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viking - hellog〜英語史ブログ

最終更新時間: 2026-07-15 01:27

2026-07-12 Sun

#6285. 小河舜さん(上智大学)×井上逸兵「古英語と英国地名からみるイギリスの言語文化」ダイジェスト版 [youtube][ogawashun][onomastics][name_project][toponymy][anglo-saxon][oe][celtic][old_norse][viking][ippeiinoue][norman_conquest][north_sea][contact]



 昨日の記事「#6284. 英語史を育んだ北海 --- だから私は泳いだ」 ([2026-07-11-1]) との関係も深い話題.
 去る7月8日(水),「NPO 法人地球ことば村」オンラインサロンにて,臨場感あふれる YouTube 対談動画が公開されました.お相手は,本ブログや Voicy heldio の「千本ノック」などの企画でお馴染みの英語史研究者小河舜さん(上智大学)と,私の同僚の井上逸兵さん(慶應義塾大学)のお2人です.
 この収録自体は,2年ほど前,2024年10月31日の夜に,慶應義塾大学三田キャンパスの東館オープンラボにて行なわれたものです.私自身は,当夜は仕事の都合で対談本編には立ち会えなかったのですが,その後に催された熱い懇親会の席にはしっかりと滑り込み,英語史トークに花を咲かせたという良き思い出があります.今回はその対談の22分ほどの「ダイジェスト版」が公開されたということで,そのエッセンスをかいつまんで紹介しつつ,hellog 読者の皆さんにもぜひ動画を視聴していただければと思います.
 対談の主たるテーマは,小河さんの主たる研究フィールドである「古英語」と「地名」です.
 英語史における最大の画期といえば,誰もが忘れることのできない1066年のノルマン征服 (norman_conquest) ですが,それ以前の時代を指すのが古英語です.小河さんは,外から新しい言語話者がブリテン島にやってきたときに,既存の地名がどのように置き換えられたのか,あるいは塗り替えられずに痕跡を残したのか,という動態に関心を抱かれています.
 動画内では,とりわけ8世紀以降にブリテン島へ侵入・定住したヴァイキング (viking) の母語である古ノルド語 (old_norse) に由来する地名が具体的に取り上げられています.現代の私たちが抱く「凶暴な海賊」というヴァイキングのステレオタイプは,実は18世紀以降の創作による後付けのイメージが多分に含まれており,実際には商人として定住し,アングロサクソン人とある程度言葉を通じ合わせながら共存していた側面も強かったという指摘には,目から鱗が落ちる方も多いのではないでしょうか.
 そのヴァイキングの言語的痕跡として最も著名な地名要素が,Rugby などの地名に見られる -by 要素です.古ノルド語で「村」や「集落」を意味するこの要素は,イングランドの北東部に明らかに集中的に分布しており,当時のヴァイキングたちの勢力圏を雄弁に物語っています.
 一方で,本来のアングロサクソン系の地名として優勢なのが,WashingtonNewton などに見られる -ton 要素です.古英語の日常語としては「柵」や「囲われた場所」を意味する tūn という単語の縮約形ですが,これが日常言語として発展したのが,私たちが当たり前のように使っている town (町)というわけです.まさに日本の「〇〇町」という感覚と同じ最優勢の地名要素が,歴史の波に揉まれてきたのですね.
 対談では,10世紀の歴史書にラテン語で記された地名表記から,アングロサクソン系の旧名 Norðworðig とヴァイキング系の新名 Derby が並置されている移行期・接触期の揺らぎが生々しく見えるという,文献学的な醍醐味も語られています.
 さらに話題は,より古い層に属するケルト語由来の地名(とりわけ水にまつわる川の名前に多く残る AvonThames の逸話など)から,スコッチ・ウィスキーの「ジョニー・ウォーカー」 (Johnnie Walker) のロゴに隠された興味深い語源説にまで及びます.歩く姿のシルエットで有名なウォーカーという姓ですが,語源を遡れば「歩く人」とは全く無関係で,羊毛を圧縮する職業名やヴァイキングの言語に由来する可能性が高く,現代的な解釈(誤解)によって,あの闊歩する姿のデザインが生まれたというエピソードは,言語学・文化史的にも実に興味深い話題です.
 地名や人名というものは,人間がその時代にその場所とどのような関わりを持っていたかを示すアイデンティティの証にほかなりません.22分の動画のなかに,英語史のロマンと固有名詞学の奥深さが凝縮された対談となっています.
 hellog 読者の皆様におかれましては,ぜひ上掲の YouTube スクリーン,あるいはこちらの直接リンクより,この魅力的な対談動画をじっくりとご視聴いただければ幸いです.

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2026-07-11 Sat

#6284. 英語史を育んだ北海 --- だから私は泳いだ [north_sea][old_norse][viking][contact][notice][heltube][nazesantangen]



 先月6月10日,NHK出版新書より拙著『英語史で解く英文法の謎 --- なぜ「3単現の s」をつけるのか』が発売されました.おかげさまで大変ご好評をいただいており,全国の書店に並んでおります.毎朝配信している Voicy の 「英語の語源が身につくラジオ (heldio)」 とともに,応援していただけますと幸いです.
 さて,本日お届けするのは,少し前の実体験をベースにしたお話です.6月,私はイギリス・スコットランドのアバディーンに滞在していました.日々,北海を望みながらジョギングをしていたのですが,先月6月23日の夕方,ついに悲願であった「北海での初泳ぎ」を敢行しました.その直後にゴーグルを頭にはめた半裸の状態で撮影したミニ動画を,個人 YouTube チャンネルの heltube にアップしたのですが,それが上掲の動画です.
 ヨーロッパを襲った熱波の影響で,その日のアバディーンは最高気温が25度まで上がっていました.スコットランドの6月としては珍しい高温です.私はもともと水を見たら泳ぎたくなる性質なのですが,25度ともなれば地元のスコットランド人たちも海に入り始めます.これ幸いとばかりに水着でジョギングに出かけ,念願の北海に入ったした次第です.
 しかし,気温は25度とはいえ,水温は別問題でした.北海はとにかく冷たいのです.足を入れた瞬間にその冷たさに圧倒され,えいやと飛び込んでからは,寒さに凍えないよう必死に個人メドレーを始めました.しかしまったく体は温まらず,ものの7,8分で完敗して浜に上がってきました.日本の感覚でいえば,秋の海で泳いでいるような冷たさです.
 なぜ,これほどまでに冷たい北海に,私はこだわり,泳ぎたかったのか.単なる悪ノリではありません.そこには,英語史研究者としての強い憧れとロマンがありました.一言でいえば,「英語史を育んだのは北海である」という強い意識が私の中にあったからです.
 古代や中世において,海とは土地を隔てる障壁ではありません.むしろ道路でした.陸路を作るのにはコストがかかりますし,山賊の危険もあります.しかし,海路・水路は多くの荷物を運べる安全なルートだったのです.今回私が泳いだイギリス東海岸の北海を東へと進むと,スカンジナビア半島の西岸やデンマークへとたどり着きます.そう,かつてこの海を支配していたのはヴァイキング (viking) たちでした.
 北欧のヴァイキングたちにとって,北海は地中海や湖のようなものであり,向こう岸にグレートブリテン島があることは百も承知でした.彼らは8世紀半ばから,この北海という道路を渡ってイングランドへ殴り込みをかけ,やがて移住・植民してきました.当時,アングロサクソン人が話していた古英語に対し,同じゲルマン系の北ゲルマン語群に属する古ノルド語 (old_norse) を話すヴァイキングたちが激しい言語接触 (contact) をもたらしたのです.
 この濃密な接触の結果,英語の語彙は大量の北欧系単語を受け入れ,文法も簡略化へと向かいました.現代英語のあり方を決定づけた最大の要因の1つが,このヴァイキングの影響です.そして,彼らが通ってきた物理的な通路こそが,まさにこの北海だったのです.
 英語史のダイナミズムを数十年学び,その舞台となった北海を目の前にして,泳がないわけにはいきません.さすがに船で渡ることはできませんが,沿岸でちょろちょろと泳ぐことで,英語史の荒波を肌で体感したかったのです.
 浜に上がった後,ブヨかノミの類におおいに刺されたのに気付き,3週間近く経った今もまだ足が痒いです.失ったもの(?)もありましたが,英語史研究者として北海を制した(いや,完敗したのですが)喜びのほうが勝っています.
 そのような知的な背景をご理解いただいた上で,ゴーグル姿で「なぜ英語の文には主語が必要なのか」を滑稽に語る私の YouTube 動画をご覧いただけますと幸いです.
 なお,この北海での水泳にまつわるエピソードや,ヴァイキングが英語に与えた影響については,一昨日の heldio 「#1865. 私が夏とはいえど冷たい北海で泳いだ理由」でもお話ししています.そちらも合わせてお聴きください.

 ・ 堀田 隆一 『英語史で解く 英文法の謎 --- なぜ「3単現の s」をつけるのか』 NHK出版〈NHK出版新書〉,2026年.

Referrer (Inside): [2026-07-12-1]

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