hellog〜英語史ブログ

#2385. OED による,古典語およびロマンス諸語からの借用語彙の統計 (2)[oed][statistics][lexicology][loan_word][borrowing][latin][greek][french][italian][spanish][portuguese][romancisation]

2015-11-07

 「#2357. OED による,古典語およびロマンス諸語からの借用語彙の統計」 ([2015-10-10-1]),「#2369. 英語史におけるイタリア語,スペイン語,ポルトガル語からの語彙借用の歴史」 ([2015-10-22-1]) で,Culpeper and Clapham (218) による OED ベースのロマンス系借用語の統計を紹介した.論文の巻末に,具体的な数値が表の形で掲載されているので,これを基にして2つグラフを作成した(データは,ソースHTMLを参照).1つめは4半世紀ごとの各言語からの借用語数,2つめはそれと同じものを,各時期の見出し語全体における百分率で示したものである.

Classical and Romance Loanwords in OED

Classical and Romance Loanwords (%) in OED

 関連する語彙統計として,「#2162. OED によるフランス語・ラテン語からの借用語の推移」 ([2015-03-29-1]) で触れた Wordorigins.org"Where Do English Words Come From?" も参照.

 ・ Culpeper Jonathan and Phoebe Clapham. "The Borrowing of Classical and Romance Words into English: A Study Based on the Electronic Oxford English Dictionary." International Journal of Corpus Linguistics 1.2 (1996): 199--218.

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#2162. OED によるフランス語・ラテン語からの借用語の推移[oed][loan_word][statistics][french][latin][lexicology]

2015-03-29

 Wordorigins.org"Where Do English Words Come From?" と題する記事では,OED をソースとした語種比率の通時的推移の調査報告がある.古英語から現代英語への各世紀に,語源別にどれだけの新語が語彙に加えられたかが解説とともにグラフで示されている.本文中にも述べられているように,見出し語の語源に関して OED の語源欄より引き出された情報は,眉に唾をつけて解釈しなければならない.というのは,語源欄にある言語が言及されていたとしても,それが借用元の語源を表すとは限らないからだ.しかし,およその参考になることは確かであり,通時的な概観のために有用であることには相違ない.
 ここでは,CSV形式あるいはEXCEL形式で公開されている世紀別で語源別の数値を拝借し,フランス語とラテン語から英語語彙へ追加された借用語の推移をグラフ化して並べてみた.

Historical Influx of French Loanwords by OED Historical Influx of Latin Loanwords by OED


 得られた傾向は,一般的な概説書で述べられているものと一致する.フランス語のピークは後期中英語,ラテン語のピークは初期近代英語である.比較すると,ラテン語の規模の著しさがよくわかる.フランス語とラテン語からの借用語に関連する統計については,すでに以下のように多くの記事で取り上げてきたので,そちらも参照されたい.

 [2009-08-22-1]: #117. フランス借用語の年代別分布
 [2009-11-15-1]: #202. 現代英語の基本語彙600語の起源と割合
 [2010-06-30-1]: #429. 現代英語の最頻語彙10000語の起源と割合
 [2010-12-12-1]: #594. 近代英語以降のフランス借用語の特徴
 [2011-02-16-1]: #660. 中英語のフランス借用語の形容詞比率
 [2011-08-20-1]: #845. 現代英語の語彙の起源と割合
 [2011-09-18-1]: #874. 現代英語の新語におけるソース言語の分布
 [2012-08-11-1]: #1202. 現代英語の語彙の起源と割合 (2)
 [2012-08-18-1]: #1209. 1250年を境とするフランス借用語の区分
 [2012-08-20-1]: #1211. 中英語のラテン借用語の一覧
 [2012-09-03-1]: #1225. フランス借用語の分布の特異性
 [2012-09-04-1]: #1226. 近代英語期における語彙増加の年代別分布
 [2012-11-12-1]: #1295. フランス語とラテン語の2重語
 [2014-08-24-1]: #1945. 古英語期以前のラテン語借用の時代別分類

 また,OED の利用に際しては,以下の記事も参照されたい.

 [2010-10-10-1] #:531. OED の引用データをコーパスとして使えるか
 [2010-10-14-1] #:535. OED の引用データをコーパスとして使えるか (2)
 [2010-10-15-1] #:536. OED の引用データをコーパスとして使えるか (3)
 [2011-01-05-1] #:618. OED の検索結果から語彙を初出世紀ごとに分類する CGI
 [2011-01-29-1] #:642. OED の引用データをコーパスとして使えるか (4)

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#1411. 初期近代英語に入った "oversea language"[emode][renaissance][inkhorn_term][lexicology][loan_word][french][italian][spanish][portuguese]

2013-03-08

 「#1407. 初期近代英語期の3つの問題」 ([2013-03-04-1]) の記事で,この時代の英語が抱えていた3つ目の問題として "the enrichment of the vocabulary so that it would be adequate to meet the demands that would be made upon it in its wiser use" を挙げた.この3日間の記事 ([2013-03-05-1], [2013-03-06-1], [2013-03-07-1]) で,古典語からの大量の語彙借用という潮流によって反動的に引き起こされたインク壺語論争や純粋主義者による古語への回帰の運動について見てきた.異なる陣営から "inkhorn terms" や "Chaucerisms" への批判がなされたわけだが,もう1つ,あまり目立たないのだが,槍玉に挙げられた語彙がある."oversea language" と呼ばれる,ラテン語やギリシア語以外の言語からの借用語である.大量の古典語借用へと浴びせられた批判のかたわらで,いわばとばっちりを受ける形で,他言語からの借用語も非難の対象となった.
 「#151. 現代英語の5特徴」 ([2009-09-25-1]) や「#110. 現代英語の借用語の起源と割合」で触れたように,現代英語は約350の言語から語彙を借用している.初期近代英語の段階でも英語はすでに50を超える言語から語彙を借用しており (Baugh and Cable, pp. 227--28) ,「#114. 初期近代英語の借用語の起源と割合」 ([2009-08-19-1]) で見たように,ラテン語とギリシア語を除けば,フランス語,イタリア語,スペイン語が優勢だった.
 以下,Baugh and Cable (228--29) よりロマンス諸語からの借用語を示そう.まずは,フランス語から入った借用語のサンプルから.

alloy, ambuscade, baluster, bigot, bizarre, bombast, chocolate, comrade, detail, duel, entrance, equip, equipage, essay, explore, genteel, mustache, naturalize, probability, progress, retrenchment, shock, surpass, talisman, ticket, tomato, vogue, volunteer


 次に,イタリア語からは建築関係の語彙が多い.赤字のものはフランス語化して入ってきたイタリア語起源の語である.

algebra, argosy, balcony, battalion, bankrupt, bastion, brigade, brusque, cameo, capricio (caprice), carat, cavalcade, charlatan, cupola, design, frigate, gala, gazette, granite, grotesque, grotto, infantry, parakeet, piazza, portico, rebuff, stanza, stucco, trill, violin, volcano


 スペイン語(およびポルトガル語)からは,海事やアメリカ植民地での活動を映し出す語彙が多い.赤字はフランス語化して入ったもの.

alligator, anchovy, apricot, armada, armadillo, banana, barricade, bastiment, bastinado, bilbo, bravado, brocade, cannibal, canoe, cavalier, cedilla, cocoa, corral, desperado, embargo, escalade, grenade, hammock, hurricane, maize, mosquito, mulatto, negro, palisade, peccadillo, potato, renegado, rusk, sarsaparilla, sombrero, tobacco, yam


 上に赤字で示したように,フランス語経由あるいはフランス語化した形態で入ってきた語が少なからず確認される.これは,イタリア語やスペイン語から,同じような語彙が英語へもフランス語へも流入したからである.その結果として,異なるロマンス諸語の語形が融合したかのようにみえる例が散見される.例えば,英語 galleon は F. galion, Sp. galeon, Ital. galeone のどの語形とも一致しないし,gallery もソースは Fr. galerie, Sp., Port., Ital. galeria のいずれとも決めかねる.同様に,pistol は F. pistole, Sp., Ital. pistola のいずれなのか,cochineal は F. cochenille, Sp. cochinilla, Ital. cocciniglia のいずれなのか,等々.

 ・ Baugh, Albert C. and Thomas Cable. A History of the English Language. 5th ed. London: Routledge, 2002.

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#1638. フランス語とラテン語からの大量語彙借用のタイミングの共通点[french][latin][renaissance][lexicology][loan_word][borrowing][reestablishment_of_english][language_shift]

2013-10-21

 フランス語借用の爆発期は「#117. フランス借用語の年代別分布」 ([2009-08-22-1]) で見たように14世紀である.このタイミングについては,「#1205. 英語の復権期にフランス借用語が爆発したのはなぜか」 ([2012-08-14-1]) や「#1209. 1250年を境とするフランス借用語の区分」 ([2012-08-18-1]) の記事で話題にしたように,イングランドにおいて英語が復権してきた時期と重なる.それまでフランス語が担ってきた社会的な機能を英語が肩代わりすることになり,突如として大量の語彙が必要となったからとされる.フランス語を話していたイングランドの王侯貴族にとっては,英語への言語交替 (language shift) が起こっていた時期ともいえる(「#1540. 中英語期における言語交替」 ([2013-07-15-1]) を参照).
 一方,ラテン語借用の爆発期は,「#478. 初期近代英語期に湯水のように借りられては捨てられたラテン語」 ([2010-08-18-1]) や「#1226. 近代英語期における語彙増加の年代別分布」 ([2012-09-04-1]) で見たように,16世紀後半を中心とする時期である.このタイミングは,それまでラテン語が担ってきた社会的な機能,とりわけ高尚な書き物の言語にふさわしいとされてきた地位を,英語が徐々に肩代わりし始めた時期と重なる.ルネサンスによる新知識の爆発のために突如として大量の語彙が必要になり,英語は追いつけ,追い越せの目標であるラテン語からそのまま語彙を借用したのだった.このようにラテン語熱がいやましに高まったが,裏を返せば,そのときまでに人々の一般的なラテン語使用が相当落ち込んでいたことを示唆する.イングランド知識人の間に,ある意味でラテン語から英語への言語交替が起こっていたとも考えられる.
 つまり,フランス語とラテン語からの大量語彙借用の最盛期は異なってはいるものの,共通項として「英語への言語交替」がくくりだせるように思える.ここでの「言語交替」は文字通りの母語の乗り換えではなく,それまで相手言語がもっていた社会言語学的な機能を,英語が肩代わりするようになったというほどの意味で用いている.この点を指摘した Fennell (148) の洞察の鋭さを評価したい.

As is often the case when use of a language ceases (as French did at the end of the Middle English period), the demise of Latin coincides with the borrowing of huge numbers of Latin words into English in order to fill perceived gaps in the language.


 ・ Fennell, Barbara A. A History of English: A Sociolinguistic Approach. Malden, MA: Blackwell, 2001.

Referrer (Inside): [2015-10-02-1] [2014-12-26-1]

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