「#5371. 言語学史のハンドブックの目次」 ([2024-01-10-1]) の記事で,現代の言語学史のハンドブックを1冊紹介した.言語学史の本も数あれど,私が名著だと思って何度も読み返しているのは,上記のイヴィッチ著『言語学の流れ』である.原著はセルボクロアチア語による Pravci u lingvistici (19563年)だが,これが1965年に Trends in Linguistics (Mouton) として英訳され,その英訳版に基づいて1974年に邦訳されたのが上掲の本である.
英米や西欧のみならずスラヴ系の言語学の伝統をも視野に入れた広い言語学史となっており,現代の多くの読み手には独特な雰囲気が感じられるかもしれないが,むしろ全体としては偏りの少ないすぐれた言語学史である.英米や西欧に慣れ親しんだ日本において,もっと読まれてよい言語学史の著作ではないかと思っている.以下に目次を掲げておきたい.
【 18世紀の終りまでの言語研究 】
1. 概論
2. 古代ギリシャの言語研究
3. インドの文法学派
4. ローマ帝国時代から文芸復興期の終りまで
5. 文芸復興期から18世紀の終りまで
【 19世紀の言語研究 】
6. 概論
7. 初期の比較言語学者の時期
8. アウグスト・シュライヒャーの生物学的自然主義
9. 言語学におけるフンボルト主義(世界観理論)
10. 言語学における心理主義
11. 若手文法学派
12. 「独立派」の代表者フーゴ・シュハルト
【 20世紀の言語研究 】
13. 概論
13.1 20世紀の学問の基本特徴
13.2 言語学発展の動向
14. 非構造主義言語学
14.1 言語地理学
方法の基礎 近代方言学
14.2 フランス言語学派
心理生理学的・心理学的・社会学的言語研究 文体論的研究
14.3 言語学における美的観念論
概論 フォスラーの学派 新言語学
14.4 進歩的スラヴ学派
カザン学派 フォルトゥナートフ(モスクワ)学派 ベーリチの言語間
14.5 マール主義
14.6 実験音声学
15. 構造主義言語学
15.1 発展の基本的傾向
15.2 フェルディナン・ドゥ・ソシュール
15.3 ジュネーヴ学派
15.4 音韻論の時代
先駆者 トルベツコイの音韻論の原理 プラーグ言語学サークル ロマーン・ヤーコブソンの二項論 音韻変化の構造主義的解釈
15.5 アメリカ言語学の諸学派
先駆者:ボアズ,サピア,ブルームフィールド 分布主義の時代 人類学的言語学 心理言語学
15.6 コペンハーゲン学派
学派の基礎づけ---ヴィッゴ・ブレナル イェルムスレウの言語学
16. 言語学における論理記号主義
16.1 論理演算学
16.2 記号学
16.3 言語学的意味論
17. 構文論と生成的手法
18. 数理言語学
18.1 概論
18.2 計量(統計)言語学
18.3 情報理論
18.4 機械翻訳
私自身が言語観を形成する上で,おおいに影響を受けた一冊である.
・ ミルカ・イヴィッチ 著,早田 輝洋・井上 史雄 訳 『言語学の流れ』 みすず書房,1974年.
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