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hellog〜英語史ブログ / 2026-09-09

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2026-09-09 Wed

#6344. 「やり続ける」力としての grit --- 砂利を噛みしめるような不快さを越えて [outreach][etymology][slang][semantic_change]



 英語史の魅力や奥深さを社会に届けるアウトリーチ活動を続けていると,よく「どうすればそんなに毎日更新を続けられるのですか?」と尋ねられることがある.お読みの hellog や Voicy heldio の毎日更新は,私にとって日々のライフワークとなっているが,特別な魔法があるわけではない.まさに「やり続ける」力,英語の俗語でいうところの grit (根性,気骨,ガッツ)に支えられている部分が大きいと感じる.
 以前 heldio で「#569. 「やり切る」よりも「やり続ける」あるいは「ブレない」 --- grit と persistence」と題して話したことがある.この grit という単語の語源と歴史をひもといてみると,興味深い事実が見えてくる.
 grit は古英語の grēot (砂,粗砂,砂利)に遡る古い英単語である.現代でも「粒子の細かい砂利」などを意味するが,ビジネス書や自己啓発書で話題になるような「(苦難に耐える)根性,気骨,ガッツ」という俗語的な意味で使われ始めたのは,19世紀前半のアメリカ英語でのことだ.OED によると,この語義での初出は1808年とされている.
 では,なぜ「砂利」が「根性,気骨」といった精神的な意味を獲得するに至ったのだろうか.とりわけ俗語をめぐる語源学の常として,メタファーやメトニミーによる大きな飛躍を含んだ意味変化の道程を完全に復元することは容易ではないが,いくつかの連想の糸口を考えることができる.
 1つは,動詞としての grit の存在である.「(砂や砂利をかみしめるように)歯をきしらせる,歯ぎしりする」という意味の動詞用法が1718年に初出している.慣用句 grit one's teeth (歯を食いしばる)も,この流れのなかにある.口の中に砂利が紛れ込んだときのあのジャリッとした不快な感覚が想起されるからだろうか,不快な状況や苦難を耐え忍ぶ「根性」へと意味が発展したのではないか,と私は見立てている.そのような不快さを正面から引き受け,それを乗り越えて維持する精神力こそが grit の本質なのではないかと考える.
 学問や教育,あるいは広く知識を社会に開かせるためのアウトリーチ活動は,華やかな側面ばかりではなく,地道で,しばしば砂利を噛みしめるような苦痛が伴う.短期間で一気に「やり切る」ことよりも,多少の不快さや困難があっても長く「やり続ける」こと,ブレずにしつこく persistence を保つことこそが,結果として実を結ぶのではないか.
 昨今は「根性論」というと忌避されがちな風潮もあるが,泥臭い grit を腹に据えておくことは,いつの時代も変わらず重要なことのように思わる.私もこれからも grit を胸に,英語史の魅力をコツコツと発信し続けていきたい.

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最終更新時間: 2026-09-12 05:00

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