英語を話すアングロサクソン人が5世紀に渡来してくるまで,ブリテン島は長らく「ケルトの島」でした.ケルトの文化的遺産は,文学や言語などに色濃く残っています.言語 的にはとりわけイギリスの地名にケルト的要素が豊富に残されているほか,英語の語彙にも数は少ないながらも精妙な影響を及ぼしています.英語が実は雑種の言語であることを 理解するためには,多言語国家イギリスの原点であるケルトについて知っておくことが必要です.
「ケルト人」とは(『ケルト文化事典』)
ケルト人とは,出自は異なるものの,ケルト語といわれる言語を話す諸民族の総体である.ケルト人という言葉には人種を暗示する意味はない.社会的,文化的な構造と関係しているだけである.それにこの名称が用いられるようになったのはごく最近のことで,人間集団をその特殊性に基づいて手軽に類別するのに使われるようになった.
いわゆるケルト民族は,前5世紀からヨーロッパ大半の地域に住んでいた.イギリス諸島(大ブリテン島,アイルランド島,チャンネル諸島ならびに隣接する島々)はいうまでもなく,ライン河口からピレネー山脈へ,さらに大西洋からボヘミアにいたる地域まで,北イタリアやスペイン北西部を巻き込む形で居住していた.
現在,ケルト語を話しているケルト民族は,アイルランド人,北スコットランド人,マン島人,ウェールズ人,ブリトン人(古名はアルモリカ人),英国コーンウォール州に住む相当数のコーンウォール人である.しかし,ケルト語をもはや話さない諸民族の間でケルト的なものが生き残っていることもある.遠くさかのぼれば,古代ケルト人の伝統や気質を温存させている諸民族である.いわゆる「ガロ語」(東部ブルターニュ方言)を話すブルターニュ,スペイン北西部のガリシア地方,英語圏のアイルランド,フランスやベルギーのある地域の場合がそうである.
時代ごとにサンプル借用語 (W = Welsh, G = Scottish Gaelic, Ir = Irish)
その他の雑多な借用語(と疑われるもの)
基層言語影響説 (substratum theory) への賛否両論 (#1342)
時間上のギャップの問題:ケルト語の影響は5世紀(以降)だが do 迂言法の発生は13世紀
オガム文字:20文字からなるアルファベット.アイルランドに多く残る.横書きも縦書きも可.ルーン文字と関係?) (#2489)