hellog〜英語史ブログ

#4863. 動詞の意味を分析する3つの観点[verb][semantics][semantic_role][aspect]

2022-08-20

 昨日の記事「#4862. 動詞の「相」の3つの意味素性」 ([2022-08-19-1]) に引き続き,動詞 (verb) の意味について.小野 (135) によれば,動詞の意味を分析する際に3つの重要な観点がある.

 1. 意味役割 (semantic_role)
 2. 語彙概念構造 (lexical conceptual structure)
 3. アスペクト (aspect)

 1つめの意味役割とは,動詞の意味を成立させる各要素(=項 (argument))それぞれに割り振られた意味上の機能である.動作主 (Agent),対象 (Theme),場所 (Location),起点 (Source),着点 (Goal) などいくつかが設定されている.例えば Marvin traveled from Boston to San Francisco. という文において,動詞 traveled を中心として周囲に配される項の意味役割をみてみると,Marvin が動作主かつ(移動の)対象,from Boston が起点,to San Francisco が着点となる.このように意味の観点から諸項が作り出す構造を,統語構造とは区別して,項構造 (argument structure) と呼ぶ(小野,p. 137).
 2つめの語彙概念構造とは,語彙的意味の成分分析 (componential analysis) の方法である.例えば ride, swim, run という動詞には,いずれも [GO+MANNER PATH] という意味成分が共有されていると考えることができる.この共通項のもとで,MANNER の詳細としてそれぞれ「乗り物に乗って」「泳いで」「走って」という独自の付加的意味が書き込まれるのだと考える(小野,p. 139).
 3つめのアスペクトは昨日取り上げた通りである.
 各動詞に個別の意味があることは確かだが,語彙意味論の立場からは,なるべく多くの動詞の意味を一般的に記述するために,なるべく少数のパラメータを設定するのが望ましい.上記3つの観点は,その試みの1つである.

 ・ 小野 尚久 「第5章 語彙意味論」『日英対照 英語学の基礎』(三原 健一・高見 健一(編著),窪薗 晴夫・竝木 崇康・小野 尚久・杉本 孝司・吉村 あき子(著)) くろしお出版,2013年.

Referrer (Inside): [2022-08-25-1]

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