昨日の記事に続いての話題.西田 (226) は,文字の発展段階として以下のような流れを想定している.
〔表現手段〕 〔文字の性格〕
先段階1 結縄など
先段階2 絵文字 表文(表意)
〔字形構成法〕 〔言葉の単位との関連〕
第一段階 象形字形 ─┐
├───── 表語(表意)文字
指事字形 ─┘
第二段階 会意文字 ─────── 表語(表意)文字
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第三段階 形声字形 ─┐ /
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注音字形 ─┘ \
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仮借字形 ─────── 表音文字(音節,単音)
┌─ (表)音節文字
第四段階 表音字形 ─────┤
└─ (表)単音文字
もちろん古今東西のすべての文字体系がこの図の段階を経たというわけではなく,途中の段階で止まっているもの,複数の段階の状況が共存しているものなど様々な可能性が考えられる.しかし,文字体系の歴史として大きくみた場合には,原則として上図における上から下へという方向で段階が推移していったことは認めてよい.表語から表音への流れである.
では,この方向の推移が普通であるのはなぜだろうか.1つには,文字数に関する経済性がある.文字はまず絵文字として,すなわち表語文字として始まったが,そのような文字体系では原則として当該言語の語彙に匹敵する数千から数万という文字が必要となる.漢字がその典型だが,当然ながら読み書きともに学習が大変である.それに対して,表音的な体系では,音節文字で数百文字,単音文字で数十文字で事足りる.文字体系も「体系」であるならば,経済性,合理性が目指されるということは不思議ではない.
また,表語文字体系においても,厳密に各語に対して1文字が割り当てられるわけではない.ある文字が発音を同じくする別の語をも表わす,いわゆる仮借(かしゃ)の原理が発達するのが常である.つまり,表語文字にも間接的に音を表わす機能は備わっているのであり,これが拡張してより純粋な表音文字へと変化していくということは十分に考えられる.
加えて,文字体系は異なる言語に適用されてきたという事情もある.実際,文字史は,ある言語を書き記すために発達した文字体系が近隣の他言語へと拡大していく歴史だった.ある言語を書き表す表語文字体系が異なる言語へと移植されるとき,おそらく名詞や動詞などの内容語や自立語の多くは両言語で共有されており,使用に際してそれほど問題が起こらないかもしれないが,後者の言語に固有の文法的要素(付属語や屈折語尾など)を書き表す方法が,その文字体系に欠けているという場合があったろう.また,その言語の固有名詞を書き表す際にも,問題が生じる.このような場合に,当該の表語文字体系に内蔵されている仮借などの表音機能に訴えて,表音的な表記を試みるのが適切だろう.漢字が日本語に移植されたときに,中国語には相当するものがない日本語独自の活用語尾や助詞の類いを表わすのに,万葉仮名という漢字の使用法が発達し,仮名という音節文字が発生したのは,その好例である.
・ 西田 龍雄(編) 『言語学を学ぶ人のために』 世界思想社,1986年.
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