動詞の -s 語尾について,hellog では歴史的な観点から様々に取り上げてきた.
標準英語では3単現 (3sp) にのみ -s が付くということになっているが,歴史的な英語変種や,現代でも種々の地域・社会変種において,3単現以外のスロットで -s が付くという事例は決して珍しくない.逆に,3単現であっても -s が付かない変種というのも,歴史的にも共時的にも特に珍しくない.動詞語尾の -s というのは,実は思われているよりも,なかなか厄介な問題なのである.
関連する記事や音声配信を挙げておこう.
・ 「#2857. 連載第2回「なぜ3単現に -s を付けるのか? ――変種という視点から」」 ([2017-02-21-1])
・ 「#3557. 世界英語における3単現語尾の変異」 ([2019-01-22-1])
・ 「#2566. 「3単現の -s の問題とは何か」」 ([2016-05-06-1])
・ 「#3542. 『CNN English Express』2月号に拙論の英語史特集が掲載されました」 ([2019-01-07-1])
・ 「#2310. 3単現のゼロ」 ([2015-08-24-1])
・ heldio 「#177. 3単現のゼロを示すイングランド東中部方言」
・ 「#4693. YouTube 第2弾,複数形→3単現→英方言→米方言→Ebonics」 ([2022-03-03-1])
人称にかかわらず直説法現在形で常に -s 語尾をとる方言としては,イングランド北部,南西ウェールズ,南ウェールズの諸方言が挙げられる.これらの方言では I likes it., We goes home., You throws it. などと -s 語尾が常用される.do という本動詞・助動詞についていえば,イングランド西部の方言では,本動詞としては常に dos /du:z/ が,助動詞としては常に do が使われるというように,用法が分かれているという (ex. He dos it every day, do he?) .ちなみに,この方言では本動詞としての過去形は done,助動詞としての過去形は did を用いるというから,なおさらおもしろい (ex. He done it last night, did he?) .
上記とは別に,スコットランドや北アイルランドの多くの方言では,1・2人称,および3人称複数において,過去の出来事を生き生きと述べる「歴史的現在」 (historic_present) の用法として,動詞語尾に -s が現われる (ex. I goes down this street and I sees this man hiding behind a tree.) .
以上,Hughes et al. (28--29) に依拠して記述した.
・ Hughes, Arthur, Peter Trudgill, and Dominic Watt. English Accents and Dialects: An Introduction to Social and Regional Varieties of English in the British Isles. 4th ed. London: Hodder Education, 2005.
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