hellog〜英語史ブログ

#2821. My pleasure のすすめ[adjacency_pair][pragmatics]

2017-01-16

 Thank you. に対しては,You are welcome., Don't mention it., Not at all., No problem., など様々な応対の仕方がある(adjacency_pair を参照).変種,格式・略式の別,状況によってどれがふさわしいかは異なるが,日本語の「どういたしまして」に相当する.実際には,日本語では「ありがとう」に対して「どういたしまして」と返す機会は多くなく,無言だったり,せいぜい「いえいえ」で済ましたりすることも多い.
 英語でのもう1つのよくある言い方として It's a pleasure.My pleasure.The pleasure is mine. という表現がある.用例を見てみよう.

 ・ Thanks for doing that. --- It's a pleasure.
 ・ Thanks for coming. --- My pleasure.
 ・ It was so kind of you to give us a lift. --- Don't mention it - it was a pleasure.

 よくよく考えると,my pleasure という表現は,なかなか味わい深い.No problem. や「どういたしまして」ほど控えめではなく,You are welcome. ほど積極的でもなく,自分に引きつけて「我が喜び」と表現するあたり,すがすがしく感じが良い.これまで,私も英語を話すときには You are welcome.No problem. くらいしかヴァリエーションがなかったが,もっと積極的に My pleasure. を使っていこうと思った次第である.
 そんなことを思ったのは,柳家小三治『ま・く・ら』に所収の「「マイ・プレジャー」のすすめ」を読んで爆笑したからである.小三治が,聞き知った件のフレーズを,ある機会に使ってみようと思い立ったが,なぜか口から出てしまったのは「ユア・ピース」だったという落ちである(ネタバレ,すみません).いや,温かい.さすが人間国宝.
 なお,pleasure /pˈlɛʒə/ という発音の発達は複雑なようだ.14世紀後半にフランス語から plesir(e) /pleˈziːr;/ として借用されたが,世紀の変わり目までに散文では強勢が第1音節へ移り /ˈpleziːr/ となった.次に,1500年頃に語尾が measure などにつられて -ure となり,さらにその後に第1音節母音が短化して,現在の発音の原型が成立したという.
 関連して,pleasure に対応する動詞は please だが,please のポライトネス (politeness) について「#2644. I pray you/thee から please へ」 ([2016-07-23-1]) を参照されたい.

 ・ 柳家 小三治 『ま・く・ら』 講談社,1998年.

Referrer (Inside): [2017-01-19-1]

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