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agentive_suffix - hellog〜英語史ブログ

最終更新時間: 2024-11-22 17:50

2014-02-08 Sat

#1748. -er or -or [suffix][morphology][morpheme][phonotactics][spelling][word_formation][-ate][agentive_suffix]

 「#1740. interpretorinterpreter」 ([2014-01-31-1]) で話題にした -er と -or について.両者はともに行為者接尾辞 (agentive suffix, subject suffix) と呼ばれる拘束形態素だが,形態,意味,分布などに関して,互いにどのように異なるのだろうか.今回は,歴史的な視点というよりは現代英語の共時的な視点から,両者の異同を整理したい.
 Carney (426--27), Huddleston and Pullum (1698),西川 (170--73),太田など,いくつかの参考文献に当たってみたところを要約すると,以下の通りになる.

 -er-or
語例非常に多い比較的少ない
生産性生産的非生産的
接辞クラスClass IIClass I
接続する基体の語源Romance 系に限らないRomance 系に限る
接続する基体の自由度自由形に限る自由形に限らない
強勢移動しないしうる
接尾辞自体への強勢落ちない落ちうる
さらなる接尾辞付加ないClass I 接尾辞が付きうる


 それぞれの項目についてみてみよう.-er の語例の豊富さと生産性の高さについては述べる必要はないだろう.対する -or は,後に示すように数が限られており,一般的に付加することはできない.
 接辞クラスの別は,その後の項目にも関与してくる.-er は Class II 接辞とされ,自由な基体に接続し,強勢などに影響を与えない,つまり単純に語尾に付加されるのみである.自由な基体に接続するということでいえば,New Yorkerdouble-decker などのように複合語の基体にも接続しうる.自由な基体への接続の例外のように見えるものに,biographer, philosopher などがあるが,これらは biography, philosophy からの2次的な形成だろう.基体の語源も選ばず,本来語の fisher, runner もあれば,例えばロマンス系の dancer, recorder もある.一方,-or は Class I 接辞に近く,原則として基体に Romance 系を要求する(ただし,sailor などの例外はある).また,-or には,alternator, confessor, elevator, grantor, reactor, rotator のように自由基体につく例もあれば,author, aviator, curator, doctor, predecessor, spectator, sponsor, tutor のように拘束基体につく例もある.強勢移動については,-or も -er と同様に移動を伴わないのが通例だが,ˈexecute/exˈecutor のような例も存在する.
 接尾辞自体に強勢が落ちる可能性については,通常 -or は -er と同様に無強勢で /ə/ となるが,少数の語では /ɔː(r)/ を示す (ex. corridor, cuspidor, humidor, lessor, matador) .特に humidor, lessor の場合には,同音異義語との衝突を避ける方略とも考えられる.
 さらなる接尾辞付加の可能性については,ambassador ? ambassadorial, doctor ? doctoral など,-or の場合には,さらに Class I 接尾辞が接続しうる点が指摘される.
 上記の他にも,-or については,いくつかの特徴が指摘されている.例えば,法律に関する用語,あるいは専門的職業を表す語には,-or が付加されやすいといわれる (ex. adjustor, auditor, chancellor, editor, mortgagor, sailor, settlor, tailor) .一方で,ときに意味の区別なく -er, -or のいずれの接尾辞もとる adapter--adaptor, adviser--advisor, convener--convenor, vender--vendor のような例もみられる.
 また,西川 (170) は,基体の最後尾が [t] で終わるものに極めて多く付き,[s], [l] で終わるものにもよく付くと指摘している.さらに,-or に接続する基体語尾の音素配列の詳細については,太田 (129) が Walker の脚韻辞書を用いた数え上げを行なっている.辞書に掲載されている581の -or 語のうち,主要な基体語尾をもつものの内訳は以下の通りである.基体が -ate で終わる動詞について,対応する行為者名詞は -ator をとりやすいということは指摘されてきたが,実に過半数が -ator だということも判明した.

EndingWord typesExamples
-ator291indicator, navigator
-ctor63contractor, predictor
-itor29inheritor, depositor
-utor16contributor, prosecutor
-essor15successor, professor
-ntor14grantor, inventor
-stor12investor, assistor


 最後に,-er, -or とは別に,行為者接尾辞 -ar, -ier, -yer, -erer の例を挙げておこう.beggar, bursar, liar; clothier, grazier; lawyer, sawyer; fruiterer.

 ・ Carney, Edward. A Survey of English Spelling. Abingdon: Routledge, 1994.
 ・ Huddleston, Rodney and Geoffrey K. Pullum. The Cambridge Grammar of the English Language. Cambridge: CUP, 2002.
 ・ 西川 盛雄 『英語接辞研究』 開拓者,2006年.
 ・ 太田 聡  「「?する人[もの]」を表す接尾辞 -or について」『近代英語研究』 第25号,2009年,127--33頁.

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2009-08-13 Thu

#108. 逆成の例をもっと [back_formation][agentive_suffix]

 [2009-08-11-1], [2009-08-12-1]逆成 ( back-formation ) の話題を取りあげた.逆成のタイプは数種類あるが,editorburglar などのように,行為者接辞 -er, -ar, -or が差し引かれるタイプをいくつか挙げてみよう.語源辞典より初出年も添えておく.

動詞初出年行為者名詞初出年備考
baby-sit1947baby-sitter1937 
beg?a1200beggar?a1200 
bulldoze1876bulldozer1876 
burgle1872burglar1541 
commute1889commuter1865「定期券で通勤する」の意で
edit1793editor1712「編集する」の意で
peddle1532pedlarc1378 
scavengea1644scavenger1530 
sight-see1835sight-seeing1824 
swindle1782swindler1774 
type-write1887type-writer1868 


 begbulldoze などは,初出年は対応する行為者名詞と同じである.このような場合,どちらが先に立つかは,同じ年でも日付が異なるとか,文脈から判断されるとかいうことなのだろうが,そもそも文献に現れるタイミングと実際に口語で使われはじめるタイミングは一致していないことも多いので,初出年は常に参考として読むべきである.ちなみに,初出年に現れる省略記号の "a" は ante 「?より以前」を,"c" は circa 「?頃」を表す.
 日本語にも逆成の例はいろいろとあるはずである.「狂い咲き」→「狂い咲く」,「待ち伏せ」→「待ち伏せる」など.他に何があるだろうか?

Referrer (Inside): [2010-09-08-1]

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