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最終更新時間: 2024-12-22 08:43

2017-12-29 Fri

#3168. 12月,December,師走 [calendar][etymology][numeral][pchron][word_family][month]

 いよいよ本年も終わりに近づいてきているので,この辺りで December (12月)の語源の話題を提供しよう.
 この英単語は,ラテン語で decem (10)を第1要素として作られた合成語 *decemmembris (< *decem-mēnsris < decem + mēnsis) に遡ると考えられる.このラテン単語がフランス語を経由して英語に入ってきたのは中英語の最初期のことで,Peterborough Chronicle の1122年の記述に初出している.古英語では,この月は se ǣrra ġeōla (the earlier Yule) と称されていた.
 decem の印欧語根は *dekm̥ であり,英語本来語としては ten, -teen, -ty, tithe (cf. 「#3105. tithetenth」 ([2017-10-27-1])) 等が関係するほか,実は hundred (そしてラテン語経由で cent その他)も,さらには thousand も関係する.この問題については,「#100. hundred と印欧語比較言語学」 ([2009-08-05-1]),「#1150. centumsatem」,「#2240. thousand は "swelling hundred"」 ([2015-06-15-1]),「#2285. hundred は "great ten"」 ([2015-07-30-1]),「#2286. 古英語の hundseofontig (seventy), hundeahtatig (eighty), etc.」 ([2015-07-31-1]),「#2304. 古英語の hundseofontig (seventy), hundeahtatig (eighty), etc. (2)」 ([2015-08-18-1]) を参照されたい.
 さて,この印欧語根 *dekm̥ を受け継ぐラテン語からの借用語を挙げれば,decemvir (十大官の一人), decimal (10進法の), decimate (多くの人を殺す), decuple (10倍の), decussate (十字形に交わる), denarius (デナリウス), denier (ドゥニエ貨), dicker (10個の一組), dime (ダイム,10セント硬貨), Dixie (飯ごう), dozen (ダース,12個), duodecimal (12進法の).ギリシア語からは,dean (学部長), decade (10年), decanal (学部長の), dodecagon (12角形), doyen (古参者), Pentecost (ペンテコステ,五旬祭)が英語に入っている.
 日本語で陰暦12月を表わす「師走」(しわす)の語源は未詳とされる.よく知られている民間語源によれば「師馳す」,つまり師匠(の僧)が経をあげるために走り回る月であるという.この解釈は平安末期の『色葉字類抄』にすでに「俗に師馳と云ふ,釈有り」として知られていた.他の説としては,四季の果てる「四極」(しはつ),すべてをなし終える「為果つ」(しはつ)や「年果つ」(としはつ)に基づくとするものなどがある.
 月名シリーズの他の記事も参照.「#2910. 月名の由来」 ([2017-04-15-1]),「#2890. 3月,March,弥生」 ([2017-03-26-1]),「#2896. 4月,April,卯月」 ([2017-04-01-1]),「#2939. 5月,May,皐月」 ([2017-05-14-1]),「#2983. 6月,June,水無月」 ([2017-06-27-1]),「#3000. 7月,July,文月」 ([2017-07-14-1]),「#3046. 8月,August,葉月」 ([2017-08-29-1]),「#3073. 9月,September,長月」 ([2017-09-25-1]),「#3103. 10月,October,神無月」 ([2017-10-25-1]),「#3167. 11月,November,霜月」 ([2017-12-28-1]) .

Referrer (Inside): [2018-02-28-1] [2018-01-17-1]

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2017-12-28 Thu

#3167. 11譛茨シ君ovember?シ碁惧譛? [calendar][etymology][numeral][word_family][month][epenthesis]

 年の瀬に November (11月)の話題というのも妙だが,11月に書き忘れていたので,お許し願いたい.
 この英単語は,ラテン語の数詞 novem (9)に基づいた November あるいは Novembris (mēnsis) が,フランス語を経由して1200年頃に Novembre として英語に入ってきたものである.ラテン語での語形成は *novem-ri-s の子音間に b が添加されて -mbr- となったものだろう(このような語中音添加 (epenthesis) については「#739. glide, prosthesis, epenthesis, paragoge」 ([2011-05-06-1]) を参照).「月」を表わすこの語の後半要素の起源については,「#3073. 9月,September,長月」 ([2017-09-25-1]) の説明を参照されたい.
 ラテン語novem の印欧語根は *newn̥ であり,英語本来語としてはもちろん nine が関係する.ラテン語からの借用語としてこの語根を保持している単語には nonagenarian (90歳代の), nones (ローマ暦で9日前の日(月によって第5日か第7日に相当する)), noon ((午前6時から数えて)第9時;後に正午の意へ), novena (9 日間の祈り) がある.また,ギリシア語からの借用語としては ennead (九つ一組)がある.
 古英語では Blōdmōnaþ (blood month) と呼ばれ,何やら穏やかではないが,これはアングロサクソン人が冬支度として動物の生贄を捧げた風習と関連するという.
 日本語で陰暦11月を表わす「霜月」は,ストレートに霜降月(しもふりつき)に由来するとも考えられるが,様々な語源説がある.ヲシモノツキ(食物月)の略ともされるし,10月を上の月と考えて11月を下の月としたという説もある.

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2017-10-25 Wed

#3103. 10月,October,神無月 [calendar][month][latin][numeral][analogy]

 月名シリーズ (month) の「10月」をお届けする.古英語では10月は,winterfylleð "winter fill" (冬の満ちた月)と呼んでいた.他の月名と同様に,後期古英語にはラテン語から October が入ってきている.古典期以降のラテン語では,September, November, December からの類推を経た Octembre という形態も用いられ,これが古英語で用いられた例もみつかる.OED の挙げている例では,類推ラテン語形と本来語形が並置されている.

OE Old Eng. Martyrol. (Julius) Oct. 225 On ðam teoðan monðe on geare bið xxxi daga; þone mon nemneð on Leden Octember, ond on ure geðeode Winterfylleð.


 October の語幹の octo- は,ラテン語 octō- あるいはギリシア語 oktō- に由来し,「8」を意味する.これは,英語の eight と同根である.8番目の月が10月を表わしているのは,古代ローマ暦では年始を1月ではなく3月に定めていたからだ.oct(a)- として英語に入り込んでいる語も,次のようにいくつかある.

octaacetate, octachord, octad, octagon, octahedral, octahedron, octameter, octan, octane, octant, octave, octavo, octet(te), octocentenary, octogenarian, octonary, octoploid, octopod, octopus, octoroon, octose, octosyllabic, octuple


 October の -ber 語尾については,「#3073. 9月,September,長月」 ([2017-09-25-1]) で触れた通り語源不詳だが,少なくとも October の場合に関しては音韻過程の結果とは考えられないので,September など他の月名の語尾からの類推だろう.
 日本語で陰暦10月を表わす「神無月」は「神の月」の意ともされるが,一方で八百万の神々が出雲大社に集結する月であるため,他の国から神がいなくなるという意味であるとも俗に言われる.出雲では,したがって,むしろ「神在月」(かみありづき)と称されるのだと.ほかには,新穀で酒を醸す月を表わす「醸成(かもな)し月」からとも,雷のない月からとも言われ,諸説がある.

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2017-09-25 Mon

#3073. 9譛茨シ郡eptember?シ碁聞譛? [calendar][month][latin][verners_law][etymology][numeral][analogy]

 月名シリーズ (month) の「9月」をお届けする.「9月」を表わす語は,古英語では hærfest-mōnaþ "harvest month" (収穫の月)だった.しかし,古英語後期にはラテン語 September (mēnsis) が借用されている.中英語ではフランス語形 Septembre が普通だったが,近代英語になると再びラテン語形 September が採用された.ラテン語 septem は "seven" の意であるから,本来は「7番目の月」を表わしていた.現在の感覚からすると2月分ずれているように見えるが,これは古代ローマ暦では1月ではなく3月を年始としていたことに由来する.
 「7」を表わす印欧祖語の再建形は *septm̥ であり,ラテン語形 septem から遠くない.なお,ギリシア語では印欧祖語の sh に対応するため,「7」は heptá となる (cf. Heptarchy (七王国),s (七書);「#350. hypermarketsupermarket」 ([2010-04-12-1]) と「#352. ラテン語 /s/ とギリシャ語 /h/ の対応」 ([2010-04-14-1]) も参照) .印欧祖語形 *septm̥ の子音 *p は,ゲルマン祖語においては Verner's Law を経て有声摩擦唇音の *ƀ となる一方で,もう1つの子音 *t は,おそらく歯音接辞を付す序数詞形において4子音連続が生じてしまうために消失したことからの類推で落ちたものと考えられる (cf. Gmc *sebunða-) .結果として Gmc 古英語 *seƀun から,古英語 seofon,オランダ語 zeven,ドイツ語 sieben などが発達した.Verner's Law については,「#104. hundredヴェルネルの法則」 ([2009-08-09-1]),「#480. fatherヴェルネルの法則」 ([2010-08-20-1]),「#858. Verner's Law と子音の有声化」 ([2011-09-02-1]) を参照されたい.
 なお,October, November, December にもみられる -ber 語尾については,ラテン語 mēnsis に基づく形容詞形 *mēns-ris において,隣接する子音群の同化により -br- が現われたのではないかと推測されているが,詳細は不明である.
 日本語で陰暦9月を表わす「長月」は,夜長月(ヨナガツキ)の略(あるいは稲刈月(イナカリツキ)の略)と言われるが,これは中古以来の民間語源説にすぎないという見解もある.折口信夫によれば,9月が長雨(ナガメ)の時季でもあることと関連して名付けられたのだろうとされる.

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2017-08-29 Tue

#3046. 8譛茨シ窟ugust?シ瑚痩譛? [calendar][etymology][latin][personal_name][month]

 いつの間にか蝉の鳴く声が弱まり,代わって夕べに虫の音が聞こえる処暑となった.8月も終わりに近づいている.終わらないうちに,月名シリーズ (month) の「8月」をお届けしよう.
 英語の August (BC 63--14 AD) は,初代ローマ皇帝 Augustus Caesar にちなむ.8世紀に,元老院が Augustus に敬意を表し,もともとのラテン語の Sextīlis mēnsis (第6の月)に代えて新しく用いだしたものである.もとの名が示すとおり,春分の月(現在の3月)を年始めとする古いローマ暦の第6の月(現在の8月)を指した.Augustus 帝にとってもこの月は縁起のいい月だったとされ,この月に31日あるのは養父カエサル (Julius Caesar) の7月よりも日数が少ないのを嫌って,2月から1日奪い取ったためとも言われる.
 古英語では wēod-mōnaþ (weed month) と呼ばれていたが,後期になるとラテン語から August が入ってきた.中英語では August のほか,フランス語から借用された aust, aoust も用いられた.
 日本語で陰暦8月を指す「葉月」は,稲が穂を張る月「穂発月」からとも,木の葉が落ちる月「葉落月」からとも言われる.本来は「はつき」と清音で発音された.

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2017-07-14 Fri

#3000. 7譛茨シ繰uly?シ梧枚譛? [calendar][etymology][latin][personal_name][dissimilation][month]

 古ローマ暦では春分を年の始まりとしたため,現在の暦よりも2ヶ月ずれていた.したがって,現在の7月はかつての5月に対応し,これはラテン語で Quinctilis (第5の月)と称されていた.しかし,Marcus Antonius (83?--30 B.C.) が,帝政開始前の最後の支配者であり友人でもあった Julius Caesar (100--44 B.C.) の死後,神格化すべく,その出生月にちなんで,この月の名前を Jūlius (mēnsis) へと変更した.これが後に古フランス語 jule や古ノルマン・フランス語 julie を経由して,初期中英語期に juil, iulie 等の綴字で借用された.なお,Julius は *Jovilios の短縮形であり,JoveJupiter と語根を共有する.Julius Caesar は,したがって,Jupiter の血を引く正統な家系に属するとみなされた.
 古英語末期には直接ラテン語形が用いられたが,7月を表わす本来的な表現としては,līþa se æfterra (the later līþa) と呼ばれた.これについては,「#2983. 6月,June,水無月」 ([2017-06-27-1]) の記事も参照.
 July の標準的な発音は /ʤʊˈlaɪ/ だが,18世紀には第1音節に強勢が置かれる /ˈʤuːli/ という発音が行なわれており,現在でも米国南部で聞かれる.標準発音は,おそらく June との混同を避けるための異化 (dissimilation) によるものと考えられる(cf. 「いちがつ」と区別するための「なながつ」(7月)という読み方).
 日本語の7月の別称「文月」は,稲の穂のフフミヅキ(含月)に由来するとも,七夕に詩歌の文を添えることに由来するとも言われる.
 月名シリーズの記事として「#2910. 月名の由来」 ([2017-04-15-1]),「#2890. 3月,March,弥生」 ([2017-03-26-1]),「#2896. 4月,April,卯月」 ([2017-04-01-1]),「#2939. 5月,May,皐月」 ([2017-05-14-1]),「#2983. 6月,June,水無月」 ([2017-06-27-1]) を参照.

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2017-06-27 Tue

#2983. 6月,June,水無月 [calendar][etymology][latin][personal_name][month]

 June といえば,イギリスでは最も快適で,社交界が華やぐ月である.夏至やバラとも連想され,すべてが明るい月である.語源的にはローマの女神 Juno に由来し,女神を祀る者を意味する Junonius から異形として発展した Junius (mensis) (おそらく氏族名として用いられていた)が,古フランス語で juin と変化したものが13世紀に英語に借用された.Caesar 暗殺に加わった Marcus Junius Brutus とも連想されたという.
 古英語では,6月と7月を合わせた名称 līþa の「早いほう」 (ǣrra "the earlier") を指すものとして līþa ǣrra と呼ばれた.しかし,後期古英語でも,ラテン語 Junius から直接借用された iunius の語形が文証されていることを付け加えておきたい.
 日本語「水無月」は,漢字でこそ「水の無い月」と書くが,「な」は助詞「の」であり,実は「水の月」である.梅雨の時期で水が豊富な月であり,水を田に引く月であることから名付けられた.
 月名シリーズとして「#2910. 月名の由来」 ([2017-04-15-1]),「#2890. 3月,March,弥生」 ([2017-03-26-1]),「#2896. 4月,April,卯月」 ([2017-04-01-1]),「#2939. 5月,May,皐月」 ([2017-05-14-1]) もどうぞ.

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2017-05-14 Sun

#2939. 5譛茨シ勲ay?シ檎嚼譛? [calendar][etymology][indo-european][japanese][month]

 5月を表わす英単語は May.古英語後期にフランス語 mai から借用した語である.このフランス単語は,ラテン語 Maius (mēnsis) に遡り,ローマ神話で Faunus と Vulcan の娘たる豊饒の女神 Māia に由来する.さらに古くには *magja という音形が再建されており,究極的には印欧祖語の「偉大なる女」を意味する *magya にたどり着く.印欧語根は「偉大な」を表わす *meg- であり,この語根から幾多の語が生まれ,様々な経路を伝って現代の英語語彙にも取り込まれていることは「#1557. mickle, much の語根ネットワーク」 ([2013-08-01-1]) で見たとおりである.
 古英語では一般に「5月」は本来語由来の þrimilce(mōnaþ) が用いられた.原義は「一日に三度乳しぼりのできる月」の意味である.
 日本語で「5月」の旧称「皐月(さつき)」には,様々な語源説があるが,早苗を植える月,「早苗月(さなえつき)」の略と言われる.
 3月については,「#2890. 3月,March,弥生」 ([2017-03-26-1]) を,4月は「#2896. 4月,April,卯月」 ([2017-04-01-1]) を参照.月名全般に関しては,「#2910. 月名の由来」 ([2017-04-15-1]) もどうぞ.

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2017-04-15 Sat

#2910. 月名の由来 [etymology][calendar][latin][greek][month]

 「#2890. 3月,March,弥生」 ([2017-03-26-1]),「#2896. 4月,April,卯月」 ([2017-04-01-1]) で月名の由来について紹介したが,英語の月名について,12ヶ月分の由来をざっと確認しておこう.以下は,Judge (91) の囲み記事からの引用.

January: Dedicated to Janus --- god of gates, doors and beginnings and endings
February: Comes from februarius mensis --- month of purification --- for the Roman feast of purification held at that time.
March: Dedicated Mars --- Roman god of war. In the ancient Roman calendar (up until 46 BCE) the year began in March, with the spring equinox.
April: Dedicated to the Roman goddess Venus --- Aphrodite in Greek.
May: From Maia, an earth goddess whose name derives from Indo-European megha --- Great One (this is the same origin for English mega-).
June: In honor of the Roman goddess Juno.
July: Originally called Quintilis (fifth month) but change when dedicated to Julius Caesar because he was born in this month.
August: Named after Augustus Caesar, the first Roman emperor.
September: Means the seventh month of the year --- in the ancient calendar which started in March.
October, November and December mean the eighth, ninth and tenth months.


 いずれもラテン語やギリシア語からの伝統を引きずった文化的借用語である.
 Septemberseven の音韻形態的に関係については,「#352. ラテン語 /s/ とギリシャ語 /h/ の対応」 ([2010-04-14-1]) を参照.

 ・ Judge, Gary. The Timeline History of the English Language. Yokohama: Cogno Graphica, 2010.

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2017-04-01 Sat

#2896. 4譛茨シ窟pril?シ悟艮譛? [calendar][etymology][japanese][month]

 4月,始まりの季節である.Chaucer の The Canterbury Tales の冒頭でも,万物の始まりの月である4月が謳い上げられている(「#534. The General Prologue の冒頭の現在形と完了形」 ([2010-10-13-1]) を参照).
 April は,1300年頃に Anglo-French の Aprille が英語へ借用されたもので,それ自身はラテン語 Aprīlis mēnsis に遡る.最初の語は,ローマ神話の「愛の女神」 Venus に対応するギリシア神話の女神 Aphroditē の短縮形 Aphros に由来する.4月は愛による豊饒の月であり,再生の月でもあった.別の語源説によると,ラテン語で「開く」を意味する aperīre と関係するともいうが,こちらであれば,大地が開く月,あるいは花開く月ほどのイメージだろうか.
 アングロサクソン人は,4月を ēaster-mōnaþ と呼んでいた.光の女神 Ēaster の月ということである.Ēaster は,文字通り現代英語の Easter に相当するが,本来ゲルマン人が春分の時期に祝っていたこの祭りが,後に時期的に一致するキリスト教の復活祭と重ね合わされ,後者を指す呼称として(そしてラテン語の Pascha の訳語として)定着した.
 日本の4月の異称「卯月」は,一節に寄れば,ウツギ(ユキノシタ科の落葉低木)の花が咲く時期であることから来ている.ここから,ウツギの花は逆に「卯の花」とも呼ばれる.江戸時代中期の『東雅』や『嘉良喜随筆』によれば,卯月に咲くから卯の花というのであり,その逆ではない旨が述べられている.いずれにせよ,4月は生命にあふれた明るい月である.今年度も開始!
 3月については,「#2890. 3月,March,弥生」 ([2017-03-26-1]) を参照.

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2017-03-26 Sun

#2890. 3月,March,弥生 [calendar][etymology][japanese][latin][month]

 3月も早下旬となり,卒業式と新年度準備のシーズンである.3月を指す英語の March は,ラテン語で同月を指す Mārtius mēnsis,つまり「マルス神の月」の最初の語「マルス」(ラテン語主格単数形 Mārs)に由来する.マルスはローマを建国したロムルスの父でもあり,軍神でもあり,農耕・牧畜の神でもある.3月は冬が終わり,陽気が暖かくなり始め,軍事行動を再開すべき時期であり,農耕の開始の時期でもある(梅田, pp. 345--46).古代ローマ暦では,1年は春分より始まったため,Mārtius mēnsis こそが1年の最初の月だった.
 英語へは,初期中英語期にフランス語を通じてこの語が入り,march(e) などと綴られた(MEDmarch(e (n.(1)) を参照).それ以前,アングロサクソン人はこの月のことを hrēþ-mōnaþ と呼んでいたが,第1要素の意味は不詳である.
 さて,福音伝道者の1人の名前である Mark は,ラテン語では Mārcus となるが,これは借用元のギリシア語形 *Mārt-cos の短縮された形態に由来するものと考えられ,究極的には「マルス」に遡るとされる.
 ちなみに,我が国の陰暦3月の旧称「弥生」(やよい)については,「いやおひ」の変化したものとされる.草木がいよいよ花葉を生じる意である.また,古来用いられている雑記の1つ「節分」は,「節季を分ける」の意で,立春をもって新たな年を迎えるという暦の考え方が元になっている.
 日本でもイギリスでも,新たな年の始まりが3月や2月などの時期に位置づけられているというのは,必ずしも偶然ではない.希望の時期は,4月より数週間早くに訪れているのだ.

 ・ 梅田 修 『英語の語源事典』 大修館書店,1990年.

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