3単現の -s というのは,英語の初学者が最初につまずく文法事項の代表格です.主語が3人称かつ単数であり,文の時制が現在のときに,動詞には -(e)s を付けなければならないという,一見すると何の意味があるのか分からない,厄介な決まりです.ただでさえ厄介な代物ですが,さらにひどいことに,3単現 (3sp) の条件を満たしているにもかかわらず -s を付け(てはいけ)ない動詞というのがあります.can, may, shall のような助動詞 (auxiliary_verb) です.He can swim., She may say so., The truth shall be told. などでは,3単現を満たしているようにみえますが,決して *cans, *mays, *shalls のような形を用いません.英語では,そのような形は存在しないのです.いったい,なぜでしょうか.音声の解説をお聴きください.
そう,驚くべきことに問題の助動詞は,起源が過去形なのです! can, may, shall などが表わしている意味は確かに現在(少なくとも過去ではない)というべきですが,いずれも語源的には過去形です.もともと過去形なのですから,3単「現」に特有の -s 語尾が付くなどということは歴史上一度もなかったのです.
では,なぜ起源としては過去形なのに意味は現在となっているのでしょうか.これはなかなか難しい問題ですが,助動詞においては過去形が現在の意味を帯びるという意味変化が歴史的に繰り返し起こってきたようなのです.もともとの過去形 can, may, shall が本来の過去の意味を失い,現在の意味を帯びるようになると,新たに過去を表わす形が必要となり,-t/d 語尾を付して could, might, should という新過去形が生み出されました.確かにこれらは現代英語でも助動詞の過去形と称されますが,実際には Could it be true?, She might be in London by now., We should apologize. のように,意味的には現在として用いられることが多いのです.助動詞の過去形には,このように現在の意味を帯びるようになる傾向がみられます.
今回取り上げたような助動詞は,専門的には「過去現在動詞」 (preterite-present_verb) という妙な名前がついています.この不思議な問題については##3648,58,66,3504の記事セットをご覧ください.
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