hellog〜英語史ブログ

#463. 英語ベースのピジン語とクレオール語の一覧[pidgin][creole][link][tok_pisin][post-creole_continuum]

2010-08-03

 世界には英語ベースのピジン語やクレオール語が30以上存在するといわれている.[2010-07-15-1], [2010-07-16-1]で見たように,ピジン語やクレオール語の定義や起源に曖昧な点があるので正確に数えることは難しいが,名前がついているものを挙げると30以上になるという.McArthur (177) よりその一覧を再現しよう.

(1) Africa

Gambian Creole or Aku; Krio and pidginized Krio in Sierra Leone; Liberian Creole; Ghanaian Pidgin; Togolese Pidgin; Nigerian Pidgin (creolized in urban areas); Kamtok in Cameroon (creolized in urban areas; see [2010-06-13-1], [2010-06-14-1]); Bioku Pidgin on Fernando Po.


(2) North America (All in the United States)

Afro-Seminole Creole; Amerindian Pidgin (most varieties now extinct); Black English Vernacular (status controversial); Sea Island Creole, or Gullah; Hawaii Pidgin and Creole.


(3) Central America, the Caribbean, and the neighbouring South America

Bahamian Creole; Barbadian Creole; Belizean Creole; Costa Rican Creole; Guyanese Creolese (sic) (see [2010-05-17-1]); Jamaican Creole or Nation Language or Patwa; Leeward Island Creole(s); Nicaraguan Creole; Surinamese Djuka or Aukan, Saramaccan, and Sranan (see [2010-06-05-1]); Trinidad and Tobago Creole(s) or Trinibagianese or Trinbagonian; Virgin Islands Creole; Windward Island Creole(s).


(4) Australasia-Pacific Ocean

Bislama (Vanuatu), Hawaii Pidgin and Creole, Pijin (the Solomon Islands), Kriol or Roper River Pidgin/Creole (northern Australia), Pitcairnese and Norfolkese (Pitcairn Island and Norfolk Island), Tok Pisin/Neo-Melanesian (Papua-New Guinea), Torres Straits Broken/Creole.


 世界中にむらなく分布しているというよりは,英米の植民地史を反映して局地的に分布していることがよくわかる.これらの遠心性をもつ「英語」が,求心性をもつ世界標準英語 (World Standard English)や標準英米変種などの主要な標準変種に対して今後どのように位置づけられてゆくかが注目される.というのは,これらの「英語話者」は今後続々と教育の普及などによって post-creole continuum の階段を上り,標準変種を獲得し,かっこ付きでない英語話者となることが見込まれるからだ.しかも,束になれば相当な人口である.
 これらのピジン語やクレオール語が話される地域のみを選んで旅したら,英語観が変わってくるかもしれないな・・・.
 ピジン語やクレオール語に関するリンクをいくつか張っておく.

 ・ Society for Pidgin and Creole Linguistics: 学会のサイト
 ・ Pidgin and Creole Languages: ピジン語・クレオール語入門
 ・ Tok Pisin Translation, Resources, and Discussion: Tok Pisin/English 辞書あり
 ・ Jamaican Creole Texts: クレオール語とピジン語関係のリンクもあり

 ・ McArthur, Tom. The English Languages. Cambridge: CUP, 1998.

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#1531. pidgin と creole の地理分布[pidgin][creole][map][geography][world_languages][tok_pisin][caribbean]

2013-07-06

 数え方にもよるが,世界中で100以上のピジン語やクレオール語が日常的に用いられているといわれる.なかには200万人を超える話者を擁する Tok Pisin のような活発な言語もある.実際,Tok Pisin は南太平洋における最大の言語である.英語を lexifier とする「#463. 英語ベースのピジン語とクレオール語の一覧」 ([2010-08-03-1]) についてはすでに本ブログで言及したが,かつての大英帝国の影響力から予想される通り,英語ベースのものが最も多い.
 Romain (170--73) の地図を参照して lexifier 言語別にピジン語とクレオール語の個数を数え上げると,英語が35,フランス語が14,ポルトガル語が9,スペイン語が3,オランダ語が3,その他の言語が26となる. * *
 世界に散在する種々のピジン語とクレオール語を分類するのに,上記のように語彙を提供している言語,すなわち superstratum の言語を基準とする方法があるが,ほかに地域を基準とする分類もある.地理的な分布の観点からピジン語やクレオール語を大きく2分すると,大西洋系列と太平洋系列とに分かれる.Romain (174--75) を引用しよう.

Creolists recognize two major groups of languages, the Atlantic and the Pacific, according to historical, geographic, and linguistic factors. The Atlantic group was established primarily during the seventeenth and eighteenth centuries in the Caribbean and West Africa, while the Pacific group originated primarily in the nineteenth. The Atlantic creoles were largely products of the slave trade in West Africa which dispersed large numbers of West Africans to the Caribbean. Varieties of Caribbean creoles have also been transplanted to the United Kingdom by West Indian immigrants, as well as to the USA and Canada. The languages of the Atlantic share a West African common substrate and display many common features . . . . / In the Pacific different languages formed the substratum and socio-cultural conditions were somewhat different from those in the Atlantic. Although the plantation setting was crucial for the emergence of pidgins in both areas, in the Pacific laborers were recruited and indentured rather than slaves. Apart from Hawai'i, a history of more gradual creolization has distinguished the Pacific from the Atlantic (particularly Caribbean) creoles, whose transition has been more abrupt.


 このように地理的な分布による2分法は明快だが,両系列のあいだに複雑な関係があることを見えにくくしているきらいがあることには注意しておきたい.例えば,両系列に共有されている語彙 (savvy "to know" や picanniny "child, baby") の存在は,2つの海をまたいで活躍した船乗りの役割を考慮せずにうまく説明することはできないだろう.

 ・ Romain, Suzanne. Language in Society: An Introduction to Sociolinguistics. 2nd ed. Oxford: OUP, 2000.

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#1690. pidgin とその関連語を巡る定義の問題[pidgin][creole][lingua_franca][dialect][koine][terminology]

2013-12-12

 「#444. ピジン語とクレオール語の境目」 ([2010-07-15-1]) の記事で,pidgin の creole の区別が程度の問題であることをみた.一方で,pidgin も creole も,「#1671. dialect contact, dialect mixture, dialect levelling, koineization」 ([2013-11-23-1]) で話題にした koiné とともに,lingua_franca として機能しうることを,「#1391. lingua franca (4)」 ([2013-02-16-1]) の記事で確認した.そこでは,lingua franca は,trade language, contact language, international language, auxiliary language, mixed language など複数の種類に区別されるという議論だったが,Gramley はこれらの用語の指示対象の間に異なる関係を想定しているようだ.Gramley (219) はピジン語とその関連用語との区別を,contact, marginal, mixed, non-native, reduced という5つのパラメータを用いて以下のように示している.


contactmarginalmixednon-nativereduced
trade jargonyesyesyesyesyes
pidginyesyesyesyesyes/no
lingua francayesyesnoyes/noyes
koinéyesnoyesnoyes/no
dialectnoyes/nononono
creolenonononono


 それぞれのパラメータを解説すると,contact は接触変種として発達してきたかどうか,marginal は使用される状況が制限されているかどうか,mixed は複数の変種の要素が混じり合っているか,non-native は主として非母語話者によって話されているか,reduced は言語的に簡略化しているか,ということである.
 当然ながらそれぞれの値が yes なのか no なのかが重要となってくるが,ここに定義の問題が関わってくる.例えば,pidgin の行を横に見ると,yes, yes, yes, yes, yes/no という値の並びとなっているが,これは pidgin を定義していることになるのだろうか,それとも pidgin を記述していることになるのだろうか.yes だけからなる trade jargon を一方の端に設定し,no だけからなる creole をもう一方の端に設定して,その間に様々なタイプを位置づけたということなのかもしれない.
 上記の疑問があるのだが,とりあえずこの問題は横に置いておくとして,「#1681. 中英語は "creole" ではなく "creoloid"」 ([2013-12-03-1]) で取り上げた "creoloid" というタイプの変種をこの表の中に位置づけるとすると,どこに収まるだろうかと考えてみた.だが,考えれば考えるほど,それぞれのパラメータの指す内容が分からなくなってきた.そもそも,creole が contact や mixed で no の値を取るということはどういうことなのか.それぞれのタイプの定義の問題以前に,パラメータの定義の問題となってしまうようである.
 それぞれの用語とその指示対象が弁別素性によってうまく切り分けられるのであればよいが,そううまくいかないように思われる.pidgin とその関連語を巡る定義の問題は難しい.

 ・ Gramley, Stephan. The History of English: An Introduction. Abingdon: Routledge, 2012.

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#2118. pidgin から creole への道程[pidgin][creole]

2015-02-13

 「#1987. ピジン語とクレオール語の非連続性」 ([2014-10-05-1]) で,ピジン語とクレオール語に関するライフサイクル的な見方への懐疑論を紹介した.ライフサイクル的な見方とは,簡略化したピジン語が,母語話者をもつに及んで複雑化し,クレオール語となるという発展の仕方を想定するもので,いわば pidgin と creole を巡る伝統的な教科書風の記述に相当する.
 しかし,ピジン語からクレオール語へ発展するという見方を採用するにしても,その途中段階を考慮に入れると,いくつかの種類を想定せざるをえない.現実には以下の3種類の経路が認められる (Jenkins 11 の図を改変).

Route from Pidgin to Creole

 この図は,ライフサイクル的に pidgin (あるいは jargon)という段階から creole へ至ることを前提にするにしても,creole 化という過程がどの中途段階からも起こり得ることを示している.また,creole 化を起こさずに jargon や pidgin の段階にとどまっている Type 0 という段階を,合わせて仮定してもよいかもしれないし,さらにほかのタイプもあり得るかもしれない.いずれのタイプが選ばれるかは,それぞれの段階における変種の言語的性質によるというよりは,それが使用されている社会における社会言語学的な状況によるのだろう.pidgin から creole に至る道程は種々別々であり,安易な一般化は難しいばかりではなく,creole 化の本質を見失わせることもあるかもしれない.

 ・Jenkins, Jennifer. World Englishes: A Resource Book for Students. Abingdon: Routledge, 2003.

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