hellog〜英語史ブログ

#4662. 都立高入試の英語スピーキングテストを巡る問題[elt][khelf][world_englishes][rp][walker][pronunciation]

2022-01-31

 昨年末,12月27日のことになりますが,朝日新聞 Edua「どうなる中学・高校入試 都立高入試の英語スピーキングテスト 教員らが「導入反対」の記者会見」と題する記事が掲載されました.ゼミ生の1人がこの問題を紹介してくれまして,少々遅ればせながらもここ数日で内輪のフォーラム khelf で議論が活発化してきています.
 いろいろと論点はあるのですが,とりわけ注目すべきは以下の点です(同記事より引用).

評価の信頼性については,どのような間違いがどれだけ減点されるか不透明だとし,特に都教委が示している採点基準にある「音声」の項目(3点満点)について疑問を呈した.この項目は,「母語の影響を非常に強く受けている」だと1点,「母語の影響を強く受けている」だと2点,「母語の影響を受けている場合があるが,概(おおむ)ね正しい」だと3点としている.法政大講師で新英語教育研究会長の池田真澄さんは「厳密な区別がつくとは思えない.日本語話者は日本語の影響は必ず受けており,気にしていたらまともに話なんてできない.世界には多様な英語があるのに,入試は別というのはおかしいのではないか」と話す.


 ツッコミだしたらキリがないというのは,まさにこのことです.だからこそフォーラム内で盛り上がっているというわけで,ある意味でとてもよい論題となっています.(ただし,こちらのページより令和3年度のプレテスト採点基準では「母語の影響」に関する項目は削除されています.)
 英語史研究者の立場から言えることは,発音を中心とする話し言葉に関する強い規範化は,いまだかつて例がないということです.18世紀の規範主義の時代の発音辞書についても,19世紀後半からの RP についても,あくまで目指すべき発音を示したものであり,今回の「公的な試験での点数化」という強さの規範化には遠く及びません(cf. 「#768. 変化しつつある RP の地位」 ([2011-06-04-1]),「#1456. John Walker の A Critical Pronouncing Dictionary (1791)」 ([2013-04-22-1]),「#3356. 標準発音の整備は18世紀後半から」 ([2018-07-05-1])).話し言葉について標準化・規範化し得る水準は,せいぜい "focused" にとどまり "fixed" を目指すことは現実には不可能です (cf. 「#3207. 標準英語と言語の標準化に関するいくつかの術語」 ([2018-02-06-1])) .そのような目標を,せめて試験では何とか実現したいということなのでしょうか.
 また,現代世界の "World Englishes" では,多様な英語の発音が行なわれているという事実があります.教育上,参照すべき英語変種や発音を定めることは必要です.しかし,一方で他の変種や発音の存在を認めることも必要です.両方の必要性に目配りすべき状況において,上記の採点基準のような,一方にのみ振り切った方針を取るのは適切ではないと考えます.
 本ブログの読者の皆さんも,この問題について考えてみてはいかがでしょうか.

[ | 固定リンク | 印刷用ページ ]

Powered by WinChalow1.0rc4 based on chalow