Svartvik and Leech によると,現代英語の書き言葉文法の変化は以下の3つの傾向を示しているという (206).
・ Grammaticalization --- Items of vocabulary are gradually getting subsumed into grammatical forms, a well-known process of language change.
・ Colloquialization --- The use of written grammar is tending to become more colloquial or informal, more like speech.
・ Americanization --- The use of grammar in other countries (such as the UK) is tending to follow US usage.
1点目の grammaticalization ( see [2010-06-18-1] ) は現代英語に特有の変化(のメカニズム)というわけではないが,Svartvik and Leech は現代英語に顕著だと考えているのだろうか.著者らの念頭には,例えば[2010-05-31-1]や昨日の記事[2011-01-11-1]で触れた semi-auxiliaries や extension of the progressive があるのだろう.
2点目の colloquialization は現代の談話の民主化傾向 ( democratization ) とも関連するが,単純に書き言葉が話し言葉へ同化しつつあるということを意味するわけではない.同様に,3点目の Americanization が単純に BrE が AmE 化しつつあるということを意味するわけではない.この2つの傾向は確かに部分的に重なり合っており,それぞれ自身も単純に記述できない複雑な過程である.
上述の著者の1人である Leech が別の共著者と著わした Leech et al. のなかでは,もう1つの傾向として "densification" (50) あるいは "the effects of 'information explosion'" (22) が指摘されている.それによると,増大し続ける情報をできるだけコンパクトに効率よく言語化しようとする欲求が高まっているという.その具体的現われが,brunch, smog などの かばん語 ( blend ) や AIDS, NATO などの 頭字語 ( acronym ) や New York City Ballet School instructor などの名詞連鎖だろう.
かりに現代英語の書き言葉文法の変化に関して colloquialization, Americanization, densification などといった傾向を受け入れるとすると,次に文法変化と社会変化の相関関係を疑わざるを得ない.もし社会変化が文法変化の方向を定めているとすれば,それは実に興味深い.従来,確かに社会変化が語彙変化を誘発するということは言語の常であったし,言語接触や方言接触が言語の諸側面に変化の契機をもたらすことも常であった(実際に Americanization は後者に相当する).しかし,それ以外の社会の変化,より具体的に言えば "the broader changes in the communicative climate of the age" が,間接的ながらも,言語のなかでもとりわけ抽象的な部門である文法に影響を及ぼすというのは,決して自明のことではなかった.
Leech et al. は,社会変化の文法変化に及ぼす影響について次のように述べている.
More often than not there are links between grammatical changes, on the one hand, and social and cultural changes, on the other. Such links may not be as obvious as the links between social change and lexical change, and they are certainly more indirect. Again and again, however, the authors have discovered that, especially when it comes to explaining the spread of innovations through different styles and genres, apparently disparate grammatical 'symptoms' can be traced back to common 'causes' at the discourse level. Exploring the connections between the observed shifts in grammatical usage (the nuts and bolts of the system, as it were) and the broader changes in the communicative climate of the age, which are reflected in the performance data that the corpora are made up of, is a fascinating challenge not only for the linguist. (Leech et al. 22)
・ Svartvik, Jan and Geoffrey Leech. English: One Tongue, Many Voices. Basingstoke: Palgrave Macmillan, 2006.
・ Leech, Geoffrey, Marianne Hundt, Christian Mair, and Nicholas Smith. Change in Contemporary English: A Grammatical Study. Cambridge: CUP, 2009.
昨日の記事[2011-01-17-1]で blending 「混成」,blend 「混成語」,portmanteau word 「かばん語」といった術語を紹介したが,今日は英語における blending の通時的傾向について概説しつつ,blend の例を挙げたい.
中英語期以前には,混成語の明らかな例はほとんどない.Chaucer の nifle ( nihil + trifle ) "trifle" が例として挙げられることがあるが,MED の語源によれば Anglo-French からの借用語だという.近代英語以降は少しずつ混成語が現われ始め,2語の意味を合成するという本来の機能に加えて,滑稽・揶揄・嘲笑などの効果を狙ったものも出てくる.foolosopher ( fool + philosopher ), balloonacy ( balloon + lunacy ) などである.Lewis Carroll (1832--98) は昨日の記事で挙げた slithy, mimsy のほかにも chortle ( chuckle + snort ) や galumph ( gallop + triumphant ) などの例を生み出しており,まさに portmanteau word の生みの親といえる.
しかし,混成語の生産性が真の意味で爆発したのは20世紀に入ってからである.政治・文化・科学など社会のあらゆる側面で情報量が爆発的に増加するに伴って,新しい語彙の需要も増した.少ない音節に多くの情報を詰め込む "densification" の潮流 ( see [2011-01-12-1] ) に合致するスマートな語形成の1つが,混成だったのである.
上記の経緯で,現代英語にはきわめて多数の混成語が存在する.枚挙にいとまがないが,混成語の生産性の高さと活用の広さをつかむために,ランダムに例を挙げてみよう.
blend | 1st element | 2nd element |
---|---|---|
avionics | aviation | electronics |
brunch | breakfast | lunch |
docudrama | documentary | drama |
Ebonics | Ebony | phonics |
edutainment | education | entertainment |
electret | electricity | magnet |
electrocute | electro | execute |
Eurovision | Euro- | television |
flush | flash | blush |
Franglais | Français | Anglais |
infomercial | information | commercial |
liger | lion | tiger |
motel | motor | hotel |
Oxbridge | Oxford | Cambridge |
Paralympics | parallel | Olympics |
podcast | pod | broadcast |
simulcast | simultaneous | broadcast |
Singlish | Singapore | English |
smog | smoke | fog |
telethon | telephone | marathon |
[2011-01-18-1]の記事「#631. blending の拡大」で,現代英語においてかばん語が増加している件について取り上げた.かばん語は,現代英語の傾向の1つとして Leech et al. が指摘している "densification" (50) の現われと考えられそうである([2011-01-12-1]の記事「現代英語の文法変化に見られる傾向」を参照).多数のかばん語の例を示されれば,確かにさもありなんと直感されるところではある.しかし,[2011-09-17-1]の記事「#873. 現代英語の新語における複合と派生のバランス」で触れたとおり,Bauer の新語調査によれば,新語におけるかばん語の割合は1880--1982年の期間で p < 0.05 のレベルでも有意な増加を示していない(ただし絶対数は増加している).複数の観察者が指摘しており,私たちの直感にも適うかばん語の増加傾向と,客観的な統計値とのあいだに差があるのはどういうことだろうか.
1つには,Bauer の調査対象期間が1982年で終わっているということがあるだろう.当時の客観的状況と2011年の時点で私たちの抱いている直感とが食い違っていても不思議はない.この30年ほどの間に blending が激増したという可能性も考えられる.
もう1つ,直感と数値のギャップを説明し得る要因がある.この点に関して,Algeo の調査を紹介したい.多くの語彙研究が OED 系の辞書を利用しているが,Algeo はそれとは別系列の辞書を利用して独立した新語調査を行なった.彼の採った方法は,1963年以降の新語を収録した Barnhart の辞書から1000語を無作為抽出し,それをソースや語形成ごとに振り分けるというものである.その調査によると,かばん語は調査した新語語彙全体の4.8%を占めるにすぎず,他の主要な語形成のなかでは目立たないカテゴリーであるという結果となった.しかし,Algeo (271) はこの数値は過小評価だろうと述べている.
Last in numerical importance as a source of new words is blending. Less than a twentieth of our new words have been formed in that way (4.8 percent); however, blending is more popular than that statistic suggests. Its principal areas of use are popular journalism and advertising. Time magazine and Madison Avenue dearly love a blend. Most of the popular coinages are nonce forms that were unreported in the Barnhart dictionary and consequently are not included in these statistics. But every new word begins as a nonce form, so a source that is prolific of nonce forms today may be expected to increase its contribution to the general vocabulary tomorrow. Blending may look like a long shot, but the smart money will keep an eye on it.
"nonce-form" あるいは "nonce-word" (臨時語)に blending が多用されるというのは客観的に確かめにくいが,直感には適う.形態の生産性 (productivity) とは何を指すかという問題は,[2011-04-28-1], [2011-04-29-1], [2011-05-28-1]の記事でも触れてきたように,明確な解答を与えるのが難しい問題である.この問いは,何を(辞書に掲載するに値する)語とみなすかというもう1つの難問にも関係してくる([2011-03-28-1]の記事「#700. 語,形態素,接辞,語根,語幹,複合語,基体」を参照).blending の真の生産性は辞書や辞書に基づいた統計値には現われにくいが,言語使用の現場において活躍している語形成であることは恐らく間違いない.問題は,この主観的評価を,いかにして客観的に支持し得るかという方法の問題なのではないか.
・ Leech, Geoffrey, Marianne Hundt, Christian Mair, and Nicholas Smith. Change in Contemporary English: A Grammatical Study. Cambridge: CUP, 2009.
・ Bauer, Laurie. Watching English Change: An Introduction to the Study of Linguistic Change in Standard Englishes in the Twentieth Century. Harlow: Longman, 1994.
・ Algeo, John. "Where Do the New Words Come From?" American Speech 55 (1980): 264--77.
・ Barnhart, Clarence L., Sol Steinmetz, and Robert K. Barnhart, eds. The Barnhart Dictionary of New English since 1963. Bronxville, N.Y.: Barnhart, 1973.
[2011-10-01-1]の記事「#887. acronym の分類」で acronym (頭字語)の種類について見た.現代英語の言語変化の潮流の1つとして,情報の高密度化 (densification) が指摘されているが([2011-01-12-1]の記事「#625. 現代英語の文法変化に見られる傾向」を参照),それを手軽に達成する手段の1つが acronym である.acronym という語自体が American Dialect Society によって20世紀の "Word of the Century" にノミネートされたほどであり ([2009-12-28-1]) ,現代英語を代表する語形成といってよい.英語における20世紀の acronym 発展史を主にアメリカ社会史と絡めて概説した,Baum による興味深い論文を見つけたので,以下に要旨をメモしておく.
・ アルファベット文字として別々に発音する initialism から,語として発音する acronym への流行の変化の兆しは,最も早くには,第1次世界大戦の時期に観察される.AWOL (= absent without official leave; 初出1920年代), DORA (= Defense of the Realm Act; 初出1917年), ANZACS (= Australian and New Zealand Army Corps; 初出1915年) など.しかし,いまだ散発的だった.
・ 1930年代,President F. D. Roosevelt による the New Deal (ニューディール政策)を遂行するために無数の部局が生まれた.その名称として NIRA (= National Industrial Recovery Act; 1933年) や T.V.A. (= Tennessee Valley Authority; 1933年) などの acronym や initialism が多用され,特に報道英語で好まれたために,アメリカ英語ではこれらの造語法が定着することとなった.
・ 第2次世界大戦の時期に軍事部局が無数に作られ,略語が生まれた.この時期には,initialism よりも acronym を好む傾向が明らかに見られるようになる.EIDEBOWABEW (= Economic Intelligence Division of the Enemy Branch of the Office of Economic Warfare Analysis of the Board of Economic Warfare), MEW (= Ministry of Economic Warfare), WAVE(S) (= Women's Appointed Volunteer Emergency Service) など.最後の例は,海軍においては「波」の意味と響き合って,適合感があることに注意.
・ 意味との適合感を意図的に求める acronym は,戦前から戦後にかけても出現している.Basic English (= British American Scientific International Commercial English; 1932年), CARE (= Cooperative for American Remittance to Europe; 1945年) など.
・ acronym は政治分野の専売特許のように見えるが,もう1つ acronym の活躍している分野に人工頭脳研究(あるいはコンピュータ・サイエンス)がある.ENIAC (= electronic numerical integrator and computer; 1945年) や Audrey (= automatic digital recognition) など.
その他,現代では無数の研究プロジェクト名にも acronym が用いられている.このブログ関連でも,辞書の省略名やコーパスの省略名として acronym が多い (see List of Corpora) .
・ Baum, S. V. "From 'Awol' to 'Veep': The Growth and Structure of the Acronym." American Speech 30 (1955): 103--10.