先日,中英語のテキストで sow (雌豚)に出くわし,[sū] と音読していたところ,この母音が swine の母音と i-mutation の関係にあるなと気づき,語源辞典を繰ってみた(i-mutation については,[2009-10-01-1]の記事「#157. foot の複数はなぜ feet か」を参照).以下,調べた内容をメモ.
成長した繁殖用の雌豚を表わす sow [saʊ] の語源をたどると,ME soue < OE sugu < Gmc *suȝō < IE *sū- "pig" へと遡る.関連する諸語における cognate は,G Sau, ON sýr, L sūs, G hûs など.(/h/ と /s/ の対応については[2010-04-14-1]の記事「#352. ラテン語 /s/ とギリシャ語 /h/ の対応」を参照.)
主として集合的に用いられる古風あるいは専門的な語としての豚を表わす swine (豚)については,OE swīn < Gmc *swīnam < IE *suəīno- "pertaining to swine" へと遡る.IE の形態は,*sū- に接尾辞がついたもので,同種の接尾辞は OE gǣten "of goats" などにも見られる.この接尾辞は,[2010-04-18-1]の記事「#356. 動物を表すラテン語形容詞」で挙げた bovine や feline に見られるラテン語の形容詞接尾辞とも同根だろう.案の定,この接尾辞に含まれる前母音が i-mutation を引き起こした元凶だったのだ.
BrE pig の代わりに AmE で通常に食用の雄豚の意味で用いられる hog も,語源的には IE *sū- に遡る.Celt. *hukk- から後期古英語へ hogg として借用されたものである.
この印欧語根と関係する意外な語に,hyena (ハイエナ)がある.この語は古フランス語から中英語へ hiene として入ったもので,遡れば上記の G hûs に女性語尾 -ainā が付加された派生形にたどり着く.
さて,現代英語で最も一般的に豚を表わす語である pig はというと,詳しい語源は分かっていない.初出は中英語で,古英語に遡る形態はないものの,docga "dog" や frocga "frog" との比例で *picga が提案されている.また,突き出た鼻との連想から pick や pike との関連を指摘する説もある.古英語,中英語では swine, hog が一般的に用いられていたが,19世紀以降に pig が優勢となった.
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