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agreement - hellog〜英語史ブログ

最終更新時間: 2026-05-30 05:46

2012-06-14 Thu

#1144. 現代英語における数の不一致の例 [number][agreement][prescriptive_grammar][syntax][singular_they]

 主語となる名詞の示す数と,対応する動詞の示す数が一致しない例は,古い段階の英語にも現代英語にも数多く認められる.現代英語におけるこの問題の代表としては,[2012-03-16-1]の記事で取り上げた singular they などが挙げられよう.Reid に基づいた武藤 (85--86) によれば,数の不一致の例は,3種類に分けられる.以下,各例文で,不一致の部分を赤で示した.

(A型) 実体の焦点は単数;数の焦点は複数

 ・ At ADT (security systems) 98 years' experience have taught us that no one alarm device will foil a determined burglar.
 ・ Five years ago 5 per cent of tax returns were subject to review. Today, only one per cent are subject to review.
 ・ The whole process of learning a first and second language are so completely different. (Laura Holland)
 ・ Rudolph is especially effective in crowd scenes like the opening, where movement of people and camera are delicately braided, where odd characters flutter through the background unemphasized. (Stanley Kauffman, The New Republic)

(B型) 実体の焦点は複数;数の焦点は単数

 ・ The sex lives of Roman Catholic nuns does not, at first blush, seem like promising material for a book. (Newsweek)
 ・ Two million dollars comes from corporations and foundations, but almost $400,000 from private gifts. (The New York Times)
 ・ Two drops deodorizes anything in your home. (Air freshner advertisement)
 ・ For one thing, the player is much closer to the instrument than the listener, and the sounds he hears is thus a different sound. (John Holt, Instead of Education)

(C型) and で連結された2個の実体;数の焦点は単数

 ・ Gas and excess acid in your stomach is what we call Gasid Indigestion. (Alka-Seltzer commercial)
 ・ We know that the company's destiny and ours is the same.
 ・ Galloping horses and thousands of cattle is not necessary to cinema; I call that photography. (Alfred Hitchcock, radio interview)
 ・ I just want you to know that this whole Watergate situation and the other opportunities was a concerted effort by a number of people. (Jeb Magruder, Newsweek)

 以上の例は,いずれも実体の数と,観念の上で焦点化される数との不一致として説明される.A型の各例文でいえば,主語となる名詞句の主要部が指している実体は単数だが,共起している 98 years', tax returns, a first and second language, people and camera が複数を喚起するため,それに引かれて動詞も複数で呼応しているということである.
 言語の社会的,規範遵守的,論理的な側面と,個人的,規範逸脱的,文体的な側面とのせめぎ合いと言ったらよいだろうか.武藤 (87) のことばを借りれば,次のようになる.

名詞形の数の話者が置く焦点によって動詞との呼応が何れかに分れるのはそれなりの根拠が存在している点を考えると,この呼応は話者の idiosyncratic な言語感覚,stylistic な好みによっているとも思われるが,もっと大きな言語行為として把えると,話者が形態上の呼応にとらわれずに自由に,単数あるいは複数の呼応を決めて行こうとする言語表現の1つの傾向だと思われる.


 ・ 武藤 光太 「英語の単数形対複数形について」『プール学院短期大学研究紀要』33,1993年,69--88頁.
 ・ Reid, Wallis. Verb and Noun Number in English: A Functional Explanation. London: Longman, 1991.

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2012-03-16 Fri

#1054. singular they [personal_pronoun][gender][political_correctness][number][agreement][prescriptive_grammar][singular_they]

 現代英語の問題としてしばしば取り上げられる singular they について.「#275. 現代英語の三人称単数共性代名詞」の記事 ([2010-01-27-1]) でも取り上げたが,現代英語には any, each, every, no などで修飾された形態的に単数である人を表わす名詞を,後で受けるための適切な代名詞がない.he で代表させようとすると男尊女卑と言われかねず,かといって she で代表させるのもしっくりこない.it だとモノ扱いのようで具合が悪い.性を問わない they を用いれば,伝統主義の規範文法家の大好きな数の一致 (agreement) という規則に抵触し,槍玉にあげられかねない.現実の語法としては,最後に挙げた singular they が勢力を得ているが,そのような問題の生じないように文を改めよという助言もよく聞かれる.
 このような現代的とされる語法上の問題は,実は現代英語で生じたものではなく,古い歴史をもっているものが多い.OED の "they, pers. pron." B. 2. によると,"Often used in reference to a singular noun made universal by every, any, no, etc., or applicable to one of either sex (= 'he or she'). See Jespersen Progress in Lang. §24." とあり,その初例は1526年である.細江 (254--56) には,近代英語からの例がいろいろと挙げられている.いくつかを抜き出そう.

 ・ Let each esteem others better than themselves.---Philippians, ii. 3.
 ・ Each was swayed by the emotion within them, much as the candle-flame was swayed by the tempest without.---Hardy.
 ・ Nobody knows what it is to lose a friend till they have lost him.---Fielding.
 ・ Everyone must judge of their feelings.---Byron.
 ・ No one in their senses could doubt.---Dickens.
 ・ Nobody will come in, will they?---Priestley.


 each などが先行しない単数名詞が they で受けられている例もある.

 ・ The feelings of the parent upon committing the cherished object of their cares and affections to the stormy sea of life.---S. Ferrier.
 ・ A person can't help their birth.---Thackeray


 they の数の不一致の問題は,英語の代名詞体系が否応なく内包する問題である.フランス語では,このような場合に便利な soi, son などの語が用意されており,問題とはならない.英語にとっての解決法は,問題の語法をまったく使わないという回避策を採らないとするのであれば,代名詞体系を改変するか,既存の体系内の運用で対処するかである.前者については,[2010-01-27-1]の記事で示したように,様々な語が提案されたが,文書で時折見られる s/he でさえ好まれているとは言い難い.後者の有力候補である singular they は,歴史的にも連綿と行なわれてきたし,その苦肉の策たることは誰しもが理解しているのであり,共感を誘う.その苦肉は,以下の例のなかにも見て取ることができる.

 ・ If an ox gore a man or a woman, that they die; then the ox shall be surely stoned.---Exodus, xxi. 28.


 Burchfield も認めている通り,すでに大勢は決せられているといってよい.
 関連して,愚痴を一つ.英語で論文執筆の際に,引用している著者の性別の見当がつかず,代名詞を用いるのをためらわざるをえない状況に困ることがある.日本語であれば「著者は」を繰り返してもそれほどおかしくないが,英語では the author を何度も繰り返すわけにもいかない・・・.

 ・ 細江 逸記 『英文法汎論』3版 泰文堂,1926年.
 ・ Burchfield, Robert, ed. Fowler's Modern English Usage. Rev. 3rd ed. Oxford: OUP, 1998.

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2011-12-30 Fri

#977. 形容詞の屈折語尾の衰退と syntagma marking [ilame][adjective][inflection][agreement][germanic][afrikaans][syntagma_marking]

 昨日の記事「#976. syntagma marking」 ([2011-12-29-1]) で取り上げた橋本萬太郎を知ったのは,先日の日本歴史言語学会にて,北海道大学の清水誠先生の「ゲルマン語の「nの脱落」と形容詞弱変化の「非文法化」」と題する研究発表のなかでその名前が触れられていたからである.
 古英語や,部分的に中英語にも見られたゲルマン諸語の形容詞弱変化の典型的な語尾 -n が摩滅してゆくことによって,本来は性・数・格の一致という文法的機能を有していた弱変化の屈折体系が「非文法化」してゆく過程について論じる研究発表だった.-n を含む形容詞弱変化語尾が完全に消失してしまったのであれば非文法化も何もないわけだが,ぎりぎりのところで -e などの母音語尾が残っており,それでいてその語尾はかつてのような統語的な一致を示すわけではないという中途半端な段階が,いくつかのゲルマン語に見られる.例えば,アフリカーンス語では,かつての屈折語尾に由来する -e 語尾の有無は,形容詞語幹の形態的条件によって自動的に決まってくるものであり,統語的な条件は勘案されないという.
 清水先生は,形容詞屈折語尾の非文法化とは,別の言い方をすれば,それが「形容詞+名詞」を連結する単なる「テープ」へ変容したということであると指摘する.「テープ」とは,形容詞と名詞の連結度を強めるために母音や -n を中間に挟み込むという syntagma marker としての働きにほかならない.それは音便 (euphony) としても役立つと思われ,統語的機能は限りなく弱いとしても,存在意義がまったくないということにはならなそうだ.また,多くのゲルマン語で,叙述用法では形容詞の屈折語尾が保たれにくいという事実が見られるが,これは関係する名詞との連結度が限定用法の場合よりも弱いためと説明できるだろう.
 たまたま,目下,中英語の形容詞屈折体系の崩壊 (ilame) に関心があるので,崩壊の過程で化石的に残っていた形容詞屈折語尾は,あくまで syntagma marker として,つなぎの「テープ」として,機能していたにすぎない,と考えることができるかもしれないと,清水先生の発表を聴いて思った次第である.
 中英語期のあいだ,形容詞屈折語尾は消失しそうになりながらも,しぶとく生きながらえていた.統語的な一致の意識がかろうじて残っていたゆえとも考えられるが,それとは別に,言語に普遍的な syntagma marking からの要求があったがゆえ,と想像することもできるかもしれない.speculative ではあるが,刺激的な議論となりうる.

 ・ 橋本 萬太郎 『現代博言学』 大修館,1981年.

Referrer (Inside): [2015-08-04-1] [2012-05-13-1]

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2011-11-13 Sun

#930. a large number of people の数の一致 [agreement][number][syntax][bnc][corpus]

 現代英語で「a (large) number of + 複数名詞」が主語に立つとき,動詞は複数に一致するのが原則である.完全にこの理解でいたのだが,先日次のような文に出くわした.

A large number of native speakers is perhaps a pre-requisite for a language of wider communication . . . . (Graddol 12)


 そこで,数々の辞書や文法書をひっくり返してみた.ほとんどすべての参考書がこの句を複数扱いとしており,統語分析を与えているものについては,number ではなくこの場合で言えば native speakers を主要部 (head) とみなしている.特に,OALD8, LDOCE5, COBUILD English Usage といった典型的な学習者用英英辞書では,複数形の動詞で一致するよう明示的に注記を与えている.また,規範文法のご意見番 Fowler ("number" の項)によると次の通りで,単数一致については明示的な言及はなかった.

. . . as a noun of multitude in the type 'a number of + pl. noun', normally governs a plural verb both in BrE and AmE.


 調べたレファレンスのなかで,単数一致について言及していたのは以下のものである.

 ・ CGEL: "A (large) number of people have applied for the job. [2]" という例文について,"Use of the singular . . . would be considered pedantic in [2] . . . ." (765) と述べている.
 ・ CALD3: 単数一致を示す例文を "(slightly formal)" というレーベルを与えつつ挙げていた."A large number of invitations has been sent."
 ・ 『ジーニアス英和大辞典』: 単数一致を「((正式))」としていた."A ? of passengers were [((正式)) was] injured in the accident."

 これで,formal or pedantic という register でまれに使用されるらしいということは分かった.では,BNCWeb で確かめてみようと,"a (very)? (large|great|good|small)? number of ((_AV*)? _AJ*)* _NN2 (_VHZ|_VBZ|was_VBD|_VDZ|_VVZ)" として検索し,該当する例のみを手作業で拾い出してみた.全部で25例あったが,1例を除いてすべてが書き言葉からの文例であり,そのうち12例が Academic prose からのものだった.全体として,この表現が academic or pedantic へ強い傾向を示すことは確かなようだ.

 ・ Graddol, David. The Future of English? The British Council, 1997. Digital version available at http://www.britishcouncil.org/learning-research-futureofenglish.htm
 ・ Burchfield, Robert, ed. Fowler's Modern English Usage. Rev. 3rd ed. Oxford: OUP, 1998.
 ・ Quirk, Randolph, Sidney Greenbaum, Geoffrey Leech, and Jan Svartvik. A Comprehensive Grammar of the English Language. London: Longman, 1985.

Referrer (Inside): [2021-05-20-1] [2013-01-11-1]

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