hellog〜英語史ブログ

#425. ロマンスからゲルマンへの回帰現象[germanic][romancisation]

2010-06-26

 英語は,中英語期から近代英語期にかけて広範なロマンス語からの影響を受けた.フランス語,ラテン語からの借用語を豊富に受け入れてきたことは,このブログでも幾度となく取りあげてきた ( see french, latin, and loan_word ) .ただし,語彙だけでなく統語についてもある程度の影響を受けてきたことは見過ごすことはできない.例えば,

 (1) 疑問視と同形の関係詞 ( which など ) の使用の拡大
 (2) s-genitive に代わって of-genitive が分布を広げてきたこと
 (3) 「名詞 A +名詞 B」という複合語が「名詞 B of 名詞 A」という句で表されることが多くなったこと
 (4) 強勢が第一音節以外に落ちる語が増えて英語本来の prosody が変容してきたこと
 (5) 比較級・最上級に屈折形 ( -er, -est ) ではなく迂言形 ( more, most ) が頻用されるようになったこと

などはロマンス語的な特徴を反映しているとされる.しかし,近代英語期から現代英語期にかけて,上記の5点に関する限り,ロマンス語的な統語特徴が薄れ,ゲルマン語的な統語へと回帰する兆候が見られるようになってきている.

 (1) 昨日の記事[2010-06-25-1]でみたとおり,疑問視と同形の wh- 関係詞は減少傾向にある
 (2) s-genitive が勢力を広げつつあるといわれている
 (3) 1750年以降の創作散文において名詞連結が大増加したとの報告がある ( Leonard, p. 4 quoted in Leech and Smith, p. 202 )
 (4) ロマンス系借用語でも強勢が徐々に語頭に移ってきている
 (5) [2010-06-04-1]の記事でみたように屈折形の比較級・最上級 ( -er, -est ) が分布を広げつつある

 (1), (2), (3) については Leech and Smith (197) を参照.ゲルマンへの回帰現象が近代英語期以来の潮流であるという可能性を支持するような例は,ほかにあるだろうか?

 ・ Leech, Geoffrey and Nicholas Smith. "Recent Grammatical Change in Written English 1961--1992: Some Preliminary Findings of a Comparison of American with British English." The Changing Face of Corpus Linguistics. Ed. Antoinette Renouf and Andrew Kehoe. Amsterdam and New York: Rodopi, 2006. 185--204.
 ・ Leonard, R. The Interpretation of English Noun Sequences on the Computer. Amsterdam: North Holland, 1984.

Referrer (Inside): [2010-06-29-1]

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