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proverb - hellog〜英語史ブログ

最終更新時間: 2024-11-22 17:50

2011-06-16 Thu

#780. ベジタリアンの meat [semantic_change][proverb]

 昨日の記事「Cornish と Manx」 ([2011-06-15-1]) で Cornish pasty に軽く言及した.LDOCE5 により "a folded piece of pastry, baked with meat and potatoes in it, for one person to eat" と定義される大きな D 形のコーニッシュ・パイは,英国内はもちろんのこと欧米で広く食されており,その生産は Cornwall の主要産業の1つともなっている.ロンドンなどの街角では Cornish pasty shop はよく目にする.
 このパイと Cornwall との結びつきの由来は定かではないようだが,17,18世紀の Cornwall のスズ坑夫の手軽な弁当として発展してきたものといわれる.ボリュームがあり,冷めにくく,手で食べられるのが魅力だったのではないか(ボリュームがありすぎてビールのお供にというつもりで夜中に食べると胃がもたれるので注意).詳しい蘊蓄と写真は Wikipedia: Pasty を参照.
 パイにも様々な種類があるが,特にクリスマスに食される mince pie というパイがある.LDOCE5 によると "a pie filled with mincemeat, especially one that people eat at Christmas" とある.甘い菓子パイで,Google 画像で写真をみれば,あれのことかと思い当たるのではないだろうか.
 この mince pie の詰め物のことを mincemeat という.mincemeat の定義を CALD3 でみると,"a sweet, spicy mixture of small pieces of apple, dried fruit and nuts, (but not meat), which is often eaten at Christmas in mince pies" とある.ここから mincemeat には意外なことに肉が入っておらず,それを詰め物にした mince pie がベジタリアン食であることが分かる.
 meat の本来の意味と意味変化について知っていれば,これは不思議なことではない.meat は古英語では「食物;食事」の意であり,「肉」の意に限定されてきたのは13世紀以降のことである.ここでは意味の特殊化 ( specialisation ) が生じていることになる(意味の特殊化の他の例は,[2009-09-01-1], [2010-08-13-1], [2010-12-14-1], [2010-12-15-1], [2011-02-15-1]の記事を参照).
 The Authorized Version of the Bible では meat は「食物;食事」の意でしか用いられていないが,それを除けば,現代英語では上記の mincemeat や下記の少数の慣用表現・諺に古い語義が認められるのみである.

- before [after] meat 「食前[食後]に」
- green meat 「青物」
- meat and drink 「飲食物」 cf. meat and drink to sb 「?にとって何よりの楽しみ」
- One man's meat is another man's poison. 「甲の薬は乙の毒(=人の好みはさまざま)」
- sit down to meat 「食卓につく」
- sweetmeat 「砂糖菓子」

Referrer (Inside): [2018-08-22-1] [2014-09-02-1]

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2010-11-12 Fri

#564. Many a little makes a mickle [article][proverb]

 標題の文は「ちりも積もれば山となる」を意味する諺である.mickle は,古英語でごく普通に用いられた micel "much" が,対応する古ノルド語 mikill に音韻的な影響を受けて,中英語で mikel となったものに由来する.現在,mickle はスコットランド方言などで行なわれているが,標準語では古風である.
 しかし,ここで問題にしたいのは many a little という表現である.この little は「少量」の意味の可算名詞と考えてよいが,これに many を付加するのであれば many littles となりそうである.ところが,many a で修飾されている.現代でも,「 many a + 名詞単数形」という構造は古風で格式ばっているものの,「many + 名詞複数形」と同等の意味を表わすことができる.この構造は単数名詞扱いとなり,上の諺の makes が示しているように,対応する動詞は単数受けするのが特徴である.
 この構造は中英語では当たり前のように用いられていた.それどころか,不定冠詞の発達していない古英語,また発達過程にあった中英語では「 many + 名詞単数形」の構造すら用いられていた.現代的な「 many + 名詞複数形」の構造は古英語期にも存在はしたが,使用が広がっていくのは中英語以降のことである.古英語で最も普通に「多数の」の意を表わした fela (典型的に複数名詞を伴った)と組み合わさった「 many fele + 名詞複数形」という構文が中英語にしばしば現われるが,これが「 many + 名詞複数形」の構造の拡大に一役買った可能性はあるかもしれない.
 「多数の」という意味を考えると many に不定冠詞 a(n) が続くのは不思議に思えるかもしれないが,ここには,all に対する everyeach と同様に,多数あるものの一つひとつの個別性を重視する発想があると考えられる.「 many a(n) + 名詞複数形」のほうが多数であることをより強調する効果があるとも言われるが,(逆説的ではあるが)この構造が個別性に着目しているがゆえだろう.

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