標題に関連して,「#2243. カナダ英語とは何か?」 ([2015-06-18-1]),「#2265. 言語変種とは言語変化の経路をも決定しうるフィクションである」 ([2015-07-10-1]),「#415. All linguistic varieties are fictions」 ([2010-06-16-1]),「#1373. variety とは何か」 ([2013-01-29-1]) など,canadian_english を中心に考察してきた.今回は,この議論にもう1つ材料を加えたい.
これまでの記事でも示唆してきたように,カナダ英語に迫るのには,言語学的な方法と社会言語学的な方法とがある.言語学的な考察の中心になるのは,カナダ英語を特徴づけるカナダ語法 (Canadianism) の同定だろう.Brinton and Fee (434) は,"Canadianisms" の定義として "words which are native to Canada or words which have meanings native to Canada" を掲げており,この定義に適う語彙を pp. 434--38 で数多く列挙している.
一方,社会言語学的な方法を採るならば,カナダ英語の母語話者の帰属意識や忠誠心という問題に言い及ばざるをえない.Bailey (160) は,カナダ英語という変種を支える3つの政治的前提に触れている.
. . . "Loyalists" in the Commonwealth; "North Americans" by geography; "nationalists" by virtue of separatism and independent growth. Each political assumption and linguistic hypothesis has adherents, but the facts of Canadian English resist unambiguous classification.
個々の話者によって,3つの前提のいずれを取るのか,あるいは複数の前提をどのような配合で混在させているのかは異なっているのが普通だろう.このような話者集合体の話す変種こそがカナダ英語なのだという,そのようなアプローチも可能である.むしろ,言語変種とは,往々にしてそのように成立していくものなのかもしれないとも思う.
・ Brinton, Laurel J. and Margery Fee. "Canadian English." The Cambridge History of the English Language. Vol. 6. Cambridge: CUP, 2001. 422--40 .
・ Bailey, Richard W. "The English Language in Canada." English as a World Language. Ed. Richard W. Bailey and Manfred Görlach. Ann Arbor: U of Michigan P, 1983. 134--76.
Powered by WinChalow1.0rc4 based on chalow