標題の2つの修辞的技巧は,近年の認知言語学の進展とともに,2つの認知の方法として扱われるようになってきた.2つはしばしば対比されるが,metaphor は2項の類似性 (similarity) に基づき,metonymy は2項の隣接性 (contiguity) に基づくというのが一般的になされる説明である.しかし,Lakoff and Johnson (36) は,両者の機能的な差異にも注目している.
Metaphor and metonymy are different kinds of processes. Metaphor is principally a way of conceiving of one thing in terms of another, and its primary function is understanding. Metonymy, on the other hand, has primarily a referential function, that is, it allows us to use one entity to stand for another.
なるほど,metaphor にも metonymy にも,理解の仕方にひねりを加えるという機能と,指示対象の仕方を一風変わったものにするという機能の両方があるには違いないが,それぞれのレトリックの主たる機能といえば,metaphor は理解に関係するほうで,metonymy は指示に関係するほうだろう.
metonymy の指示機能について顕著な点は,metonymy を用いない通常の表現による指示と異なり,指示対象のどの側面にとりわけ注目しつつ指示するかという「焦点」の情報が含まれていることである.Lakoff and Johnson (36) が挙げている例を引けば,"The Times hasn't arrived at the press conference yet." において,"The Times" の指示対象は,同名の新聞のことでもなければ,新聞社そのもののことでもなく,新聞社を代表する報道記者である.主語にその報道記者の名前を挙げても,指示対象は変わらず,この文の知的意味は変わらない.しかし,あえて metonymy を用いて "The Times" と表現することによって,指示対象たる報道記者が同新聞社の代表者であり責任者であるということを焦点化しているのである.直接名前を用いてしまえば,この焦点化は得られない.Lakoff and Johnson (37) 曰く,
[Metonymy] allows us to focus more specifically on certain aspects of what is being referred to.
metaphor と metonymy については,「#2187. あらゆる語の意味がメタファーである」 ([2015-04-23-1]),「#2406. metonymy」 ([2015-11-28-1]),「#2196. マグリットの絵画における metaphor と metonymy の同居」 ([2015-05-02-1]) も参照されたい.
・ Lakoff, George, and Mark Johnson. Metaphors We Live By. Chicago and London: U of Chicago P, 1980.
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