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doublet - hellog〜英語史ブログ

最終更新時間: 2025-04-24 09:28

2009-07-13 Mon

#76. Norman French vs Central French [norman_french][doublet]

 昨日の記事[2009-07-12-1]で,英語の waffle と フランス語の gaufre の対応に言及した.このペアにみられる語頭の子音 /w/ と /g/ の差はフランス語の方言の差に起因する.
 1066年のノルマン人の征服を契機に,中英語期だけでも約1万ものフランス語単語が借用された.中英語前期のノルマン王朝の時代に英語に入ってきたフランス借用語は,主にノルマン方言 ( Norman French ) の形態だった.それに対して,中英語中期以降に英語に入ってきた借用語は,中央のパリ方言 ( Central French ) の形態だった.NF と CF には子音や母音の音韻対応があり,そのうちの一つが /w/ と /g(u)/ だった.
 wafflegaufre の例でいえば,前者が /w/ をもつ NF 形,後者が /g/ をもつ CF 形である.同様に,1066年に征服をなしとげてイングランド王として即位した William の名は,フランス語では Guillaume 「ギヨーム」と発音される.ここでも,前者は /w/ をもつ NF の形態であり,後者は /g/ をもつ CF の形態である.
 さて,英語の側は,フランス語の方言間のそんな対応を知ってか知らずか,語源的には同一のフランス単語を別々の時期に,かたや NF から,かたや CF から借り入れたので,両形態が共存する結果となった.このような一対の語を二重語 ( doublet ) という.以下に,/w/ と /g(u)/ の対応を示す二重語のペアを,初出年代とともに挙げよう.添えた日本語訳は現代英語における代表的な意味である.

NF CF
warden 「番人」 ?a1200 guardian 「守護者」 1417
warison 「攻撃開始の合図」 ?a1300 garrison 「駐屯地」 a1250
warranty 「保証(書)」 a1338 guaranty 「保証(書)」 1592
reward 「報いる」 ?a1300 regard 「みなす」 1348


 上に述べた経路とは少し異なるが,もともとゲルマン語の単語で /w/ をもっていたものが,フランス語へ借用されて /g(u)/ となったものも多く,この経緯で /w/ と /g(u)/ が英語の中で共存しているという例も少なくない.war -- guerilla, ward -- guard, wile -- guile などを参照.

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2009-07-12 Sun

#75. ワッフルの仲間たち [etymology][doublet][triplet][norman_french]

 ベルギーワッフルは日本でも有名だが,本場ベルギーのワッフルはとてつもなく旨い.何年か前にベルギーを訪れたときの話である.ベルギーでは街路にワッフルスタンドが立っており,人々の日常的なおやつだ.熱々のチョコを,熱々のワッフルにかけたものを,熱々のまま口に運ぶときの,あのサクサクフワフワ感は日本ではとても味わえない.もともとはベルギービールとムール貝を楽しみに訪れたのだが,結果的にベルギーワッフルにもはまってしまった.
 だが,チョコワッフルはさすがに甘さがくどい.普通の蜂蜜味のほうが好みである.ベルギーワッフルには蜂蜜がマッチするのはなぜか,それは語源を考えるとわかる.waffle は,遠く weave 「織る」と起源を一にする.自然の作り出した織物である web 「クモの巣」はその関連語だし,waffle も本来はもう一つの自然の作り出した織物,すなわち「蜂の巣」の意味を表した.ワッフルには確かに,蜂の巣のような編み目がついている.そう考えると,ワッフルに蜂蜜がマッチしないわけがないのである!
 さて,waffle が英語に借用されたのは17世紀であり,中期低地ドイツ語 ( Middle Low German ) からオランダ語 ( Dutch ) を経て入ってきたらしい.ところが,同じ中期低地ドイツ語の形態が,古フランス語のノルマン方言 ( Old Norman French ) を経由して,ずっと早く13世紀末に英語に入ってきていたのである.それが,wafer 「ウェファース,ウエハース」である.なるほど,ウェファースとワッフルは洋菓子としては似ている.蜂の巣さながらの網の目は共通である.
 一方,中期低地ドイツ語の形態が標準フランス語 ( French ) へ入った gaufre 「ゴーフル」は,日本語に借用されており,我々にはなじみ深い.
 かくして,日本語の「ワッフル」「ウェファース」「ゴーフル」はいずれも一つの語源に遡るわけである.ただ,それぞれがたどってきた言語(方言)が異なるだけである.図にまとめると次のようになるだろうか.

waffle and wafer and gaufre

 英語では 二重語 ( doublet ),日本語では 三重語 ( triplet ) となっている.
 これを知ったあとで,「ワッフル」「ウェファース」「ゴーフル」のうち,どれを食べたくなったろうか?

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