World Englishes 入門
for khelf-conference-2021

堀田 隆一(慶應義塾大学)

2021年9月22日
hellog~英語史ブログ: http://user.keio.ac.jp/~rhotta

World Englishes 入門 — どう向き合えばよいのか?

英語が複数形で “Englishes” として用いられるようになって久しい.現在,世界中で使われている様々な種類の英語を総称して “World Englishes” ということも多くなり,学問的な関心も高まってきている.本講演では,いかにして英語が世界中に拡散し,World Englishes が出現するに至ったのか,その歴史を概観する.そして,私たちが英語使用者・学習者・教育者・研究者として World Englishes に対してどのような態度で向き合えばよいのかについて議論する.

* 本スライドは https://bit.ly/3kwLxfD からもアクセスできます.

目次

  1. はじめに — 世界に広がる英語
  2. イギリスから世界へ
  3. 様々な英語
  4. 英語に働く求心力と遠心力
  5. World Englishes のモデル
  6. おわりに

1. はじめに — 世界に広がる英語

  1. 英語の広がりを世界地図で (#376)
  2. 母語話者数による世界一の言語は? (#3009)
  3. 英語話者の人口は? (#1591)
  4. 3種類の英語 (#173)
    • ENL (English as a Native Language)
    • ESL (English as a Second Language)
    • EFL (English as a Foreign Language)
  5. 3つのサークル (#217, #222)
    • Inner Circle (norm-providing)
    • Outer Circle (norm-developing)
    • Expanding Circle (norm-dependent)
  6. ENL 地域はいくつある? (#177)
  7. 世界の諸地域が英語化したのはいつ? (#215)
  8. 近代の英語話者人口の爆発
    • 銀杏の葉モデル (#319)
    • 泡ぶくモデル (#427)
    • 近代英語期の爆発 (#933)
  9. 英語話者は増加し続ける
    • 主要 ENL,ESL 国の人口増加率 (#375)
    • 21世紀の世界人口の国連予測 (#759)
    • 言語交替 — 英語への乗り換え (#414)

2. イギリスから世界へ

  1. 「島国であって島国でないイギリス」 (#159)
  2. イングランドの帝国主義は中世から
  3. 「英語の帝国」のたどった3段階の「帝国」 (#3302)
  4. 16世紀後半から20世紀にかけてのイギリスの植民地支配と帝国支配
  5. 「大英帝国」の「大」とは? (#734)
  6. イギリス帝国の拡大とともに英語も世界中に拡散
  7. その過程で様々な英語変種 (Englishes) が出現

関連年表 (#1700, #2562, #777, #1377)

3. 様々な英語

以下,GloWbE (= Corpus of Global Web-Based English) に含まれる19変種は赤字で示す.

  1. イギリス諸島
    • イングランド
    • スコットランド
    • ウェールズ
    • アイルランド
  2. 北アメリカ
    • アメリカ
    • カナダ
  3. オセアニア
    • オーストラリア
    • ニュージーランド
  4. 南アジア (#1590)
    • インド
    • スリランカ
    • パキスタン
    • バングラデシュ
  5. 東南アジア
    • シンガポール
    • マレーシア
    • フィリピン
    • 香港
  6. 南アフリカ (#343, #1703)
  7. 西アフリカ
    • ナイジェリア (#514)
    • ガーナ
    • カメルーン (#412, #413)
  8. 東アフリカ
    • ケニア
    • タンザニア
  9. カリブ海地域 (#1679, #1702)
    • ジャマイカ
    • Bay Islands; Bluefields, Puerto Limon (#1713, #1714)
  10. その他

ピジン語とクレオール語

  1. ピジン語とクレオール語の事始め (#4365)
  2. 起源に関する諸説 (#445)
  3. 世界地図で分布をみる (#1531)
  4. 英語ベースのピジン語とクレオール語の一覧 (#463)
  5. English as a Basal Language (EBL)? (#1731, #4488)

4. 英語に働く求心力と遠心力

  1. 「世界に1つの共通言語を」という求心力 (cf. WSSE = World Standard Spoken English)
  2. 「自分たちの独自の言語を」という遠心力 (World Englishes への分裂)
  3. 世界における英語使用のジレンマ (#2986)
  4. “mutual intelligibility” vs “social identity”
  5. 多様性の許容は英語をバラバラにするか? (#1360)
  6. 英語が一枚岩ではないのは過去も現在も未来も同じ (#2989)

5. 世界英語のモデル

  1. 多くのモデルが提案されてきた
  2. McArthur の “Hub-and-Spokes” モデル (#4501)
  3. Görlach の “Hub-and-Spokes” モデル (#4502)
  4. ピラミッドモデル (#426)
  5. Modiano の同心円モデル (#1106)
  6. Jenkins の3区分モデル (#272)

おわりに

  1. イギリス帝国の拡張により英語が世界中に拡散し, 各地で土着化した英語が成長
  2. 21世紀,英語には求心力と遠心力が作用している
  3. World Englishes の複雑な状況をモデル化してとらえようとする試み
  4. 皆さんは World Englishes に対してどのような態度で向き合いますか?

参考文献