「#3162. 古因学」 ([2017-12-23-1]) や「#3172. シュライヒャーの系統図的発想はダーウィンからではなく比較文献学から」 ([2018-01-02-1]) で参照してきた三中によれば,人間の行なう物事の分類法は「分類思考」 (group thinking) と「系統樹思考」 (tree thinking) に大別されるという.横軸の類似性をもとに分類するやり方と縦軸の系統関係をもとに分類するものだ.三中 (107) はそれぞれに基づく科学を「分類科学」と「古因科学」と呼び,両者を次のように比較対照している.
分類科学 | 分類思考 | メタファー | 集合/要素 | 認知カテゴリー化 |
---|---|---|---|---|
古因科学 | 系統樹思考 | メトニミー | 全体/部分 | 比較法(アブダクション) |
観念論的解釈 | 系統学的解釈 | |
---|---|---|
体系学 (Systematik) | ← | 系統学 (Phylogenetik) |
形態類縁性 (Formverwandtschaft) | ← | 血縁関係 (Blutsverwandtschaft) |
変容 (Metamorphose) | ← | 系統発生 (Stammesentwicklung) |
体系学的段階系列 (systematischen Stufenreihen) | ← | 祖先系列 (Ahnenreihen) |
型 (Typus) | ← | 幹形 (Stammform) |
型状態 (typischen Zuständen) | ← | 原始的状態 (ursprüngliche Zuständen) |
非型的状態 (atypischen Zuständen) | ← | 派生的状態 (abgeänderte Zuständen) |
分類科学 | 古因科学 |
---|---|
構造主義言語学 (structural linguistics) | 比較言語学 (comparative linguistics) |
類型論 (typology) | 歴史言語学 (historical linguistics) |
言語圏 (linguistic area) | 語族 (language family) |
接触・借用 (contact, borrowing) | 系統 (inheritance) |
空間 (space) | 時間 (time) |
共時態 (synchrony) | 通時態 (diachrony) |
範列関係 (paradigm) | 連辞関係 (syntagm) |
パターン (pattern) | プロセス (process) |
紊???? (variation) | 紊???? (change) |
タイプ (type) | トークン (token) |
メタファー (metaphor) | メトニミー (metonymy) |
How | Why |
進化思考をあえて看板として高く掲げるためには,私たちは分類思考に対抗する力をもつもう一つの思考枠としてアピールする必要がある.たとえば,目の前にいる生きものたちが「どのように」生きているのか(至近要因)に関する疑問は実際の生命プロセスを解明する分子生物学や生理学の問題とみなされる.これに対して,それらの生きものが「なぜ」そのような生き方をするにいたったのか(究極要因)に関する疑問は進化生物学が取り組むべき問題だろう.
言語変化の「どのように」と「なぜ」の問題 (how_and_why) については,「#2123. 言語変化の切り口」 ([2015-02-18-1]),「#2255. 言語変化の原因を追究する価値について」 ([2015-06-30-1]),「#2642. 言語変化の種類と仕組みの峻別」 ([2016-07-21-1]),「#3133. 言語変化の "how" と "why"」 ([2017-11-24-1]) で扱ってきたが,生物学からの知見により新たな発想が得られた感がある.
・ 三中 信宏 『進化思考の世界 ヒトは森羅万象をどう体系化するか』 NHK出版,2010年.
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