名詞や動詞など大多数の語句は概念的情報を有している.一方,語句のなかには手続き的情報をもつものがある.吉村 (192) によれば,後者は次のような役割を果たす.
発話の聞き手が,どのような解釈の仕方をすればいいのかを指示する情報を持つ表現がある.このような指示が発話に含まれていると,聞き手は,余計な労力を使わず,発話の意味を正しく解釈することができる.処理労力を少なくすることによって発話の関連性達成に貢献するのである.このような表現を,手続き的情報を持つ表現という.
例として but の手続き的情報について考えてみよう.以下の2文は真理条件は同じだが,意味としては何らかの違いがあるように感じられる.
(1) She is a linguist, but she is quite intelligent.
(2) She is a linguist, and she is quite intelligent.
(1) は but が使われているために,前半と後半のコントラストが意図されているが,(2) にはそのような意図はない.(1) の聞き手は,but によるコントラストが成り立つように,話し手の想定 (assumption) が "All linguists are unintelligent." であることを割り出す.もしこの想定が正しければ she について導かれる帰結は "she is unintelligent" と想定されるはずだが,実際はむしろ逆に she is quite intelligent と明言されているのだ.つまり,当初の想定が打ち消されている.
聞き手にこのような解釈をするように指示しているのが,but の手続き的情報だと考えられる.吉村 (194) によれば「このような情報が聞き手に与えられると,余分な処理労力を使わずに話し手の意図した解釈にたどり着くことができる.手続き的情報を持つ表現は,聞き手の処理労力を減らすことによって,発話の関連性に貢献しているのである」.
他に手続き的情報をもつ語句としては,so, therefore, nevertheless, after all などの談話標識 (discourse_marker) や,oh, well などの間投詞 (interjection) が挙げられる.いずれに関しても,関連性理論 (relevance_theory) の立場から興味深い分析が示されている.
・ 吉村 あき子 「第4章 統語論 機能的構文論」『日英対照 英語学の基礎』(三原 健一・高見 健一(編著),窪薗 晴夫・竝木 崇康・小野 尚久・杉本 孝司・吉村 あき子(著)) くろしお出版,2013年.
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