hellog〜英語史ブログ

#996. flat adverb のきびきびした性格[adverb][flat_adverb]

2012-01-18

 ここ最近の関心事となっている flat_adverb について,付け加え.
 単純形が,-ly 形に比べて,具体的,端的で力強い響きを有することは昨日の記事[2012-01-17-1]でも触れた通りである.形容詞と同形であることに由来する,いきいき,きびきびした表現力が売りだ.形態的にゼロ派生であり,音声的には -ly がない分,1音節少なく,きびきびしている.命令文や感嘆文など主語などの要素が省略されやすい環境,特に短文で好まれ,この点でもきびきびした性格が明らかである.
 flat adverb がこのようにきびきびしていることは,意味上にも反映されている.ここで意味というのは,与える印象が力強いという文体的,修辞的な効果のことではなく,語そのものの意味である.岡村 (34) は,flat adverb は -ly 形と異なり,派生的・比喩的な意味を生み出さないとしている.
 ここで興味深いのは,Bolinger の研究に言及しながら,岡村 (33) が副詞の位置による意味の比喩性の議論を持ち出していることだ.以下の4つの文では,slowly の置かれる位置に応じて,比喩的な度合いが異なるという.a が最も比喩的で,d が文字通りの「ゆっくり」を表わすという.

a. Slowly he backed away.
b. He slowly backed away.
c. He backed slowly away.
d. He backed away slowly.


 ここでの副詞を単純形 slow で置き換えるのであれば,容認されるのは d に対応する文 He backed away slow. のみである.単純形 slow が,意味的にも韻律的にも無標の位置である文末にしか現われ得ないことと,比喩的な意味を許さないこととが関係づけられるとすれば,音声,形態,統語,韻律,意味のすべての面で flat adverb のきびきびした性格が確認されることになる.
 ただし,上の議論は flat adverb 全般に当てはまるわけではなく,主として slowquick などの動詞を修飾する用法の flat adverb に見られる特徴を指すにとどまっている.程度のはなはだだしさを表わす強意語としての real, awful などは,そもそも意味の比喩化(あるいは漂白化)によって生じているのであり,上の議論には当てはまらない.しかし,この全体としてきびきびとした性格こそが,flat adverb が口語や俗語で好まれる理由なのだろう.

 ・ 岡村 祐輔 「単純形 loud, quick, slow について」 『山形大学英語英文学研究』第22号,1978年.25--38頁.

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