hellog〜英語史ブログ

#2824. My pleasure のすすめ (2)[adjacency_pair][politeness][pragmatics]

2017-01-19

 [2017-01-16-1]の記事に引き続き,my pleasure という表現について.OED によると,Thank you. への応答としての (it is) my pleasure の初出は1950年とあり,新しい語法であることが分かる.しかし,原型となる用法は以前からあった.pleasuremy などの所有格とともに用いられると「?の意志・望み」 ("that which is agreeable to or in conformity with the wish or will of the person specified; will, desire, choice.") の意となり,15世紀より次のような例が見られる.

 ・ 1485 Caxton tr. Lyf St. Wenefryde 2 Whiche..aroos & humbly demaunded hym what was his playsir.
 ・ a1500 (c1370) Chaucer Complaint to his Lady 120 With right buxom herte hooly I preye, As your moste plesure, so doth by me.


 MED でいえば,plēsīr(e (n.) の 1(d) の語義が,これに相当する.この語義は現代でも I'd go out and dance the hootchie-kootchie buck naked if that was her pleasure and mine. のような例文に見られ,現役である.この語義を基盤として,標題の会話における語用的表現が現代英語期に発達したのだろう.この語義と関連する句としては,at one's pleasure, to one's pleasure なども中英語期から使われていた.
 一方,標題の「どういたしまして」の用法ほど新しくはないが,申し出に対する応答としての「喜んで」を意味する With pleasure. も初出はかなり遅い.OED では初出が1836年の Dickens となっている.

1836 Dickens Pickwick Papers (1837) ii. 12 'Glass of wine, Sir?' 'With pleasure,' said Mr. Pickwick---and the stranger took wine; first with him..and then with the whole party together.


 My pleasure. にせよ With pleasure. にせよ,pleasure という語を含む句が,比較的最近になって,ある種のポライトネス (politeness) を含意しつつ語用化したということになる.動詞形 please に由来するポライトネスを標示する同形の間投詞が,初期近代英語以降に発達した事実と合わせて,pleasure 周辺はここ数世紀の間「語用づいている」と言えるだろう.please の発達については,「#2644. I pray you/thee から please へ」 ([2016-07-23-1]) を参照.

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