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lexicalisation - hellog〜英語史ブログ

最終更新時間: 2024-12-21 12:40

2024-07-14 Sun

#5557. 秋元実治(著)『増補 文法化とイディオム化』(ひつじ書房,2014年) [toc][grammaticalisation][idiomatisation][idiom][composite_predicate][syntax][lexicology][frequency][lexicalisation][preposition][phrasal_verb][voicy][heldio]


秋元 実治 『増補 文法化とイディオム化』 ひつじ書房,2014年.



 先日,秋元実治先生(青山学院大学名誉教授)と標記の書籍を参照しつつ対談しました.そして,その様子を一昨日 Voicy heldio で「#1139. イディオムとイディオム化 --- 秋元実治先生との対談 with 小河舜さん」として配信しました.中身の濃い,本編で22分ほどの対談回なっております.ぜひお時間のあるときにお聴きください.



 秋元実治(著)『増補 文法化とイディオム化』(ひつじ書房,2014年)については,これまでもいくつかの記事で取り上げてきており,とりわけ「#1975. 文法化研究の発展と拡大 (2)」 ([2014-09-23-1]) で第1章の目次を挙げましたが,今回は今後の参照のためにも本書全体の目次を掲げておきます.近日中に対談の続編を配信する予定です.



改訂版はしがき
はしがき

理論編
  第1章  文法化
    1.1  序
    1.2  文法化とそのメカニズム
      1.2.1  語用論的推論 (Pragmatic inferencing)
      1.2.2  漂白化 (Bleaching)
    1.3  一方向性 (Unidirectionality)
      1.3.1  一般化 (Generalization)
      1.3.2  脱範疇化 (Decategorialization)
      1.3.3  重層化 (Layering)
      1.3.4  保持化 (Persistence)
      1.3.5  分岐化 (Divergence)
      1.3.6  特殊化 (Specialization)
      1.3.7  再新化 (Renewal)
    1.4  主観化 (Subjectification)
    1.5  再分析 (Reanalysis)
    1.6  クラインと文法化連鎖 (Grammaticalization chains)
    1.7  文法化とアイコン性 (Iconicity)
    1.8  文法化と外適応 (Exaptation)
    1.9  文法化と「見えざる手」 (Invisible hand) 理論
    1.10  文法化と「偏流」 (Drift) 論
  
  第2章  イディオム化
    2.1  序
    2.2  イディオムとは
    2.3  イディオム化
    2.4  イディオム化の要因
      2.4.1  具体的から抽象的
      2.4.2  脱範疇化 (Decategorialization)
      2.4.3  再分析 (Reanalysis)
      2.4.4  頻度性 (Frequency of occurrence)
    2.5  イディオム化,文法化及び語彙化

分析例
  第1章  初期近代英語における複合動詞の発達
    1.1  序
    1.2  先行研究
    1.3  データ
    1.4    複合動詞のイディオム的特徴
      1.4.1  Give
      1.4.2  Take
    1.5  ジャンル間の比較: The Cely LettersThe Paston Letters
    1.6  結論

  第2章  後期近代英語における複合動詞
    2.1  序
    2.2  先行研究
    2.3  データ
    2.4  構造の特徴
    2.5  関係代名詞化
    2.6  各動詞の特徴
      2.6.1  Do
      2.6.2  Give
      2.6.3  Have
      2.6.4  Make
      2.6.5  Take
    2.7  複合動詞と文法化
    2.8  結論
  
  第3章  Give イディオムの形成
    3.1  序
    3.2  先行研究
    3.3  データ及び give パタンの記述
    3.4  本論
      3.4.1  文法化とイディオム形成
      3.4.2  再分析と意味の漂白化
      3.4.3  イディオム化
      3.4.4  名詞性
      3.4.5  構文と頻度性
    3.4  本論
      3.4.1  文法化とイディオム形成
      3.4.2  再分析と意味の漂白化
      3.4.3  イディオム化
      3.4.4  名詞性
      3.4.5  構文と頻度性
    3.5  結論

  第4章  2つのタイプの受動構文
    4.1  序
    4.2  先行研究
    4.3  データ
    4.4  イディオム化
    4.5  結論

  第5章  再帰動詞と関連構文
    5.1  序
    5.2  先行研究
    5.3  データ
      5.3.1  Content oneself with
      5.3.2  Avail oneself of
      5.3.3  Devote oneself to
      5.3.4  Apply oneself to
      5.3.5  Attach oneself to
      5.3.6  Address oneself to
      5.3.7  Confine oneself to
      5.3.8  Concern oneself with/about/in
      5.3.9  Take (it) upon oneself to V
    5.4  再帰動詞と文法化及びイディオム化
    5.5  再起動し,受動化及び複合動詞
      5.5.1  Prepare
      5.5.2  Interest
    5.6  結論

  第6章  Far from の文法化,イディオム化
    6.1  序
    6.2  先行研究
    6.3  データ
    6.4  文法化とイディオム化
      6.4.1  文法化
      6.4.2  意味変化と統語変化の関係:イディオム化
    6.5  結論

  第7章  複合前置詞
    7.1  序
    7.2  先行研究
    7.3  データ
    7.4  複合前置詞の発達
      7.4.1  Instead of
      7.4.2  On account of
    7.5  競合関係 (Rivalry)
      7.5.1  In comparison of/in comparison with/in comparison to
      7.5.2  By virtue of/in virtue of
      7.5.3  In spite of/in despite of
    7.6  談話機能の発達
    7.7  文法化,語彙化,イディオム化
    7.8  結論

  第8章  動詞派生前置詞
    8.1  序
    8.2  先行研究
    8.3  データ及び分析
      8.3.1  Concerning
      8.3.2  Considering
      8.3.3  Regarding
      8.3.4  Relating to
      8.3.5  Touching
    8.4  動詞派生前置詞と文法化
    8.5  結論
  
  第9章  動詞 pray の文法化
    9.1  序
    9.2  先行研究
    9.3  データ
    9.4  15世紀
    9.5  16世紀
    9.6  17世紀
    9.7  18世紀
    9.8  19世紀
    9.9  文法化
      9.9.1  挿入詞と文法化
      9.9.2  丁寧標識と文法化
    9.10  結論

  第10章  'I'm afraid' の挿入詞的発達
    10.1  序
    10.2  先行研究
    10.3  データ及びその文法
    10.4  文法化---Hopper (1991) を中心に
    10.5  結論

  第11章  'I dare say' の挿入詞的発達
    11.1  序
    11.2  先行研究
    11.3  データの分析
    11.4  文法化と文体
    11.5  結論

  第12章  句動詞における after と forth の衰退
    12.1  序
    12.2  For による after の交替
      12.2.1  先行研究
      12.2.2  動詞句の選択と頻度
      12.2.3  After と for の意味・機能の変化
    12.3  Forth の衰退
      12.3.1  先行研究
      12.3.2  Forth と共起する動詞の種類
      12.3.3  Out による forth の交替
    12.4  結論

  第13章  Wanting タイプの動詞間に見られる競合 --- desire, hope, want 及び wish を中心に ---
    13.1  序
    13.2  先行研究
    13.3  昨日変化
      13.3.1  Desire
      13.3.2  Hope
      13.3.3  Want
      13.3.4  Wish
    13.4  4つの動詞の統語的・意味的特徴
      13.4.1  従属節内における法及び時制
        13.4.1.1  Desire + that/Ø
        13.4.1.2  Hope + that/Ø
        13.4.1.3  Wish + that/Ø
      13.4.2  Desire, hope, want 及び wish と to 不定詞構造
      13.4.3  That の省略
    13.5  新しいシステムに至る変化及び再配置
    13.6  結論

結論

補章

参考文献

索引
  人名索引
  事項索引




 ・ 秋元 実治 『増補 文法化とイディオム化』 ひつじ書房,2014年.

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2024-01-26 Fri

#5387. methinks のたどった変化は文法化でもあるし語彙化でもある [lexicalisation][grammaticalisation][methinks][semantic_change][subjectivication][intersubjectivication]

 この2日間の記事で,興味深い振る舞いを示す methinks の話題を取り上げてきた(「#5385. methinks にまつわる妙な語形をいくつか紹介」 ([2024-01-24-1]) および「#5386. 英語史上きわめて破格な3単過の -s」 ([2024-01-25-1])).
 Wischer は,この周辺的な表現の歴史を調査し,それが経てきた変化は文法化 (grammaticalisation) の側面をもつとともに,語彙化 (lexicalisation) の側面ももつ変化であると論じた.例えば,methinks に(間)主観的意味の発生や命題的意味の消失という点では文法化の事例と考えられるし,一方で義務性の欠如という点ではむしろ語彙的な性質を示しており,語彙化の1例とも考えられ得る.Wischer (365) より,論文の結論部を引用する.

   Methinks passed through a syntactic lexicalization process which was not accompanied by an addition of a specific semantic component, but rather by an opposite semantic change: Impersonal think has no longer a meaning of its own. It cannot combine with other persons any more (*himthinks, *us thought ...). So, methinks has lost its original propositional meaning denoting an act of cognition and has acquired an exclusively speaker-oriented, or interpersonal, meaning. This change can be regarded as an increase in subjectivity. Thus it operates as a marker of evidentiality, and as such it has become a member of a relatively closed class. Although we can notice an increase in frequency in Early Modern English, methinks never becomes obligatory, but always stands in free variation with expressions like I think, it seems to me, obviously etc. Grammatical elements of this kind are less constrained and therefore situated at the periphery of grammar.
   And this must also be the reason for the relatively shortlasting existence of methinks. Linguistic elements, once they are grammaticalized, normally have a rather stable position in the language, whereas lexical units are less constrained, more flexible and pass out of existence more easily.


 文法化と語彙化という2つの過程は,必ずしも相反するものではない.それぞれに重なり合うところもあれば,異なるところもある,そのような関係だということになる.methinks の遂げた変化は複雑であり,1つの過程に落とし込んで説明するのは難しい.

 ・ Wischer, Ilse. "Grammaticalization versus Lexicalization: 'Methinks' there is some confusion." Pathways of Change: Grammaticalization in English. Ed. Olga Fischer, Anette Rosenbach, and Dieter Stein. Amsterdam: John Benjamins, 2000. 355--70.

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2024-01-22 Mon

#5383. 5種類の語彙化 [lexicalisation][grammaticalisation][terminology]

 この2日間の記事で文法化 (grammaticalisation) の特徴に注目してきた.しばしば,それと対比して語彙化 (lexicalisation) という現象や用語が話題とされる.確かに,言語学の常識では文法と語彙は異なる2つの部門であり,互いに異なる規則が働いていることが前提とされてきたので,文法化に対して語彙化が論じられるのは自然なのかもしれない.
 しかし,よく比較対照してみると,文法化と語彙化とは必ずしも互いに反対向きの過程ではないということがわかる.確かに対立する側面もあるが,むしろ似ている側面もあるということが分かってきたのだ.
 大雑把にいえば,語彙化とは,さほど語彙的でなかったものが語彙的な性質を帯びてくる過程といってよいが,中を覗いてみると,なかなか複雑なようである.Bauer (50--61) が語彙化の5つのパターンについて論じてりう.それを手際よく要約した Wischer (358) より,関連する1節を引用したい.

   As several mechanisms are involved in the process of lexicalization, not necessarily proceeding simultaneously, Bauer (1983: 50--61) distinguishes between different "types of lexicalization":
1. Changes of stress patterns and/or phonetic reductions are features of "phonological lexicalization" (cf. famous [ˈfeɪməs] -- infamous [ˈinfəməs]).
2. Linking elements and/or non-productive roots or affixes are features of "morphological lexicalization" (cf. eat -- edible).
3. Lack of semantic compositionality is a feature of "semantic lexicalization" (cf. understand).
4. Non-productive syntactic patterns and/or unusual functions of syntactic patterns are features of "syntactic lexicalization" (cf. pickpocket).
5. Many examples are "mixed lexicalizations", which can lead to a complete demotivation, so that the results have to be treated as simplex lexemes (cf. husband).


 ある言語項が語彙的になるとは,要するに言語体系のなかで自立した1単語となるということである.文法規則に縛られず,独自の振る舞いをする単位として許されるようになることである.言語界における自立と独立の問題 --- きわめておもしろい話題ではないか.

 ・ Wischer, Ilse. "Grammaticalization versus Lexicalization: 'Methinks' there is some confusion." Pathways of Change: Grammaticalization in English. Ed. Olga Fischer, Anette Rosenbach, and Dieter Stein. Amsterdam: John Benjamins, 2000. 355--70.
 ・ Bauer, Laurie. English Word-Formation. Cambridge: CUP, 1983.

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2021-04-23 Fri

#4379. social distance/social distancing の語彙項目化 [corpus][oed][covid][lexeme][unidirectionality][lexicalisation][khelf_hel_intro_2021]

 この4月にゼミの学部生・院生で立ち上げた「英語史導入企画2021」より,昨日アップされたコンテンツとして「「社会的」な「距離」って結局何?」を紹介します.悲しいかな,今を時めく語となってしまった日本語「ソーシャル・ディスタンス」と英語の social distance/social distancing に関する話題です.英語のこの2つの表現について,OED を用いて丁寧に情報を整理してもらいました.
 この話題は,およそ1年前から日本国内のみならず世界中で話題にされていましたね(あれから早1年ですが,まだ「渦中」ならぬ「禍中」というのが悲しい現実です).日本語では「ソーシャル・ディスタンス」が定着した感がありますが,英語では social distancing という表現のほうが一般的です.distance という純粋な名詞というよりも distancing という動詞由来の名詞を用いることで「距離を取る」という動詞本来の動作・行為が前面化していると考えられます.ただし,いったん日本語に取り込まれれば,もともとの英語における名詞と動詞名の区別などは吹き飛んでしまうわけなので,音節数の少ない「ソーシャル・ディスタンス」のほうが好まれたということではないかと,私は理解しています.
 コロナ禍に見舞われたこの1年余,言語学者もただただ巣ごもりしていたわけではありません.「#4129. 「コロナ禍と英語」ならこれしかないでしょ! --- OED の記事より」 ([2020-08-16-1]),「#4339. American Dialect Society による2020年の "Word of the Year" --- Covid」 ([2021-03-14-1]) などから分かる通り,むしろ精力的といえる仕事がなされてきましたし,Coronavirus Corpus なるコーパスも出現しているのです.このコーパスは,2020年1月から現在までのコロナ関連のニュースを集めた9億7300万語からなるコーパスです.単純検索にすぎませんが,social distance は17,180件,social distancing は243,636件がヒットしました.つまり,後者のほうが15倍近く多く用いられていることが確認されたのです.
 この1年間,人類がなすべきだったことは social distancing ではなく physical distancing ではなかったのかという表現の選択に関する問題点は,早い段階から WHO も指摘しており,私自身もずっと気になっていました.しかし,上記コンテンツでも述べられている通り,social distancing のように「一度定着してしまったものを違う語に置き換えることは容易ではないの」でしょう.
 本来の「形容詞+名詞」からなる名詞句 social distance/social distancing は「社会的な距離(を取ること)」という予測可能な意味をもっていたはずです.しかし,この表現は実態としてはもっぱら「物理的な距離(を取ること)」(典型的には2メートルと言われていますね)を意味します.つまり,意味的な予測可能性が減じているのです.名詞句ではなく,複合名詞という単位に近づいていると言い換えてもよいでしょう.つまり,語彙(項目)化 (lexicalisation) の例なのです.
 ちなみに,social distance/social distancing は,本ブログでも,現在の感染症とは無関係に社会言語学上の用語として用いてきた経緯がああります.「#1127. なぜ thou ではなく you が一般化したか?」 ([2012-05-28-1]) と「#1935. accommodation theory」 ([2014-08-14-1]) で用いていますので,そちらも参照.

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2016-05-16 Mon

#2576. 脱文法化と語彙化 [grammaticalisation][unidirectionality][lexicalisation]

 昨日の記事「#2575. 言語変化の一方向性」 ([2016-05-15-1]) で取り上げたように,文法化の一方向性の仮説に対する反例として,脱文法化 (degrammaticalisation) の事例があるとされる.より文法的な要素がより語彙的な要素に変化するという点では,脱文法化は語彙化 (lexicalisation) のプロセスとも近い.「#1974. 文法化研究の発展と拡大 (1)」 ([2014-09-22-1]) では,この2つの用語を並記した.
 昨日は脱文法化と考えられ得る例として ifs, down, -'s などを挙げたが,今回は他の例を辻(編) (101, 223) より挙げよう.日本語の格助詞「より」が,「より大きく」のように比較を強める副詞へ発達した例が報告されている.接続助詞「が」が,統語的に自立して,接続詞として文頭で用いられる例もある.「で」や「と」も似たような発達を示す.「てにをは」がそのまま名詞へ転換された例も加えてよいかもしれない.古語の助動詞「けり」から,「けりをつける」(終わりにする)という表現が生まれたのも,「けり」が名詞へと転じた例である.
 英語では,omnibus の語末要素 bus が独立したケースや,接尾辞 ism の語としての独立も例として挙げられる.「#133. 形容詞をつくる接尾辞 -ish の拡大の経路」 ([2009-09-07-1]) でみた,単独で用いられる Ish. も類例である.いずれも,脱文法化とみることもできるし,語彙化ともとらえられる.
 昨日の記事で見たように,これらは一方向性仮説への真正な反例とはならないという立場もある.また,たとえ反例と認めるにせよ,やはり事例としては相対的にまれであるという事実は動かない.とすると,なぜそのように分布や頻度が偏っているのかが次に問うべき問題となろう.文法化,脱文法化,語彙化という各々のプロセスについて,それを引き起こす動機づけや条件などを探る必要がある.

 ・ 辻 幸夫(編) 『新編 認知言語学キーワード事典』 研究社.2013年.

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