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chaucer - hellog〜英語史ブログ

最終更新時間: 2024-11-22 17:50

2010-02-13 Sat

#292. aureate diction [chaucer][style][latin][loan_word][lydgate][aureate_diction]

 英語史におけるラテン語彙の借用については,[2009-05-30-1], [2009-08-19-1], [2009-08-25-1]などの記事で触れた.ラテン借用の量としていえば,[2009-08-19-1]で見たように初期近代英語期が群を抜いている.背景には,ルネッサンス期の古典復興や,自国意識に目覚めた英国民の語彙増強欲求があった.
 しかし,16世紀に始まるラテン借用の爆発は突如として生じたことではない.それを予兆するかのようなラテンかぶれの文体が,aureate diction華麗語法」と呼ばれる形態で15世紀に存在していたのである.

Aureate diction is a self-consciously stylized and highly artificial poetic language designed to enrich vernacular poetic vocabulary by introducing Latin words, mostly from religious sources, into English. (Horobin 92)


 宗教的な主題を扱う作品,特に the Virgin Mary (処女マリア)を話題にした詩に好んで使われる格調高い文体で,大量のラテン語彙の使用がその大きな特徴であった.ただ,利用されたラテン語彙の多くは最終的に英語語彙として組み込まれなかったので,まさに "artificial language" といってよい.この文体の萌芽は早くは Chaucer にもみられるが,もっとも強く結びつけられているのは Chaucer の信奉者であるイングランド詩人 John Lydgate (c1370--1449) やスコットランド詩人 William Dunbar (c1460/65--a1530) である.Dunbar の Ballad of Our Lady の冒頭部分が aureate diction の例としてよく引用される (see also http://www.lib.rochester.edu/Camelot/teams/duntxt1.htm#P4).

Hale, sterne superne! Hale, in eterne,
  In Godis sicht to schyne!
Lucerne in derne, for to discerne
  Be glory and grace devyne;
Hodiern, modern, sempitern,
  Angelicall regyne!
Our tern infern for to dispern
  Helpe, rialest Rosyne!


 まさしく,漢字かな交じり文ならぬ,羅英交じり文である.
 Baugh and Cable は,英語史において aureate diction は "a minor current in the stream of Latin words flowing into English in the course of the Middle Ages" (186) であると消極的な評価をくだしている.しかし,次の時代にやってくるラテン借用の爆発,そしてそこでも借用語彙の多数が後世まで残らなかったという事実を考えるとき,英語史におけるラテン借用に通底する共通項がくくり出せるように思える.

 ・Horobin, Simon. Chaucer's Language. Basingstoke: Palgrave Macmillan, 2007.
 ・Baugh, Albert C. and Thomas Cable. A History of the English Language. 5th ed. London: Routledge, 2002.

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2010-02-11 Thu

#290. Chaucer に関する Web resources [chaucer][link]

 [2009-11-08-1]で Shakespeare に関する Web resources を紹介したが,今回は Chaucer の研究に役立つリンクを集めてみた.Chaucer についてもウェブ上には膨大な情報が存在するので,リンクをチェックしたり選定するだけで一仕事である.

[Portals to Chaucer]
 ・ Chaucer MetaPage: とてつもなく膨大な情報源への入口.
 ・ The Geoffrey Chaucer Website: もう一つの膨大な入り口.
 ・ geoffreychaucer.org: Web resources への注解つきリンク集というべきページ.

 ・ Baragona's Chaucer Page: 学生用ページということで,リンクも豊富.
 ・ Duncan's Chaucer Course: こちらも学生用ページ.入りやすい入口.
 ・ The Chaucer Scriptorium by Michael Hanly

 ・ Jane Zatta's Chaucer: 各作品の背景を知るのに.
 ・ Luminarium Chaucer Page: 中英語文学の広い視点からの Chaucer.
 ・ The New Chaucer Society: 学会サイト.リンク集も.

[Texts and Translations]
 ・ Librarius's The Canterbury Tales and Other Works: 現代英語対訳.下部フレームを利用したグロッサリーも完備.Canterbury Tales はこちら
 ・ Interlinear Translations of Chaucer's Canterbury Tales: 行間で現代英語訳が読める.
 ・ The Electronic Canterbury Tales: Tale ごとに情報が満載.Canterbury Tales のテキストはこちらから簡単アクセス.
 ・ Chaucer Texts: テキストファイルで入手可能.現代英語訳はこちらから,HTMLやPDFでも入手可能.
 ・ The General Prologue - An Electronic Edition: General Prologue に特化したページ.メニューから各話へジャンプ.現代英語対訳も.
 ・ The Canterbury Tales: Corpus of Middle English Prose and Verse による提供.
 ・ The Canterbury Tales and Other Poems of Geoffrey Chaucer, Edited for Popular Perusal from Project Gutenberg: Gutenberg からテキストファイルで落とせる.
 ・ General Prologue and the Miller's Tale: University of Glasgow 提供の Miller's Tale.グロッサリーとコメントつき.

 ・ The Canterbury Tales - Reader-Friendly edition in PDF: PDFで落とし,現代英語綴字でじっくり読みたい人に.
 ・ The Canterbury Tales: オンラインで読める現代英語訳.
 ・ Canterbury Tales and Other Poems -- Hypertext and eBooks: Literature Project による提供の現代英語訳.

[Glossaries, Concordancers, and Other Research Tools]
 ・ A Basic Chaucer Glossary: 超簡易グロッサリー.
 ・ A Glossarial DataBase of Middle English: Canterbury Tales の本格派検索系グロッサリー.
 ・ A Glossary for the Works of Geoffrey Chaucer (in the Riverside Edition): 1ページの有用なグロッサリー.
 ・ Chaucer Concordance: 作品毎のコンコーダンサー.
 ・ Chaucer Bibliography Online: 強力な Chaucer 関連の論文検索ツール.

[Others]
 ・ Canterbury Tales Project の写本イメージのサンプル.Hengwrt Chaucer Digital Facsimile, Miller's Tale, Nun's Priest's Tale など.
 ・ Audio Files of Chaucer's Works: 原文の朗読が吹き込まれた音源集.
 ・ The Chaucer Studio: テキスト朗読 CD を購入できるページ.
 (後記 2013/03/10(Sat) Ellesmere Chaucer: 写本画像.)

Referrer (Inside): [2020-04-25-1] [2018-12-27-1]

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2010-01-09 Sat

#257. Chaucer が英語史上に果たした役割とは? [chaucer][standardisation][french][loan_word]

 「英詩の父」と呼ばれる Geoffrey Chaucer (1342/43--1400) が英文学史上に果たした役割といえば,それこそ無限に論じられるかもしれない.しかし,Chaucer が英語史上に果たした役割は,と問われるとどうだろうか.文豪であれ政治家であれ一個人が言語の歴史に果たした役割というのは,評価するのはより難しい.
 それでも,さすがに Chaucer 級の大詩人が英語史に何も貢献していないということは考えにくいようである.例えば,英語史概説書の類では,フランス借用語を含め大量の新語を英語に導入した個人として評価されることが多い.文学言語としての英語を作り出した功績を Chaucer に付与するという見方である.だが,Horobin はこれを一蹴する.

. . . he introduced large numbers of new words into English and thereby somehow 'created' the English literary language. This view is a myth that has built up over generations of scholarship, although it is partly based upon analyses of the evidence of the Oxford English Dictionary (OED). (24)


 Horobin (79) の理屈は以下の通りである.確かに OED では,Chaucer の用いた多くの借用語が英語での初出例として記録されている.しかし,(1) 中英語の語彙に特化して編まれた Middle English Dictionary によれば,そのうちの多くが Chaucer 以前に現れていることが判明する.また,(2) 現存していないが Chaucer 以前に存在したであろう文献に問題の語彙が現れていたという可能性を考える必要があるし,記録に残らない話し言葉ではすでに用いられていたかもしれないという可能性にも留意する必要がある.さらに,(3) フランス語やラテン語から語彙を借用する習慣は Chaucer に始まったわけでなく,すでに Chaucer 以前の作家が大量に借用していたという事実がある(see [2009-08-22-1]).
 では,Chaucer に英語史上の意義は見いだせないのだろうか? Horobin の結論は以下のごとくである.

By writing for a range of characters, in a range of voices, as well as writing scientific, moral, philosophical and penitential prose tacts, Chaucer showed that the English language was capable of a range of functions not witnessed since before the Norman Conquest. . . . Chaucer demonstrated how the English language could be used for all types of writing, particularly for secular literature. (26)


 英語史上の意義というよりは,より広く英文学史,英語文体史,英語史のすべてを覆う意義と読めるが,キーワードは function だろう.ここでは直接的には文体的機能のことを指していると読めるが,Horobin は社会言語学的な機能も意図していると思う.[2009-11-06-1]でみたように,Chaucer 以降,中英語末期にかけて英語の書き言葉標準が整備されてゆく.Chaucer はこの時代の流れを明確に予感させる英語の使い手として,英文学史上だけではなく英語史上にも名を残している,と言えるのではないか.

 ・Horobin, Simon. Chaucer's Language. Basingstoke: Palgrave Macmillan, 2007.

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2009-10-25 Sun

#181. Chaucer の人称代名詞体系 [chaucer][personal_pronoun][paradigm]

 [2009-09-29-1][2009-10-24-1]で古英語の人称代名詞体系について見た.では,中英語では人称代名詞はどのような体系だったろうか.中英語といっても初期と後期では異なるし,方言によっても相当の差があるが,後期中英語の代表として Geoffrey Chaucer が作品の中で用いていた体系を掲げよう.

Paradigm of Chaucer's Personal Pronouns

 多くは古英語からの自然発達形だが,古英語との最大の違いは,三人称単数女性主格の s(c)he と三人称複数主格の they だろう.古英語ではそれぞれ hēohīe だったから,Chaucer の体系が現代英語の体系へ一歩近づいていることがわかる.だが,三人称複数の主格以外の格,すなわち斜格 ( oblique cases ) では,Chaucer でもまだ <h> で始まる古英語由来の形態を用いていることに注意.

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