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polysemy - hellog〜英語史ブログ

最終更新時間: 2026-04-05 20:34

2010-11-14 Sun

#566. contronym [antonymy][polysemy][contronym]

 [2010-10-18-1], [2010-11-07-1]で話題にした同音異義衝突 ( homonymic clash ) と関連するが,ある語が相反する2の意味を同時に有することがある.このような語を contronym あるいは Janus-faced word と呼ぶ.
 英語の卑近な例として,out がある."Stars are out tonight." では「現われている」の意味を,"The lights are all out." では「消えている」をそれぞれ表わす.別の典型的な contronym に sanction がある.この語は「認可,許可」の語義 ( ex. "without the sanction of Parliament" ) と並んで「制裁,処罰」 ( ex. "US sanctions against Cuba" ) の語義をもつ.副詞 fast には「しっかりと」固定する意味 ( ex. "make a boat fast" ) と「素早く」走る意味 ( ex. "run fast" ) とが混在している.quinquennial には「5年間続く」と「5年に1度」の語義がある ( Bryson, pp. 63--64 ) .
 近年,誤用として問題にされる "infer" も一種の contronym と考えられるだろう.infer は本来「推測する」を意味するが,略式には imply 「暗示する」と同義にも用いられる.話し手Aが暗示するものを聞き手Bが推測するという因果関係なので両語義は結びつくが,心理作用の方向としては反対である.OALD8 の語法解説では,以下のように述べられている.

infer / imply
Infer and imply have opposite meanings. The two words can describe the same event, but from different points of view. If a speaker or writer implies something, they suggest it without saying it directly: The article implied that the pilot was responsible for the accident. If you infer something from what a speaker or writer says, you come to the conclusion that this is what he or she means: I inferred from the article that the pilot was responsible for the accident.
??? Infer is now often used with the same meaning as imply. However, many people consider that a sentence such as Are you inferring that I???m a liar? is incorrect, although it is fairly common in speech.


 しかし,Trudgill (5--6) が infer について力説している通り,語用的な文脈や統語的な環境(共起する前置詞が tofrom かなど)でいずれの意味で用いられているかが判別できる場合がほとんどで,それほど混同は起こらない.とはいっても,contronym には潜在的に誤解の恐れがあるのは確かであり,infer のような誤用論争の有無を別にしても,いずれかの意味が淘汰されてゆく動機づけや圧力は,contronym でない語に比べれば大きいと考えてよいのではないだろうか.

 ・ Bryson, Bill. Mother Tongue: The Story of the English Language. London: Penguin, 1990.
 ・ Trudgill, Peter. "The Meaning of Words Should Not be Allowed to Vary or Change." Language Myths. Ed. Laurie Bauer and Peter Trudgill. London: Penguin, 1998. 1--8.

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2010-02-08 Mon

#287. 外国語の polysemy は発想の源泉 [etymology][polysemy][grimms_law]

 突然だが,質問.銭湯や温泉でよくみかける下の写真のような蛇口を何というだろうか.
kraan
答えは カラン (←クリック).
 最近はあまり見かけないように思うが,子供の頃によく銭湯に通っていた頃には,蛇口にカタカナで書かれていたように記憶している.なんでそんな名前がついているのかなと当時から不思議だったが,天井の高い銭湯の空間に洗面器の音がカラーンと鳴り響くからかなとか,写真にもある洗面器の代名詞ともいうべき「ケロリン」と関係があるのかななどと思っていた.
 あるとき,これがオランダ語 kraan から来たものだと知った.西ゲルマン諸語の一つとしてオランダ語と類縁関係にある英語では,これに対応する語 ( cognate ) は crane 「鶴」である.鶴の曲がった首のイメージである.昨日の記事[2010-02-07-1]で触れたとおり,crane は「鶴」「起重機」などを意味する多義語 ( polysemic word ) だが,予想通り英語でも「蛇口」の語義があった.OED によると,「鶴」は古英語から存在し,「起重機」「蛇口」は1375年(『英語語源辞典』では1349年),1634年がそれぞれ初出である.
 この語源を知ることのおもしろさは二点ある.一つは,日本語で「鶴」「クレーン」「カラン」というとき,実は語源としては三つの言語が関わっているというということである.もう一つは,英語(とオランダ語)では三つの語義が crane の一語のみでまかなわれていることである.日本語だけでは,鶴とクレーンと蛇口を結びつけるという発想はまず出てこないだろう.だが,英語かオランダ語を修めていれば,いやそこまで行かなくとも語源を調べるだけの力があれば,この発想の井戸に容易にたどり着くことができるのである.この考え方を押し広げると,外国語の多義語はたいてい発想の源泉になり得るということだろう.
 ついでに,cranberry 「ツルコケモモ(の実),クランベリー」は,おしべが鶴のくちばしの形に似ていることからそう呼ばれるという.また,pedigree 「家系(図),血統」はフランス語の pied de grue "foot of crane" が中英語に入ったものであり,家系図を鶴の足になぞらえた奇抜な発想に基づく.フランス語 grue 「鶴」自体はラテン語 grūs 「鶴」に由来し,グリムの法則([2009-08-08-1])を介してゲルマン語形 cranekraan の語頭子音と対応することがわかるだろう.

Referrer (Inside): [2010-04-09-1]

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2010-02-07 Sun

#286. homonymy, homophony, homography, polysemy [homonymy][homophony][homography][polysemy]

 昨日の記事[2010-02-06-1]同音異綴 ( homophony ) に触れた.今日は,これとしばしば混同される三つの概念を導入し,比較対照しながらそれぞれの理解を深めたい.

homophony ( homohphones )
  同音異綴(語).発音は同じだが綴字が異なる語どうしの関係.ex. son, sun
homography ( homographs )
  同綴異音(語).綴字は同じだが発音が異なる語どうしの関係.ex. bow /bəʊ/ 「弓」, bow /baʊ/ 「お辞儀」
homonymy ( homonyms )
  同音同綴異義(語).発音も綴字も同じだが意味が異なる語どうしの関係.ex. last 「最後の」, last 「持続する」
polysemy ( polysemic words )
  多義(語).一つの語が,互いに関連する複数の意味をもっている状態.ex. crane 「鶴」「起重機」

 上の四つの概念は,綴字と発音と意味の三者の関係が複雑であり得ることを反映したものである.日本語では「綴字」に対応するものが少なくとも二種類(仮名と漢字)へ区別されるため,あり得る関係の組み合わせは余計に多くなる.
 polysemy は,定義をみると,他の三つと比べて異質に感じられるかもしれないが,一緒に掲げたのは homonymy との境目が曖昧なケースが多々あるからである.例に挙げた crane は,歴史的には「鶴」が先にあり,その形状が似ていることに基づく比喩 ( metaphor ) で「起重機」の意味が生じた.歴史的に意味の連続性があるという点で,crane という一形態素(語)に複数の意味が対応するようになった ( polysemy ) と考えるのが自然である.辞書でいえば,立てるべき見出しは crane 一つで済む.一方 last の二つの意味は,歴史的に関係がない.別語源の二つの形態素(語)が,偶然に同じ形態へと合流してしまっただけである.本来的に別の語と考えられるので,辞書では見出しを別々に立てるのが自然である.
 しかし,歴史的・語源的に考えた上で辞書の見出しの立て方を決めるのが自然という立場は,無条件に受け入れてよいものだろうか.歴史を知らないと仮定して,共時的な立場から,万人が「鶴」と「起重機」のあいだに関連性を見いだせるかは疑問だし,反対に「最後の」と「持続する」のあいだに意味のつながりを見いだす人がいたとしても不思議ではない.例えば,light weightlight blue における形容詞 light はどうだろうか.歴史的には二つの light は区別されるべきであり,homonymy と呼ぶべき関係である.しかし,共時的には「軽い,薄い,淡い」という意味上の共通点でまとめられるのではないかという主張も可能であり,この場合には polysemy の関係であると言える.
 homonymy と polysemy の区別を明確につけることはできないという点を考慮しつつ,以上四つの概念を次のように図示してみた.これは,Görlach の図 (51) をもとに改変を加えたものである

homonymy, homophony, homography, and polysemy

 ・Görlach, Manfred. The Linguistic History of English. Basingstoke: Macmillan, 1997.

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