辞書・独習用教材
辞書
大学での外国語学習においては、質の高い辞書をコンスタントに参照することが必要不可欠です。
良い辞書の基準は、収録語数が多く、例文が豊富であることです。書かれた意味を機械的に暗記しているだけでは、その言語を使いこなすレベルに到達することはできません。単語を調べながら多くの例文に触れ続けることで、その意味を文脈にぴったりくる言葉遣いへと変換できるようになります。
上の理由から慶應法学部では、次のような中規模サイズの西和辞典を推奨しています。
和西辞典も必要なら、同じ基準から以下のものを推奨します。
大学での授業で使用する辞書に関しては、紙媒体のものが望ましいです。一つの単語を引くにしても、紙の辞書ならば前後の単語が目に入ることで、派生語や接頭辞・接尾辞などの仕組みが知らぬ間に理解できてくるようになります。ただし、時代に鑑み、上の辞書が収められた各種電子辞書(CASIO、SHARP製など)の使用も認めます。すでに電子辞書をお持ちの方は、上の辞書コンテンツを追加し、オフラインで使用できる状況であれば認めます。
これらの辞書には、PCやスマホのアプリになっているものもあります。ただし慶應法学部においては、スペイン語の授業中に携帯電話、パソコン、タブレット等、通信機能のある端末を使用することは原則禁止しています。冒頭に記した基準を満たさない無料の辞書サイト/アプリとは異なる高品質の辞書を揃えているか教員側が判別できない、またそれらのデバイスにアクセスすることで授業とは関係のない内容が目につき、学習効率が著しく落ちる、という経験的事実に基づく指針です。とはいえこれに関しては授業担当者ごとに個別のルールが設けられる場合もありますので、個々の担当者の指示に従ってください。
もちろん独習者の場合は、必要に応じて辞書アプリや学習アプリを購入し、自分の判断で大いに使うと良いでしょう。
独習用教材
正確な文法知識と語彙を身につけ語学力を向上させるには、「なぜそうなるのか」という理解が必要不可欠です。 授業に加えて学習を積み重ねさらに上のレベルを目指したい、あるいは日頃の学習で抜け落ちてしまった事項をフォローしたい、そんな独習者のために役立つ教材を紹介します。
学習に取り掛かる前に、その言語を学んだ先に何が待っているかという目的地のイメージができていると、学習事項もより頭に入りやすくなります。スペイン語の世界を大掴みに感じ取るための3冊を紹介します。
- 岡本信照『スペイン語のしくみ』白水社、2014年
- 岡本信照『スペイン語の世界』慶應義塾出版会、2018年
こちらは、塾生であればメディアセンター(図書館)経由で電子書籍を読むことができます。ぜひ目を通してください。 - 東谷穎人『はじめてのスペイン語』講談社現代新書、1994年
スペイン語の世界を概観しながらついでに言語も学んでしまいたい、という欲張り者には、このロングセラーを。入学前に目を通してもらえれば、さらに言うことなしです。
大学の授業で使用する教科書の大半は、授業での解説によって内容を補完することが前提とされています。自分で学習を進めるには、より解説の充実したものが必要です。練習問題付きの教材としては、以下の2点がお薦めです。
アルファベット順、テーマ別、レベル別など様々な形態がありますし、アプリでも優れたものがあります。店頭で手に取ってみたり試しにインストールしてみたりして、自分のレベルと好みに合うものをまず一つだけ選ぶのがよいでしょう。個々の単語がどのように使われるのかわかるよう、例文が付いているものが好ましいです。
- 吉田理加『キクタンスペイン語【入門編】 基本500語レベル』アルク、2011年
オーソドックスな一冊です。レベルに応じて、初級編・初中級編とステップアップしていけます。 - コララテ『旅の指さし会話帳28 メキシコ』情報センター出版局、2002年
観光用ですが、イラストとともに単語やフレーズを覚えられる点が優れものです(やや下世話なページもあります)。「メキシコ」とあるように、地域特有の語彙を覚えたい人には大いに役立つでしょう。他にもスペイン、アルゼンチン、キューバ、ペルー、そして日本版があります。
以下は DELE 対策用ですが、自分の語彙レベルをチェックするためにも使用できるでしょう。
- 加藤伸吾『スペイン語力養成ドリル2000題』白水社、2012年
より多くの問題を解きつつ、初心者がつまずきやすいポイントも実践を通じて整理できます。習うより慣れよタイプの人にお薦めです。
その他、西検やDELEなどの検定試験を考えている人は、専用の対策問題集や過去問に当たりましょう。
学習を進めていくうちに、初級用教材では解決できない大小さまざまの疑問が必ず山積みになってきます。そんな時は、文法規則の説明に特化した文法書を手に取りましょう。
スペイン語の文法書も、近年さまざまなものが出版され手に取りやすくなりました。ここではその中から、比較的入手しやすいものを紹介します。
文法書は、常に手元に置いて、必要な時に必要なページを参照するのが基本的な使い方です。よほどの天才以外は、最初のページから読み進めて読破してやろうなどと思わないこと。
- 上田博人『スペイン語文法ハンドブック』研究社、2011 年
文法規則が「なぜ」そうなっているのか、歴史的な経緯なども含め解説が充実しています。用語に若干のクセはありますが、著者の立場による合理的な説明が加えられているので、読み物としても興味深いでしょう。 - 廣康好美『NHK出版 これならわかるスペイン語文法 入門から上級まで』NHK出版、2016年
初心者でもすんなり読める、親しみやすいレイアウトが特徴。
読解能力を向上させるには、テクストの内容に関する基礎知識もさることながら、やはり文法と語彙に関する正確な理解が欠かせません。文法知識を通してこそ、文脈も見えてきます。
とはいえ、基本文法を修めたところでさっそく新聞記事やインタビューに挑んでも、跳ね返されてしまうのが普通です。それらのテクストは、初学者のために書かれていないからです。複雑な構文や現地特有の言い回し、省略された文脈に振り回されてしまうことでしょう。
そこでまず手始めにお薦めしたいのは、物語文、特に昔話です。私たちが子供の頃に慣れ親しんだこの形式は、比較的シンプルな文章で織りなされており、「どうしてこうなって、これからどうなるの?」と文脈を踏まえて文を理解する練習にうってつけの教材となってくれるはずです。以下の2冊は、語注と対訳付きで気軽に読むことができます。
より高度な物語を楽しむには、言葉のプロである作家に登場してもらうのがいいでしょう。幸い、対訳付きの丁寧な教材があります。
もっと様々なジャンルの文章に触れたい! という人には、次の一冊を紹介しておきます。
- 東京大学教養学部『Viajeros 東京大学スペイン語教材』東京大学出版会、2008年
シモン・ボリバルの手紙からオルテガ『大衆の反逆』、メキシコ料理にドミニカ野球、さらには西訳版『平家物語』など、テーマも難易度もバラエティに富んだ読み応えある読み物が目白押し。対訳はないので、独学の人は力試しに使うといいかもしれません。
- フリオ・ ビジョリア・アパリシオ著、リベラルテ訳・監修『改訂版 耳が喜ぶスペイン語 リスニング体得トレーニング』三修社、2019年
はじめの一歩はこれがおすすめ。対訳の付いた適度な分量のテキストで確実に文の意味を押さえつつ、音の流れを無理なく吸収できるでしょう。トピックが豊富で、軽めのリーディング教材としても使えます。 - Easy Spanish
西・英の字幕付きで、聴き取りの練習に適しています。音声に合わせてシャドーイングなどしてみると、さらに効果的でしょう。 - Punto y Coma
日本語を介せず、とにかくスペイン語のシャワーを浴びたい、でも何か良質なリスニング教材はないか、という方におすすめです。一つのテーマが音声・スクリプト・語彙集で構成されており、レベル(A2からC2)も明記されています。一年の初級文法を終えたあとに、A2レベルの気になるテーマからはじめてみるとよいでしょう。なお、日吉メディアセンターで購読していますが、個人でオンライン購入もできます。 - Profe de Ele
リスニングに留まらない総合教材です。あらゆる側面の教材がA1レベルから揃っています。日本語や英語の説明はありませんのであしからず。
その他、当サイトのリンク集にあるスペイン語メディアのサイト、あるいは様々なストリーミングサービスが良い教材となってくれるでしょう。再生速度を落としてみたり、スペイン語字幕付きで視聴してみたり、といった工夫で、聴き取る能力は飛躍的に高まるはずです。日本の映像作品をスペイン語吹替で視聴するのも有用でしょう。ただし、字幕(特に日本語字幕)の質が必ずしも保証できない点は注意が必要です。
各種の学習用アプリを活用するのも良いかもしれません。
作文は、独学が困難な分野です。自分の考えが過不足なく表現できているかを確かめるには、知識と経験のある他人のチェックが必要です。
そんな分野で独学に適した教材を探すときのポイントは、非ネイティブが陥りがちな罠を懇切丁寧に解説してくれているかどうかです。いくつかの優れた教材の中でも、以下の2点をお薦めしたいと思います。
- 小池和良『〈新版〉スペイン語作文の方法[構文編] 音声DL対応』三修社、2023年
- 小池和良『〈新版〉スペイン語作文の方法[表現編] 音声DL対応』三修社、2023年
元来は語学書に定評のあった第三書房から出ていた書籍で、やはり語学書に定評のある三修社から新版として刊行。日本語話者が陥りがちなクセ、スペイン語らしい構文や語彙の選択がよくわかる素晴らしい作りです。構文編→表現編の順に進めていけば、自分の考えをスペイン語で存分に表現できる自信がつくはず。
さらに上のレベルを目指す場合、用途に合わせて、工具類や文法書もさまざまなものを使いこなす必要が出てきます。個々の教員に、具体的な相談に乗ってもらうのが一番でしょう。
ここでは1冊、岡本信照『スペイン語の語源』(白水社、2021年)を紹介しておくに留めたいと思います。語源を知ることで、語彙がよりいっそう確実に広まり、また深まっていくはずです。