私には的確に説明することはできないが,ポイントは大母音推移を構成する各音韻変化がいずれも一貫した方向性をもっており,したがって一貫して記述することができるという主張である.そのような主張がなされるからには,偏流 (drift) や言語変化の目的論 (teleology) という主題も無関係ではあり得ない.実際,Ikegashira (42) は英語史における一貫した "lightening" の偏流に言い及んでいる.それから,大母音推移を構成する各音韻変化の同時性をも主張している.
GVS is a change which is caused by that 'drift' (or tendency) of English to make the total weight of words lighter. To make all the 'long' vowels lighter, the phonological element |a| is made less powerful either by lowered (sic) to the the dependent position from the governing position or by deletion. In the cases of the vowels where there is no |a|, [i:] and [u:], the only way to make them lighter is to change the 'middle weight' phonological elements [i] and [u] with the lightest one |ə|. / . . . . As a result of lightening, the vowels have been raised or made into diphthongs. The problem of the starting point of this change thus has no meaning. It was 'simultaneous'. It is quite natural to suppose that GVS occurred at the same time as a result of the long and continuous 'trend' of English to lighten words in some way.
理論的には,複合的な音韻変化を一貫して説明できるのは確かに魅力である.同じような動機から,Ritt の「#1402. 英語が千年間,母音を強化し子音を弱化してきた理由」 ([2013-02-27-1]) も,drift という古い言語学上の問題に迫ったのだろうと思う.だが,素朴な疑問として,一貫した理論的な説明と各母音の変化の同時性とがどのように直接に結びつくのだろうか.大母音推移が一貫して "lightening" の方向を目指しているという仮説を受け入れたとしても,それは各音韻変化が同時に起こったことを自動的に含意するのだろうか.押し上げ説 (push chain) でも引き上げ説 (drag chain) でもないという意味では,「#1404. Optimality Theory からみる大母音推移」 ([2013-03-01-1]) とも通じる一種のバラバラ説と言ってもよさそうだが,理論的な普遍説とも呼べそうだ.
なお,同じ依存音韻論の分析によれば,大母音推移に先立つ中英語の開音節長化 (meosl) は,入力の短母音の各々に音韻要素 |a| が付加されたものとして一貫して記述されるという (Ikegashira 35) .理論の魅力と課題を再確認できる話題である.
・ Ikegashira (Kadota), Atsuko. "A Dependency Approach to Great Vowel Shift." 『津田塾大学言語文化研究所報』22号,2007年,31--43頁.
新年明けましておめでとうございます.2015年です.今年も英語史に関する話題を長く広く紹介していきますので,どうぞよろしくお願いします.
新年最初の話題として,英語学習者向けに,母音字と母音の長短の対応に関する問題を取り上げる.英語の各母音字には,それぞれ「長」音と「短」音と呼ばれる発音が対応している.
Vowel letter | "Short" vowel | "Long" vowel |
---|---|---|
<a> | [æ] | [eɪ] |
<e> | [ɛ] | [iː] |
<i>, <y> | [ɪ] | [aɪ] |
<o> | [ɑ/ɔ] | [oʊ] |
<u> | [ʌ] | [juː] |
Suffix | Long | Short |
---|---|---|
-al | crime | criminal |
grade | gradual | |
nation | national | |
nature | natural | |
rite | ritual | |
-(at)ive | derive | derivative |
evoke | evocative | |
provoke | provocative | |
-ic | athlete | athletic |
cone | conic | |
lyre | lyric | |
metre | metric | |
microscope | microscopic | |
mime | mimic | |
satire | satiric | |
tone | tonic | |
volcano | volcanic | |
state | static | |
-ity | audacious | audacity |
breve | brevity | |
divine | divinity | |
extreme | extremity | |
obscene | obscenity | |
rapacious | rapacity | |
sane | sanity | |
serene | serenity | |
sublime | sublimity | |
vivacious | vivacity |
[2012-06-10-1] と [2012-06-11-1] に引き続いての話題.[2012-06-11-1] の記事で Jakobson が理論化のために依拠していた調査データは Murdock のものである.Murdock の原典に戻ってみると,当然ながら詳細を知ることができる.
収集されたのは474の言語共同体からのデータで,すべて合わせて母を表わす語形が531種類,父を表わす語形が541種類確認された.同系統の言語か否か,語形のどの部分を比較対象とするか,分類に際しての母音や子音の組み合わせパターンの同定などがきわめて慎重に考慮されている.その結果がいろいろな表で示されているのだが,最もわかりやすいのは p. 4 の TABLE 2 だろう.以下に再掲しよう.
Sound classes | Denoting Mother | Denoting Father |
---|---|---|
Ma, Me, No, Na, Ne, and No | 273 (52%) | 81 (15%) |
Pa, Po, Ta, and To | 38 (7%) | 296 (55%) |
All 29 others | 220 (41%) | 164 (30%) |
「#2052. 英語史における母音の主要な質的・量的変化」 ([2014-12-09-1]) で,Görlach による英語史における母音変化を概観した.母音変化の歴史に一貫してみられる潮流として,Ritt は「#1402. 英語が千年間,母音を強化し子音を弱化してきた理由」 ([2013-02-27-1]) でみたように強化の歴史を唱えているが,別の角度から,もう1つの標記に掲げた潮流が指摘できるかもしれない.
池頭 (128--29) は,中尾 (117--42, 142--51) を参照しながら,英語史における母音の主要な長化と短化を,時代ごとに以下のように整理している(古英語から中英語にかけての変化については,「#2048. 同器音長化,開音節長化,閉音節短化」 ([2014-12-05-1]) も参照).
〈古英語期〉
(1) 同器性長化 (Homorganic Lengthening)
gōld, lāmb, fīndan 'find' lāng
〈中英語期〉
(2) 開音節長化 (Open Syllable Lengthening)
bāke mēte 'meat' hōle lōve < OE lufu week < OE wike
(3) 母音接続長化 (Hiatus Lengthening,フランス借入語)
gīant < giant pōet < poet
〈初期近代英語期〉
(4) 無声摩擦音前位置長化 (lengthening before voiceless fricatives)
(/a/, /ɔ/ ___ [f, s, θ]) blāst mōss stāff sōft bāth clōth
〈古英語期〉
(5) 3子音前位置短化 (shortening before three consonants)
godspell deoppra 'deeper' wundrian 'wonder'
(6) 2子音前位置短化 (shortening before two consonants, 重子音を含む)
fifta 'fifth' sohte '(he) sought' læssa 'less'
(7) 3音節短化 (Trisyllabic Shortening)
laferce 'lark' halidæġ 'holiday' emetiġ 'empty'
〈中英語期〉
(8) 同器性短化 (Homorganic Shortening)
land wind enden 'end'
(9) /u:/-短化 / ___ [x, v, m]
ruf < rōugh 'rough' plume < plūme 'plum'
〈初期近代英語期〉
(10) 短子音前短化 (shortening before a single consonant)
breath dread blood good cloth
(11) 開音節短化 (Open Syllable Shortening)
heavy weapon pleasant seven
(12) 2音節短化 (shortening in two syllabic words)
nickname < ēkename breakfast twopence
母音の長化と短化の歴史をこのように整理した上で,池頭は,短化が長化よりも多く観察される点,一度長化したものがのちに短化を受ける例がある点を指摘した.英語史全体としてみると,短化が優勢であり,長化に対する制限が強まってきたという潮流が感じられる.池頭 (129--30) 曰く,
古英語以来,英語では長い母音に対する文脈上の制限が強まっていると考えられる.古英語初期には二重母音であっても長・短が存在し,長母音が出現する環境も特に制限されていなかった.ところが早い時期に長二重母音が姿を消し,続いて3子音の前位置において長母音を許さなくなり((5)3子音前位置短化),引き続き2子音前でも長母音が生起できなくなった((6)2子音前位置短化).初期近代英語期に入ると短子音の前でも短化が起こった((10)短子音前短化).語全体の音節構造に関するものでは,古英語期に語末から3音節目で長母音が許されなくなり((7)3音節短化),初期近代英語期に入って2音節語の語末から2音節目(第1音節)でも短化が起こった((12)2音節短化).全体としては,古英語期にかなり長母音に対する制限が強まったと考えられる.
上記は大局的な英語音韻史観ともいえるが,ではなぜそのような潮流が見られるのだろうか.これは英語音韻史の究極的な課題だろう.
・ 池頭(門田)順子 「"Consonant cluster" と音変化 その特異性と音節構造をめぐって」『生成言語研究の現在』(池内正幸・郷路拓也(編著)) ひつじ書房,2013年.127--43頁.
・ 中尾 俊夫 『音韻史』 英語学大系第11巻,大修館書店,1985年.
「#1537. 「母語」にまつわる3つの問題」 ([2013-07-12-1]) や「#1926. 日本人≠日本語母語話者」 ([2014-08-05-1]) で「母語」という用語についてあれこれと考えた.一般に言語(学)のディスコースには,「母」がよく顔を出す.「母語」や「母方言」はもとより,比較言語学では諸言語の系統的な関係を「母言語」「娘言語」「姉妹言語」と表現することが多い.なぜ「父」や「息子」や「兄弟」ではないのかと考えると,派生関係を表わす系統図では生む・生まれる(産む・産まれる)の関係が重視されるからだろうと思われる.言語の派生においては,男女のペアから子が生まれるという前提はなく,いわば「単為生殖」(より近似した比喩としてはセイヨウタンポポなどに代表される「産雌単為生殖」)である.これに関連しては「#807. 言語系統図と生物系統図の類似点と相違点」 ([2011-07-13-1]),「#1578. 言語は何に喩えられてきたか」 ([2013-08-22-1]),「#1579. 「言語は植物である」の比喩」 ([2013-08-23-1]) も参照されたい.
「母語」や「母・娘言語」については上のようなことを考えており,言語のディスコースにおける「女系」性に気づいていたが,ある授業で学生がもう1つの興味深い例を指摘してくれた.標題に掲げた「母音」という用語である.盲点だったので,なるほどと感心した.確かに,なぜ「父音」ではなく「母音」なのだろうか.少し調べてみた.
英語で「母音」は vowel,対する「子音」は consonant である.これらの英語の用語の語源には,特に母とか子とかいう概念は含まれていない.前者はラテン語 vōcālem (有声の)に遡り,語根は vōx (声)である.後者は,ラテン語 consonans (調和する,一緒に響く)に遡り,これ自体はギリシア語 súmphōnon([母音と]ともに発音するもの)のなぞりである.つまり,特に親子の比喩は関与していない.他の西洋語も事情は似たり寄ったりである.
とすると,「母音」「子音」という呼称は,日本語独自のものらしいということになる.『日本国語大辞典』によると「ぼいん」には【母音】と【母韻】の項が別々にあり,それぞれ次のようにある.
【母音】*百学連環(1870--71頃)〈西周〉一「文字に consonants (子音)及び vowel (母音)の二種あり」*病牀譫語(1899)〈正岡子規〉五「父音母音の区別無き事等に因る者にして,其解し難きは,同音の字多き漢語を仮名に直したるに因るなり」*金毘羅(1909)〈森鴎外〉「苦しい間に,をりをり一言づつ云ふ詞が,濁音勝で母音を長く引くので」
【母韻】「ぼいん(母音)」に同じ.*小学日本文典(1874)〈田中義廉〉一・二「此五十音のうち,アイウエオの五字を,母韵と云ひ」*広日本文典(1897)〈大槻文彦〉三二「也行の発生は,甚だ阿行の『い』に似,和行の発生は,甚だ阿行の『う』に似て,更に,之に母韻を添へて,二母韻,相重なりて発するものの如し」*国語のため第二(1903)〈上田万年〉促音考「第一 P(H)TKRS 等の子音が Unaccented の母韻に従はれて,P(H)TKS を以てはじめらるるシラブルの前に立つ時は」
ここで【母音】の項の例文として触れられている「父音」という用語に着目したい.これは,今日いうところの子音の意味で使われている.では,同じ辞典で【父音】(ふいん)の項を引いてみる.
「しいん(子音)」に同じ.*広日本文典別記(1897)〈大槻文彦〉一七「英の Consonant を,子音,又は,父音(フイン)など訳するあるは,非なり」*国語音声学(1902)〈平野秀吉〉一四・一「父音は,其の音質の上から区別すれば,左の二類となる.有声父音 無声父音」
近代言語学が入ってきた明治初期には,consonant の訳語として「子音」とともに「父音」という言い方が行われていたようだ.「母」に対するものは「父」なのか「子」(=娘?)なのかという競合を経て,最終的には「子」で収まったということのようだ.ここでいう「子」の性別は分からないが,音声学のディスコースにおいて「父」権が失墜したようにも見えるから,「娘」である可能性が高い(?).
さらに,根本となる【母】(ぼ)とは何かを同辞典で調べてみると,
(2)親もと.帰るべきところ.そだった所./母岩,母艦,母港,母船,母校,母国,母語,母斑/(3)物を生じるもととなるもの./酵母,字母/母音,母型,母集団,母数,母船/
とある.その中で「母音」(なるほど「字母」という用語もあった!)は,「物を生じるもととなるもの」の意の「母」の用例として挙げられている.
ここで思い浮かぶのは,韻律音韻論における音節構造の記述だ.現在最も広く導入されている音節構造 (cf. 「#1563. 音節構造」 ([2013-08-07-1])) の記述では,onset, rhyme, nucleus, coda などの位置をもった階層構造が前提とされている.音節構造において核であり母体となるのは文字通り nucleus であり,典型的にはそこに母音が収まり,その周辺に「ともに響く音」としての子音が配される.母音は比喩的に「母体」や「母艦」などと表現したくなる位置に収まる音であり,一方で子音はその周辺に配される「子分」である(なお「子分」というとむしろ男性のイメージだ).明治初期と韻律音韻論というのは厳密にはアナクロだが,「母音」「子音」という言葉遣いの背景にある基本的な音韻のとらえ方とは関わってくるだろう.
上記のように,「母」とは,何かを派生的に生み出す源であり,生成文法の発想に近いこともあって,日本語の言語学のディスコースには女系用語の伝統がすでに根付いて久しいということかもしれない.
西ゲルマン語の時代から古英語,中英語を経て近代英語に至るまでの英語の母音の歴史をざっとまとめた一覧が欲しいと思ったので,主要な質的・量的変化をまとめてみた.以下の表は,Görlach (48--49) の母音の質と量に関する変化の略年表をドッキングしたものである.
Period | Quantity | Quality | ||
Rule | Examples | Rule | Examples | |
WGmc--OE | ai > ā, au > ēa, ā > ǣ/ē, a > æ | stān, ēage, dǣd, dæg cf. Ge Stein, Auge, Tat, Tag | ||
7--9th c. | compensatory lengthening | *sehan > sēon "see", mearh, gen. mēares "mare" | ||
9--10th c. | lengthening of before esp. [-ld, -mb, -nd] | fēld, gōld, wāmb, fīnd, but ealdrum | ||
shortening before double (long) consonants | wĭsdom, clæ̆nsian, cĭdde, mĕtton | |||
shortening in the first syllable of trisyllabic words | hăligdæg, hæ̆ringas, wĭtega | |||
OE--ME | shortening in unstressed syllables | wisdŏm, stigrăp | monophthongization of all OE diphthongs | OE dēad, heard, frēond, heorte, giefan > ME [dɛːd, hard, frœːnd, hœrtə, jivən] |
12th c. | [ɣ > w] and vocalization of [w] and [j]; emergence of new diphthongs | OE dagas, boga, dæg, weg > ME [dauəs, bouə, dai, wei] | ||
southern rounding of [aː > ɔː] | OE hāl(ig) > ME hool(y) [ɔː] | |||
12--14th c. | unrounding of œ(ː), y(ː) progressing from east to west | ME [frɛːnd, hertə, miːs, fillen] | ||
13th c. | lengthening in open syllables of bisyllabic words | nāme, nōse, mēte (week, door) | ||
15th c. GVS and 16--17th century consequences | ||||
esp. 15--16th c. | shortening in monosyllabic words | dead, death, deaf, hot, cloth, flood, good | ||
18th c. | lengthening before voiceless fricatives and [r] | glass, bath, car, servant, before |
後期古英語から初期中英語にかけて,母音の量の変化が次々と起こった.最初に同器音長化 (Homorganic Lengthening) が,そして12--13世紀にかけて開音節長化 (Open Syllable Lengthening) と閉音節短化 (Closed Syllable Shortening) が生じたとされる.これらは単発に生じたわけでも連鎖的に生じたわけでもない.むしろ,ある1つの原理に裏打ちされた親戚関係にある音韻変化群とみなすべきものである.
それぞれの変化を略述しよう.同器音長化は後期古英語までに生じていた母音の音量変化で,「#145. child と children の母音の長さ」 ([2009-09-19-1]) で触れた通り,同じ(あるいは近い)調音器官により調音される2つの有声子音が続く場合に,先行する短母音が長母音化するというものだ.具体的には /ld/, /rd/, /rð/, /rl/, /rn/, /rz/, /mb/, /nd/, /ŋg/ の前の短母音が長化する.これらの連続する2つの子音の有声性が直前の母音に一部取り込まれることになるため,結果として母音の音量が長くなる.cild は cīld へ,blind は blīnd へ,climban は clīmban へと変化した.
次に開音節長化は初期中英語に生じた母音の音量変化で,「#1230. over と offer は最小対ではない?」 ([2012-09-08-1]) でやや詳しく述べたように,開音節における短母音が長母音化するというものだ.nama は nāma へ,beran は bēran へ,ofer は ōfer へと変化した.
最後に閉音節短化は開音節長化と同時期に生じた相補的な母音の音量変化で,閉音節における長母音が短母音化するというものだ.sōfte は softe へ,clǣnsian は clænsian へ,kēpte は kepte へと変化した.
さて,この3つの音量変化の背後に潜む原理に移ろう.ブルシェ (64) によれば,古英語には基本音節構造として4つの型がありえた.(1) V|C (ex. beran), (2a) VC|C (ex. settan), (2b) VV|C (ex. dēman), (3) VVC|C (clǣnsian) である.このうち3モーラからなる (2a) と (2b) が模範的な原型と考えられており,(1) はそれを短くしたもの,(3) はそれを長くしたものとして周辺的な構造と解釈される.この観点からすると,古英語末期以降の音量変化は,周辺的な (1) や (3) の構造がより基本的な (2) の構造へと順応していく過程ととらえられる.(1) V|C 型の beran は,母音を長くすることで1モーラを加え,(2b) VV|C 型の bēran へと接近した.(3) VVC|C 型の clǣnsian は,母音を短くすることで1モーラ減らし,(2a) VC|C 型の clænsian へと接近した.このように,開音節長化と閉音節短化の2変化については,3モーラの基本構造への順応として一括して理解することができる.
同器音長化についてはどうだろうか.連続する2つの同器性の子音は互いに調音的に緊密であるため,音韻論的にはあたかも1つの子音であるかのように振る舞うようになったと考えてみよう.すると,本来 (2a) VC|C 型の cild は,音韻論的に /ld/ を1子音とみなすことにすれば,むしろ (1) V|C 型に属することになる.(1) は原型から逸脱した不安定な構造なので,母音を伸ばして (2b) VV|C 型へ接近していくだろう.ただし,複数主格・対格形 cildru のように /ld/ の後にもう1つ子音が続く場合には,長化がブロックされるため,短母音が保たれ,現代に至る.
上記の原理を以下に図で示そう.
関連して「#1402. 英語が千年間,母音を強化し子音を弱化してきた理由」 ([2013-02-27-1]) の記事も参照.
・ ジョルジュ・ブルシェ(著),米倉 綽・内田 茂・高岡 優希(訳) 『英語の正書法――その歴史と現状』 荒竹出版,1999年.
標記の語のように現代英語で -<ow> をもつ語は,中英語では -<we> で綴られるのが普通である.古英語では見出し語形は folgian, sceadu, sorg のように様々だが,中英語にかけて語幹末に半子音 /w/ が発達した (cf. 「#194. shadow と shade」 ([2009-11-07-1])) .中英語の -<we> 以降の綴字と発音の発達について関心があったので,調べてみた.
まず Jespersen (192) によると,問題の -<we> に表わされる半子音 /w/ が /u/ へと母音化する音韻変化を経た.この /u/ はときに長音化して /uː/ となり,長短の間でしばらく揺れを示した.おそらく,この長音化した音を表わすのに <ow> の綴字が採用されたのではないかという.一方で,/o/ や /oʊ/ をもつ異形も現われていたようで,<ow> はこの後者を直接したものとも考えられる.同時に,問題の母音が弱化した /ə/ も現われ,現代英語の非標準的な発音としては引き継がれている.
. . . /wə/ became syllabic /w/, that is /u/, thus ME folwe, shadwe, sorwe, medwe, etc. became /folu, ʃadu/, etc. This pronunciation is often found in the old orthoepists; thus H 1569 has /felu/ and /feluˑ/ by the side of /felo/, /folu/ by the side of /folo/, and /halu/, for fellow, follow, hallow.
M 1582 says that -ow in the ending of bellow, mellow, yallow is = "u quick". H 1662 likewise -ow = u: hollow hollu, tallow tallu, etc.; J 1701 has "oo" in follow. This pronunciation is continued in vg [ə]:[fɔlə, gæləs], and the spelling -ow adopted in all these words was probably at first intended for the sound /u/ or possibly /uˑ/. But we soon find another pronunciation cropping up; H 1569, besides /u/ as mentioned, has also /boro/ and /borou/ borrow. G 1621 does not seem to know /u/, but has /oˑu/ in follow, shadow, bellow, hollow. J 1764 says that -ow in follow, etc. = "o", but if another vowel follows, it is "ow". Now [o(ˑ)u] is the established pronunciation.
Dobson Vol. 2 (866--67) に当たってみると,問題の /w/ の前にわたり音 (glide) として /o/ が発達したのではないかという見解だ.だが,Dobson は Jespersen よりも複雑な変異を想定しているようだ.半子音 /w/ が関与する音節には,いかに多くの variants が発達しうるかを示す好例ではないだろうか.
(2) Variation between late ME ou and ŭ from ME -we
則295. In words such as folwe(n) 'follow' there were variant developments in ME: either a glide-vowel o developed before the w, which then vocalized to [u], giving the diphthong ou; or the w, after final ĕ had become silent in late ME, vocalized to [u], which was identified with ME ŭ. PresE has regularly [o(:)] < ME ou, but formerly [ʊ] (or, by reduction, [ə]) < ME ŭ was common in follow, narrow, sparrow, borrow, morrow, yellow, &c. ME ou (or sounds developed from it) is shown by Hart (who has boro, &c. with [o] < [o:] < ou and felō with [o:] < ou; in all six forms < ME ou, against more than twice as many < ME ŭ), Laneham (folo, &c., but also ŭ), Bullokar, Robinson, Gil (who has both [ou] and [o:] < ME ou), Butler, Hodges, Newton, Lye, Lodwick, Cocker, Brown, and the shorthand-writers T. Shelton, Everardt, Bridges, Heath, and Hopkins. The pronunciations [ʊ] and [u:] (by lengthening of [ʊ]) < ME ŭ are shown by Salesbury, Hart (commonly), Laneham (yelloo 'yellow'), Mulcaster, Jonson (apparently; he says o loses its sound in willow and billow), Howell (1662), Price, Richardson, and WSC-RS. Gil gives fula, in which the a must represent [ə] (probably < ME ŭ) as a Northern form of follow. In the seventeenth century these words also had pronunciations with [ə] and perhaps with [ɪ] . . ., which are likely to be derived from the ME ŭ rather than the ME ou variant.
・ Jespersen, Otto. A Modern English Grammar on Historical Principles. Part 1. Sounds and Spellings. 1954. London: Routledge, 2007.
・ Dobson, E. J. English Pronunciation 1500--1700. 2nd ed. Vol. 2. Oxford: OUP, 1968.
Powered by WinChalow1.0rc4 based on chalow