初期中英語で書かれた,梟とナイチンゲールの2者による論争詩 The Owl and the Nightingale を Cartlidge 版で読み進めている.2者は,それぞれの人生観を言葉で議論し合っているのであり,肉体的に争っているわけではない.しかし,議論に関する表現には,肉体的な戦闘に用いられる語句がしばしば流用されており,そのような語句だけをピックアップすると,さながら果たし合いのバトルが繰り広げられているかのようだ.テキストを読んでいると,これぞ概念メタファー (conceptual_metaphor) としてよく知られた "ARGUMENT IS WAR" そのもの,というふうに見える(「#2548. 概念メタファー」 ([2016-04-18-1]) を参照).
テキストには,文(言葉)と武(武器)による戦いの描写が,ある意味では比喩的に,ある意味では対比的に用いられている箇所がしばしば見られるが,とりわけ ll. 1067--74 の箇所がレトリック的にすぐれていると思う.ナイチンゲールが梟の言いぐさに腹を立て,まさに反論しようとしている箇所の記述である.以下に引用しよう.
Þe Niȝtingale at þisse worde
Mid sworde an mid speres orde,
Ȝif ho mon were, wolde fiȝte:
Ac þo ho bet do ne miȝte
Ho uaȝt mid hire wise tunge.
"Wel fiȝt þat wel specþ," seiþ in þe songe:
Of hire tunge ho nom red.
"Wel fiȝt þat wel specþ," seide Alured.
Cartlidge の現代英語訳(意訳)も引用しておこう.
At these words the Nightingale would have fought with sword and spearpoint had she been a man: but, since she couldn't do any better, she fought with her wise tongue instead. "To fight well, speak well," as the song goes: and so she looked to her tongue for a strategy. "To fight well, speak well," that's what Alfred said.
味読すべき部分は少なくない.
・ l. 1067 worde と l. 1068 orde の脚韻.文と武の対比がよく出ている.ただし,両語の母音は,厳密には同一ではない可能性もある(「#2740. word のたどった音変化」 ([2016-10-27-1]) を参照).
・ l. 1070 wolde と l. 1071 ne miȝte の対比.「したい」のに「できない」もどかしさ.
・ l. 1071 tunge と l. 1072 songe の脚韻.「文」の側に属する縁語(さらに l. 1073 tunge も合わせて).ただし,ここでも,同一母音で押韻するのかどうか,疑惑あり.
・ 全体が,文武両道の名君 Alured の格言として引用されているのもまた一興.
l. 1070 や l. 1072 の韻律も規則的ではなく完璧とはいえないかもしれないが,この箇所は The Owl and the Nightingale における "ARGUMENT IS WAR" を味わうには最良の箇所と思ったので,メモしておいた.
ちなみに,この箇所に付されている注によれば,ここは皮肉とも読めるという.これまた,おもしろい.
It is incongruous to imagine the Nightingale wielding such implements . . . and ironic that the narrator here implicitly associates reason with the animals and unrestrained violence with people.
・ Cartlidge, Neil, ed. The Owl and the Nightingale. Exeter: U of Exeter P, 2001.
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