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construction - hellog〜英語史ブログ

最終更新時間: 2024-11-22 17:50

2019-04-12 Fri

#3637. 依頼を表わす Will you . . . ? の初例 (2) [oed][speech_act][politeness][interrogative][historical_pragmatics][pragmatics][implicature][auxiliary_verb][construction]

 [2019-04-07-1]の記事に引き続き,Will you . . . ? 依頼文の発生について.OED によると,この構文の初出は1300年以前の Vox & Wolf という動物寓話にあるとされる.Bennett and Smithers 版の The Fox and the Wolf より,問題の箇所 (l. 186) の前後の文脈 (ll. 171--97) を取り出してみよう.

'A!' quod þe wolf, 'gode ifere, 
Moni goed mel þou hauest me binome! 
Let me adoun to þe kome, 
And al Ich wole þe forȝeue.'175
'Ȝe!' quod þe vox, 'were þou isriue, 
And sunnen heuedest al forsake, 
And to klene lif itake, 
Ich wolde so bidde for þe 
Þat þou sholdest comen to me.'180
'To wom shuld Ich', þe wolf seide, 
'Ben iknowe of mine misdede?--- 
Her nis noþing aliue 
Þat me kouþe her nou sriue. 
Þou hauest ben ofte min ifere---185
Woltou nou mi srift ihere, 
And al mi liif I shal þe telle?' 
'Nay!' quod þe vox, 'I nelle.' 
'Neltou?' quod þe wolf, 'þin ore! 
Ich am afingret swiþe sore---190
Ich wot, toniȝt Ich worþe ded, 
Bote þou do me somne reed. 
For Cristes loue, be mi prest!' 
Þe wolf bey adoun his brest 
And gon to siken harde and stronge.195
'Woltou', quod þe vox, 'srift ounderfonge? 
Tel þine sunnen, on and on, 
Þat þer bileue neuer on.' 


 物語の流れはこうである.つるべ井戸に落ちてしまった狐が,井戸のそばを通りかかった知り合いの狼を呼び止めた.言葉巧みに狼をそそのかし,狼を井戸に落とし,自分は脱出しようと算段する.狼にこれまでの悪行について懺悔するよう説得すると,狼はその気になり,狐に懺悔を聞いて欲しいと願うようになる.そこで,Woltou nou mi srift ihere, / And al mi liif I shal þe telle? (ll. 168--69) という狼の発言になるわけだ.
 付近の文脈では全体として法助動詞が多用されており,狐と狼が掛け合いのなかで相手の意志や意図を確かめ合っているという印象を受ける.問題の箇所は,will を原義の意志の意味で取ると,「さあ,あなたには私の懺悔を聞こうという意志がありますか?そうであれば私は人生のすべてをあたなに告げましょう.」となる.しかし,ここでは文脈上明らかに狼は狐に懺悔を聞いてもらいたいと思っている.したがって,依頼の読みを取って「さあ,私の懺悔を聞いてくださいな.私は人生のすべてをあなたに告げましょう.」という解釈も可能となる.もとより相手の意志を問うことと依頼とは,意味論・語用論的には僅差であり,グラデーションをなしていると考えられるわけだから,ここでは両方の意味が共存しているととらえることもできる.
 しかし,直後の狐の返答は,依頼というよりは質問に答えるかのような Nay! . . . I nelle. である.現代英語でいえば Will you hear my shrift now? に対して No, I won't. と答えているようなものだ.少なくとも狐は,先の狼の発言を「懺悔を聞こうとする意志があるか?」という疑問と解釈(したふりを)し,その疑問に対して No と答えているのである.狼としては依頼のつもりで言ったのかもしれないが,相手には疑問と解釈されてしまったことになる.実際,狼はその答えに落胆するかのように,Neltou? (その意志がないというか?)と返している.
 もし狼の側に依頼の意味が込められていたとしても,その依頼という含意は,文脈に支えられて初めて現われる類いの特殊化された会話的含意 (particularized conversational implicature) であって,一般化された会話的含意 (generalized conversational implicature) ではないし,ましてや慣習的含意 (conventional implicature) でもないように思われる.今回の事例を Will you . . . ? 依頼文の初例とみなすことは相変わらず可能かもしれないが,慣習化された構文,あるいは独り立ちした表現とみなすには早すぎるだろう.

 ・ Bennett, J. A. W. and G. V. Smithers, eds. Early Middle English Verse and Prose. 2nd ed. Oxford: OUP, 1968.

Referrer (Inside): [2022-03-17-1]

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2019-04-07 Sun

#3632. 依頼を表わす Will you . . . ? の初例 [oed][speech_act][politeness][historical_pragmatics][pragmatics][implicature][construction][auxiliary_verb]

 現代英語には法助動詞 will を用いた依頼を表わす形式として,Will you do me a favor? などの表現がある.比較的親しい間柄で用いられることが多く,場合によっては Will you shut up? のようにややきつい命令となることもある.一方,公的な指示として Will you sign here, please? のようにも用いられ,ポライトネスの質や程度が状況に応じて変わるので,使いこなすのは意外と難しい.形式的には未来の意ともなり得るので,依頼の意図を明確にしたい場合には please を付すことも多い.
 この表現の起源は,2人称の意志を問う意志未来としての Will you . . . ? にあると考えられる.一方的に頼み事を押しつけるのではなく,あくまで相手の意志を尊重し,それを問うという体裁をとるので,その分柔らかく丁寧な言い方になるからだ.疑問文の外見をしていながら,実際に行なっているの依頼・命令・指示ということで,ポライトネスを考慮した典型的な間接発話行為 (indirect speech act) の事例といえる.
 
OED の will, v1. によると,I. The present tense will. のもとの6bに,依頼の用法が挙げられている.

b. In 2nd person, interrog., or in a subord. clause after beg or the like, expressing a request (usually courteous; with emphasis, impatient).

a1300 Vox & Wolf in W. C. Hazlitt Remains Early Pop. Poetry Eng. (1864) I. 64 Thou hauest ben ofte min i-fere, Woltou nou mi srift i-here?
a1400 Pistill of Susan 135 Wolt þou, ladi, for loue, on vre lay lerne?
1470--85 Malory Morte d'Arthur i. vi. 42 Sir said Ector vnto Arthur woll ye be my good and gracious lord when ye are kyng?
1592 R. Greene Philomela To Rdr. sig. A4 I..craue that you will beare with this fault.
1600 Shakespeare Henry V ii. i. 43 Will you shog off?
1608 Shakespeare King Lear vii. 313 On my knees I beg, That you'l vouchsafe me rayment, bed and food.
1720 A. Ramsay Young Laird & Edinb. Katy 1 O Katy wiltu gang wi' me, And leave the dinsome Town a while.
1823 Scott St. Ronan's Well III. iv. 96 I desire you will found nothing on an expression hastily used.
1878 T. Hardy Return of Native III. v. iii. 144 Oh, Oh, Oh,..Oh, will you have done!


 依頼表現としての Will you . . . ? が,依頼動詞の従属節内に現われる will から発達した可能性も確かに理論的にはありそうだが,OED の用例でいえば,従属節の例は4つめの1592年のものであり,時間の前後関係が逆のようにみえる.また,初例は1300年以前とかなり早い時期だが,おそらく表現として定着したのは近代英語に入ってからだろう.ただし,疑問ではなく依頼という語用論的な機能や含意 (implicature) がいつ一般化したといえるのかは,歴史語用論研究に常について回るたいへん微妙な問題であり,明確なことをいえるわけではない.関連して「#1976. 会話的含意とその他の様々な含意」 ([2014-09-24-1]),「#1984. 会話的含意と意味変化」 ([2014-10-02-1]) も参照.

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2019-03-17 Sun

#3611. なぜ He is to blame.He is to be blamed. とならないのか? [infinitive][syntax][passive][voice][construction][sobokunagimon]

 標題の He is to blame. は「彼は責められるべきだ;彼には責任がある」という意味のフレーズだが,厳密に態 (voice) を考慮すれば,「彼」は「責められる」立場であるから He is to be blamed. と不定詞も受け身になるべきだと思われるかもしれない.実際,後者でも意味は通じるし,もちろん文法的なのだが,慣習的なフレーズとしては前者が用いられる.なぜだろうか.
 これは,動名詞について解説した「#3604. なぜ The house is building. で「家は建築中である」という意味になるのか?」 ([2019-03-10-1]) と「#3605. This needs explaining. --- 「need +動名詞」の構文」 ([2019-03-11-1]) とも関係する.動名詞と同様に不定詞 (infinitive) も動詞の名詞化という機能をもっている.動名詞や不定詞により動詞が名詞化すると,もともとの動詞がもっていた態の対立は中和し,能動・受動の区別なく用いられるようになる.to blame は,したがってこの形で能動的に「非難すべき」ともなり得るし,受動的に「非難されるべき」ともなり得るのである.区別が中和されているということは,文脈によりいずれにも解釈し得るということでもある.He is to blame. の場合には,意味上,受け身として解釈されるというわけだ.There is a house to let.I have something to say. のような「形容詞的用法」の不定詞も,態の中和という発想に由来する(中島,p. 238).
 ただし,不定詞(や動名詞)の態の中和は,あくまでそれが強い名詞性を保っていた時代の特徴である.近代以降,不定詞(や動名詞)はむしろ動詞的な性格を強めてきており,中和されていた態の対立が復活してきている.その結果,慣習的ではないとはいえ He is to be blamed. も文法的に許容されるようになった.標題のような構文は,古い時代の特徴を伝える生きた化石のような存在なのである.

 ・ 中島 文雄 『英語発達史 改訂版』岩波書店,2005年.

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2019-03-11 Mon

#3605. This needs explaining. --- 「need +動名詞」の構文 [gerund][participle][passive][voice][construction]

 昨日の記事「#3604. なぜ The house is building. で「家は建築中である」という意味になるのか?」 ([2019-03-10-1]) と関連する構文の話題.標題のように,need が動名詞(能動態)を従える構文がある.論理的に考えれば Thisexplain されるべき対象であるから,動名詞の受動態 being explained が用いられてしかるべきところだが,一般には標題の通りでよい.これは,昨日も述べたように,(動)名詞にあっては,もとの動詞には備わっていた態 (voice) の対立が中和されているからである.つまり,動詞 explain から動名詞 explaining となったことにより,「説明する」と「説明される」の意味的対立が薄まり,純正の名詞 explanation (説明)と同じように,態について無関心となっていると考えればよい.
 need のほかに want, require, deserve, bear, escape などの動詞や,形容詞 worth も動名詞を従える構文をとる(中島,p. 232).例を挙げよう.

 ・ This machine wants repairing.
 ・ The fence requires painting.
 ・ A person who steals deserves punishing.
 ・ It doesn't bear thinking about.
 ・ Use every man after his desert, and who should 'scape whipping? --- Hamlet, II. ii. 555--6
 ・ What is worth doing at all is worth doing well.

 もちろん各々に動名詞の受動態を用いても,それはそれで意味論的にも統語的にも適格ではあるが,「構文としての響き」というべきものは失われるのかもしれない.いずれにせよニッチに生き残ってきた構文である.

 ・ 中島 文雄 『英語発達史 改訂版』岩波書店,2005年.

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2019-03-10 Sun

#3604. なぜ The house is building. で「家は建築中である」という意味になるのか? [syntax][gerund][participle][passive][voice][category][construction][sobokunagimon]

 標題の文は古風な表現ではあるが,現在でも使われることがある.「家が建てられているところだ」という受動的な意味に対応させるには,受動進行形を用いて The house is being built. となるべきではないのかと疑問に思われるかもしれない.この疑問はもっともであり,確かに後者の受動進行形の構文が標準的ではある.しかし,それでもなお,標題の The house is building. は可能だし,歴史的にはむしろ普通だった.能動態と受動態という態 (voice) の区別にうるさいはずの英語で,なぜ標題の文が許されるのだろうか.
 歴史的には,The house is building.building は現在分詞ではなく動名詞である.同じ -ing 形なので紛らわしいが,両者は機能がまったく異なる.The house is building. の前段階には The house is a-building. という構文があり,さらにその前段階には The house is on building. という構文があった.つまり,buildingbuild の動名詞であり,それが前置詞 on の目的語となっているという統語構造なのである.意味的にはまさに「建築中」ということになる.前置詞 on が弱化して接頭辞的な a- となり,それがさらに弱化し最終的には消失してしまったために,あたかも現在進行形構文のような見栄えになってしまったのである.
 動名詞は動詞由来であるから動詞的な性質を色濃く残しているとはいえ,統語上の役割としては名詞である.態とは本質的に動詞にかかわる文法範疇であり,名詞には関与しない.したがって,動「名詞」としての building では,「建てる」と「建てられる」の態の対立が中和されている.まさに日本語の「建築」がぴったりくるような意味をもっているのだ.前置詞 on を伴って「建築中」の意となるのは自然だろう.
 このような構文は,古風とはいえ現在でも用いられることがあるし,近代英語まで遡ればよくみられた.類例として,以下を挙げておこう(中島,pp. 229--30).

 ・ The whilst this play is playing --- Hamlet, III. ii. 93.
 ・ While grace is saying -- Merch. V., II. ii. 202
 ・ What's doing here?
 ・ The dinner is cooking.
 ・ The book is printing.
 ・ The tea is drawing.
 ・ The history which is making about us.

 標題の問いに戻ろう.主語の the house と,building のなかに収まっているもともとの動詞 build とは,歴史的にいえば直接的な統語関係にあるわけではない.言い方をかえれば,build the house という動詞句を前提とした構文ではないということだ.一方,現代の標準的な The house is being built. は,その動詞句を前提とした構文である.つまり,2つの構文は起源がまったく異なっており,比べて合ってもしかたない代物なのである.
 現在分詞と動名詞が,まったく異なる機能をもちながらも,同じ -ing 形となっている歴史的経緯については,「#2421. 現在分詞と動名詞の協働的発達」 ([2015-12-13-1]) を参照されたい.

 ・ 中島 文雄 『英語発達史 改訂版』岩波書店,2005年.

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