hellog〜英語史ブログ

#2091. <w> に後続する母音の発音[pronunciation][spelling][vowel][assimilation]

2015-01-17

 現代英語で母音字 <a> は様々な母音に対応するが,多くは cat /kæt/ や face /feɪs/ に代表される /æ/ か /eɪ/ かである.特に注意を要するのは,<w> の後に <a> が続くケースである.want, war は通常の綴字と発音の規則に従えばそれぞれ */wænt/, */wɑː/ となりそうだが,実際には /wɒnt/, /wɔː/ である.音声学的にいえば,母音が予想されるよりも後ろ寄りかつ円唇となる.<w> で表される半母音 [w] 自体が著しく後ろ寄りで円唇であるため,その特徴が後続する母音にも影響を与えたという意味で,一種の進行同化を反映しているものととらえられる.swan, wan, what, dwarf などにより,この効果を確認されたい.
 ただし,上のような例を説明する小規則にも例外が多いので注意が必要である.具体的には,短音の a に軟口蓋音 [k, g, ŋ] が続く場合には,上記の同化が阻止され,大規則で予想される通りの前舌母音 /æ/ になる (ex. wax; wag, wigwag, swag, swagger; twang, wangle) .
 また,活用形においても a は大規則で予想される通りになり,同化の影響は反映されない (ex. swam /swæm/, worn /wɔːn/) .
 <w> の影響は,同じ [w] 音を含む <qu> にもおよそ当てはまる.quality は予想される */ˈkwæləti/ ではなく,後ろ寄りで円唇化した母音を示す /ˈkwɒləti/ である.squat も同様であり,r が後続するときには quarry /ˈkwɔːri/, quarter /ˈkwɔːtə/ のようになるのも,<w> の場合と同じだ.<qu> についての例外も <w> の場合とおよそ同じであり,軟口蓋音が続く quack では /kwæk/ となる.ただし,quaffquagmire など両母音の間で揺れを示すものもあり,個々に考える必要がある.
 上では,<wa>- と <qua>- について見てきたが,<wo>- と <quo>- についても少し触れておこう.<o> から予想される短音は /ɒ/ であり,wobble, wok, quod, quondam などに示されるが,<wo>- については won /wʌn/, wolf /wʊlf/ など異なる母音が対応するケースもある.<wor>- については,通常は /wəː/ (ex. word, world, work, worm) だが,/wɔː/ (ex. wore , sworn) となることもある.
 <w> で表される /w/ はその調音上の著しい特徴により後続母音が影響を受けやすいが,他の音環境や類推などの作用も働くため,綴字と発音の関係づけについて一般化が難しい現状となっている.詳しくは,大名 (41--43) を参照されたい.

 ・ 大名 力 『英語の文字・綴り・発音のしくみ』 研究社,2014年.

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